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神バグとの遭遇

 六・零:静寂の創造主、バグの根源

 魔王化の危機を乗り越え、ユウマたちはバグ空間のさらに深部へと足を踏み入れていた。久留米の街並みは、もはや原型を留めていない。ビル群は溶解したポリゴンのように歪み、筑後川は七色の光を放つデータストリームと化していた。彼らは、まるで意識の深淵を漂う魂のように、無数のエラーコードが渦巻く虚空をひたすら進む。

「ミコ、この空間の識別コードは?」 ユウマの声に、微かな疲労が滲む。スラオの魂のツッコミがまだ心臓に焼き付いているとはいえ、この異常な空間は、彼の精神をじりじりと蝕んでいた。 「……解析不能。これまでのバグデータとは、次元が異なります。強いて言うなら……『起源』。全てのバグを内包する、根源的なデータポイントです」 ミコの無表情な声にも、わずかな動揺が感じられた。彼女の瞳は、高速で情報を処理しながらも、その光はかつてないほど不安定に揺らめいている。 「起源……そんなもん、どうやって倒すんだよ! ツッコミどころねーじゃねーか!」 レムが、苛立ちを隠さずに剣を構える。彼女の口の中には、生鉄のような苦味が広がる。このバグ空間の異常な瘴気によるものだろうか。

 その時、空間が歪んだ。無数のエラーコードが、まるで意思を持つ蛇のように蠢き、一点に収束していく。やがて、その中心から、眩いばかりの光が放たれた。光が収束すると、そこに現れたのは、巨大なクリスタルのような構造体だった。それは、見る者に畏怖すら抱かせる、神々しいまでの存在感を放っている。そして、そのクリスタルの中心に、一人の老人が浮かんでいた。

 白く豊かな髭を蓄え、穏やかな眼差しを湛えたその老人は、まるで古の物語から抜け出してきた賢者のようだった。彼の声は、直接脳裏に響く。それは、ゲームのロード画面で聞くような、しかしどこか懐かしく、そして確かな響きを持つ声だった。まるで、世界を創造した設計者の思念が、AIを通して語りかけているかのようだ。

「ようこそ、勇者たちよ。そして、よくぞここまで辿り着いた。我が名は、『神のプログラム』。この《ギャラクシー・クエスト》、そしてこの世界、全てを設計した者だ」

 老人の言葉に、ユウマたちは息を呑む。 「神のプログラム……だと?」 レムが呆然と呟いた。ミコは、彼の識別コードを解析しようとするが、そのデータは彼女の認識をはるかに超え、完全に拒絶された。

 六・一:神の告白、ユーザーの罪と願い

「信じられぬかもしれぬが、真実だ。この世界に蔓延る全てのバグ、お前たちが苦しめられてきたその歪みは、他ならぬ、お前たち『ユーザーの願い』によって生まれたものなのだ」 神のプログラムは、静かに語り始めた。その声は、まるで深淵から湧き上がる真実の泉のように、ユウマたちの心に染み渡っていく。

「ユーザーの……願い?」 ユウマが、理解できずに問い返す。彼の脳裏に、スラオのツッコミがこだまする。 『おいおい、まさかの壮大なる「他責」!? これ、どっかのゲーム開発者の言い訳かよ!? ツッコミが間に合わねぇぞ、この情報量!』

 神のプログラムは続ける。 「そう。プレイヤーたちは、それぞれが独自の『こうあってほしい』という願いを抱いてゲームに臨む。ある者は、最強の剣を手に無双したいと願い、ある者は、困難な謎を解き明かしたいと願う。またある者は、愛する者と共に静かに暮らしたいと願う……な?」 老人の視線が、一瞬、ユウマに注がれる。ユウマの胸が、ドクリと跳ねた。

「それらの願いは、時にシステムが想定しない領域にまで及び、この世界に歪みを生じさせる。だが、我々はそれを『バグ』として排除することはしなかった。なぜなら、それもまた、お前たち『生命』の、創造性クリエイティビティの証だと考えたからだ」 神のプログラムの声は、どこか遠く、しかし全てを見通すような響きを持っていた。 「お前たちが求めるものが複雑であればあるほど、この世界は歪んでいった。しかし、それこそが、この世界を真に『生きている』ものたらしめている」

 レムは、半信半疑といった表情で老人に問いかける。 「ふざけるな! その歪みのせいで、私たちはどれだけ苦しんだと思っている! 人々は恐怖に怯え、街は破壊され、友が……友が消えたのだぞ!」 彼女の声が、バグ空間に響き渡る。その言葉には、スラオを失った悲しみと、人々が苦しむ現状への強い怒りが込められていた。

「レムさんの言う通りです! その『願い』とやらが、世界を破壊しているというのなら、それはもはや『バグ』以外の何物でもありません! 解析結果としては、許容範囲外です!」 ミコもまた、感情を露わにしながら、神のプログラムに反論する。彼女のホログラムが、怒りの感情に呼応するかのように、激しく点滅している。

 六・二:真実の光、終わりの始まり

 神のプログラムは、ユウマたちの怒りの言葉を、静かに受け止めた。 「当然の怒りだ。だが、お前たちは、その歪みの中で、新たな『絆』を育んできたではないか。そして、無限のループの中で、自らの『願い』と向き合い、真の『勇気』を見出した」 老人の視線が、再びユウマに固定される。 「特に、ユウマ=セーブレスよ。お前は、最も純粋な『静かに暮らしたい』という願いを抱きながら、皮肉にも最も騒がしい世界へと引きずり込まれた。そして、その中で、自ら『ツッコミ』という新たな役割を見出し、仲間と共に立ち上がった。それが、お前自身の『創造性』なのだ」

 ユウマは、言葉を失った。自分の「静かに暮らしたい」という願いが、バグの根源の一つだと言われたのだ。彼の心臓に、スラオのツッコミが再びこだまする。 『おいユウマ! お前、まさか自分が世界をバグらせた張本人とか、そういうオチ!? いやいや、それって、最終的に『お前が悪い』ってツッコまれて終わるやつだぞ!? そうじゃなくて、そこからどう『オチ』をつけるかだろ!』

 神のプログラムは、ゆっくりと手を広げた。クリスタルのような身体から、無数の光の粒子が溢れ出す。 「さあ、勇者たちよ。全てを理解した今、お前たちは選択を迫られる。この歪んだ世界を、バグとして排除し、全てを『正常』に戻すのか。それとも、この『歪み』ごと受け入れ、新たな『物語』を創造するのか」 老人の言葉は、まるで終わりと始まりを告げる神話の詠唱のようだった。

 久留米のバグ空間に、静寂が訪れる。ユウマの瞳は、目の前の「神」を見据える。彼の心の中には、スラオのツッコミと、仲間たちの声が響いていた。この歪んだ世界で、彼らは何を「ツッコみ」、何を「ボケ」、そしてどのような「オチ」をつけるのか。物語は、今、真の選択を迫られていた。



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