11.
家に着いたのは、すでに昼過ぎだった。
玄関を開けると、真っ赤な顔のママが飛び出してきた。
「エミリー、どこ行ってたの!? パパと森の中ずっと探してたのよ! 何度もスマホに連絡したのに……もう、心臓が飛び出しそうだったわ」
そう言いながら、息を切らしたまま私を強く抱きしめた。その温もりに、思わず胸が熱くなる。
腕を振りほどいて、私は覚悟を決めて言った。
「ごめんね……教会に行ってたの」
ママの目が大きく見開かれ、一瞬言葉を失う。
「教会……?」
「パパ、最近おかしいよね? あれはこの家の“何か”のせいだと思うの」
ママは不安そうに眉をひそめた。
「家が……? そんなこと言わないで」
私は深呼吸して、神父様から聞いた事をを話し始めた。
「昔、この家で五人家族の事件が二度あったの。父親が家族を殺したあと、自ら命を絶ったっていうの」
ママの手が微かに震え、声を震わせる。
「信じられない……」
「でも本当なの。もし放っておいたら、私たちが三件目の被害者になるかもしれない。何がこの家を動かしてるのか、突き止めたい」
しばらく沈黙したあと、ママが絞り出すように言った。
「最近、パパが夜中に私の枕元に立ってるの。何もしないけど……見られている気配が消えないのよ」
私は軽くうなずいた。
「それは、過去の父親たちの霊がパパに影響を与えてるせいかもしれない。神父さんも、過去に一件目の家族の娘が教会に助けを求めに来たって言ってた」
ママの眼差しが揺れる。
「じゃあ私たちも……?」
「クロエたちはまだ悪意を知らない。でも私は毎晩、パパが家族を殺す悪夢を見るの」
私は声を潜めて言った。
「パパが執着している地下室に、何か手がかりがあるはず。まずはそこを調べたい。その間、パパが地下室に来ないように二階に呼び寄せてほしいの」
ママは大きく息を吐き、こわばった声で言った。
「わかったわ。でも絶対に無理はしないで。危険を感じたら、すぐ戻ってきてね」
「うん。怖いけど、このままじゃ家族は壊れてしまう。元に戻すために、どうしても見つけたいの」
ママは祈るように目を閉じ、小さくつぶやいた。
「神様……エミリーを守ってください」
見えなくても、神様はいつもそばにいると神父様は言っていた。私の胸に、確かな勇気が静かに満ちていくのを感じた。




