13.
ノアは右足をひねっただけで済んだ。神父様の加護を感じずにはいられない。家族全員、リビングのソファにぎゅうぎゅうに詰まりながら、ようやく胸の奥に安堵が広がっていった。
「ねぇね、僕、全然怖くなかったよ。ねぇねが助けてくれるって信じてたから」
ノアが無邪気に腰にしがみついて言う。クロエも、すっかり元気な笑顔に戻り、
「変な声、もう聞こえないの。すごく静かで落ち着くわ」
と目を輝かせる。
パパは額の火傷を指先でそっとなぞりながら、医師に説明した苦労話をぽつりぽつりと打ち明ける。熱せられたパレットナイフにぶつかったと言うが、恐怖の真相には誰も触れなかった。
「信じてもらえたかどうかは分からないけど、深追いはされなかったよ」
ママがパパの額にそっとキスを落とし、「もうあんな大騒ぎは嫌だわ、疲れるもの」と笑う。パパは申し訳なさげに視線をそらした。
「ねえ、パパ。どれだけ覚えてるの?」
私の問いに、パパは首をかしげ、
「全部、夢の中の出来事みたいで……薄いフィルター越しに見てた感じだ。気分は最悪だったけど、もう大丈夫さ。地下室の絵は全部燃やすよ」
ときっぱり言い切った。
「じゃあ仕事部屋の雑貨は?」
「雑貨屋か質屋にでも売り飛ばして片づける」
私はそっとパパの肩に頭をもたれさせる。
「私、しばらくニューヨークには戻らない。ここでできることを見つけたいの」
パパが優しく問いかける。
「後悔しない?」
「後悔してもいいの。失敗も苦労も、全部未来の糧になるって信じてるから」
「ずいぶん大人になったわね、エミリー」
ママが涙声で笑う。
「私がしっかりしないと、誰がパパとママのケンカを止めるの?」
意地悪く返すと、パパもママも思わず吹き出した。
その笑い声を聞きながら、私は心の奥で静かに誓った。あの日を乗り越えた自分なら、どんな困難もきっと乗り越えられる──今なら、そう強く思える。
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