6.
ママの手作りパンケーキとカリカリのベーコン、そして目玉焼きを目の前にしても、私は虚ろな表情を浮かべていた。
あんな夢を見たせいだろうか。朝から頭が重くて、目玉焼きをつつきながらぼんやり考え込んでしまう。
オレンジジュースを差し出しながら、ママが心配そうに尋ねる。
「顔色が悪いわよ。どこか具合でも悪いの?」
「……嫌な夢を見ちゃって」
私はパンケーキを切り分けながら、うつむいて答えた。
「だったら忘れちゃいなさい。ドリームキャッチャーでも飾れば?」
「私、ドリームキャッチャーなんて持ってないし……」
そのとき、仕事部屋からパパが肩を回しながら現れた。
「どうしたんだい、二人ともそんな深刻な顔をして」
「エミリーが悪い夢を見たって言うのよ。だからドリームキャッチャーを探しなさいって」
ママが笑顔でパパに説明する。
パパは顎に手を当て、しばらく考えてからぽつりと言った。
「ドリームキャッチャーなら、地下室で見かけた気がするな」
「あら、家にあったのね。エミリー、探してきなさいよ」
「別に……たかが夢だし」
私は残りのパンケーキを口に押し込みながら、嫌々ながら頷いた。
朝食後、私は重い足取りで暗く湿った地下室へ向かった。
ひんやりとした空気とカビ臭さが鼻を突き、天井からぶら下がる裸電球がチカチカと不規則に瞬いている。
床に転がった木箱の一つの蓋をそっと開けると、中には埃をかぶった古い人形や錆びた工具が詰まっていた。
がさり、と何かが隣の箱の中で動いたような気がして、思わず息を呑む。
箱の中を漁ると、底の方に薄汚れた布と天然素材の輪が絡み合うようにしてぶら下がっているのを見つけた。
──ドリームキャッチャーだった。
指先でそっと紐をなぞると、ふいに部屋中の空気が凍りついたような気がした。
背後からかすかな囁きが聞こえ、思わず振り返る。しかし、そこには誰もいない。
硬直したままキャッチャーを抱え、私は必死に階段を駆け上がった。
振り返ると、暗い階段の奥で何かが蠢いているように見えたが、確かめる余裕もなく一気に扉を閉めた。
息を切らしながらリビングへたどり着くと、ママが驚いた顔で駆け寄ってきた。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
手の中のドリームキャッチャーを差し出すと、ママは目を細めてそれを受け取った。
「これを飾ってみましょう。エミリーが安心できるなら、どこでもいいから」
そのとき、どこからか小さく「たすけて……」と誰かの声が聞こえた。
私は凍りつき、その場で硬直した。
「今の声、聞こえた?」
ママに尋ねるが怪訝な顔をしている。
「今聞こえたでしょ? “たすけて”って誰かの声が!」
ママは飽きれたように頬に手を当てた。
「本当に疲れてるのねエミリー。早くドリームキヤッチャーを部屋に飾ってきなさい」
そう言うとママは朝食後の食器の片付けを始めた。
私は言われるがまま二階に向かう。小さく軋む階段の音にさえ何かのささやき声に聞こえてしまう。
自分の部屋に入った私は後ろ手に扉を閉めて、ベッドに乗ってドリームキヤッチャーを飾った。果たしてこれで効き目があるのだろうか?
この家には何かある。私の直感がそう訴えてる。
今の所私しかそれを感じていない事が問題だった。
何故私だけなの? この家の異常は何が原因なの?
必死に考えるけど答えは出なかった。