5.
パパとママの家のリフォームは、たまに小さなトラブルに見舞われながらも着々と進んでいた。まるで幽霊屋敷だった過去が嘘のように、室内は新品へと生まれ変わっていく。
床板はすべて張り替えられ、かすかな軋みさえ消えた。リビングはニューヨーク時代より広々とし、暖炉は冬が来るのが待ちきれないとそこで待機している。惜しいのは、暖炉の真正面にノアのプレイテントが鎮座し、せっかくの新しい景観を少しだけ台無しにしている点くらいだろうか。
キッチンはママの理想が詰まった空間へと大変身。二階もそれぞれの好みに合わせて模様替えされ、私の部屋はビビッドオレンジの壁に雑誌の切り抜きやミニランプをあしらったギャラリーのようになった。友だちとの写真を並べながらも、ふと我に返ると「まだニューヨークに戻る気持ちを捨ててはいない」と自覚する自分がいる。
クロエの部屋はまさに女の子の夢そのものだし、ノアの部屋は両親が好き勝手に飾り付けたテーマパークの一角のようだ。地下室では、パパがときおり古びた雑貨を掘り出し、「これ、使えそうだな」と嬉しそうに顔をほころばせている。
私は騒々しい家から離れ、森へ足を運ぶのが日課になっていた。ひっそりとした小川にそっと足を浸し、冷たい水面に映る木漏れ日を眺めながら、一人の時間を心ゆくまで楽しんでいた。
ある夜、バスルームを出た私は喉の渇きに誘われ、キッチンへ降りていった。水道のレバーを捻り、コップに注いでひと口――その瞬間、リビングからかすかな機械音が聞こえてきた。
そっとリビングへ足を運ぶと、パパが地下室で見つけた古いレコードプレーヤーが勝手に動いていた。誰かが消し忘れたのだろうと、ためらいながら針を浮かせる。あくびをひとつして部屋を出ようとした時、背後からか細い女性の声が漏れた。
「……て……けて……たす、け……て……」
思わず振り返ると、再び針が盤に落ちている。心臓が跳ね上がり、私は深く息を吸い込む。「古い機械のノイズに違いない」と自分に言い聞かせてまた針を浮かせた。
その夜、私は忌まわしい夢を見た。両親の寝室で、パパが斧を手にママを見下ろしている。――そしてパパはためらいなく斧を振り上げた。
ハッと飛び起きると、深い闇の中で自分がベッドにいることに気づいた。安堵と同時に、胸を打つ鼓動は一向に静まらない。パパがママにそんなことをするはずはないのに――。