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バグ魔王と無限ロード地獄

 三・零:繰り返し見せられる、悪夢のロード画面

 久留米の商店街アーケードは、もはや見る影もなかった。ねじ曲がったシャッター、ガラスの破片が散らばる床、焦げ付くような硫黄の匂いが鼻腔を突き刺し、街を覆う土煙が視界を遮る。先ほどまでユウマがいたその場所は、異形のバグ魔族どもによって、完全なる戦場と化していた。ユウマ、レム、ミコ、スラオの奇妙なパーティは、次々と襲い来るバグ魔族と対峙していた 。

「おい、そこの銀髪! もっとちゃんと避けろよ! お前、ツンツンしてるだけで全然役に立ってねぇぞ! ……って、あれ? 今言ったセリフ、デジャヴュなんですけど? 俺のギャグ、無限ループに陥ってんじゃねーか! まさか俺の人生、最初からやり直す前提で構築されてたとか、それ、製作者の悪意が詰まりすぎでしょ!」 スラオが、レムの足元でぴょんぴょん跳ねながら叫ぶ。彼の声は、金属が擦れ合うようなバグ魔族の咆哮の中にあって、ひときわ耳障りだった 。

「黙れ、この粘液野郎! この私が、この程度の下等なバグごときに遅れを取るとでも思ったか! 『バグ切断剣』!」 レムは漆黒の剣を閃かせ、空間を抉り取るようにバグ魔族の一体を両断する。剣が振るわれるたびに、空間に亀裂が走り、断ち切られたバグ魔族の身体は、エラーコードの嵐となって霧散した。その一撃は、まるで世界の一部を切り取ったかのような、暴力的な美しさを伴っていた 。

「レムさん、解析結果。そのバグ魔族の行動パターン、前回の遭遇時と完全一致。この現象、既視感として検出。ループの可能性、87.6%」 ミコは無表情に告げた。彼女の瞳は、静かに瞬く星々を閉じ込めたまま、周囲の空間を精密な解析プログラムのように見つめている。その声は、電子合成された無機質な調べで、感情の揺らぎを一切感じさせない 。

「は? ループ? なんだそれ、ゲームで言うところの『同じステージをやり直させられてる』ってやつか?」 ユウマが思わず叫んだ。彼の脳裏には、先ほど襲われたバグ魔族の右腕のグリッチパターンが、以前と寸分違わぬ方程式を示していた既視感が蘇る。まるで、世界が昨日見た夢の続きを、今日また見せられているかのようだ 。それはただのバグではない。何か、意図的な、悪意すら感じる繰り返しの強制だった。

 バグ魔族は、倒しても倒しても、次から次へと無限に湧き出す。それはまるで、闇色の水銀が、割れた世界からとめどなく溢れ出すかのようだった 。ユウマたちは必死に戦い続けた。剣と剣がぶつかる金属音、魔法のエフェクト音、バグ魔族の奇妙な電子音、そしてスラオの甲高いツッコミが、商店街に木霊する 。

 ユウマは何度も死んだ。バグ魔族の歪んだ爪に胸を貫かれ、炎のようなバグに全身を焼かれ、空間のひび割れに飲み込まれた。そのたびに意識は暗転し、次に目を開けば、なぜか必ず久留米駅前の雑居ビル、古びたゲームセンターの片隅に戻されていた 。ヘッドセットを装着したままぐったりと椅子にもたれかかり、周囲にはカップ麺の空き容器とエナジードリンクの缶が散乱している 。そして、再びログイン画面から、あの雄大な宇宙空間が広がるチュートリアルエリアへと転送されるのだ 。

「くっそ……またここかよ! もう何回目だよ、これ!」 ユウマは怒鳴った 。口の中には、乾いた砂漠のような焦燥感と、わずかな鉄錆の味が広がる 。同じ場所、同じセリフ、同じバグ魔族の配置。そして、仲間たちはユウマの記憶を共有していない。彼が何度死に戻っても、レムもミコもスラオも、初めて会うかのように振る舞うのだ 。これは、終わらない悪夢のロード画面だった 。

 三・一:繰り返しの果て、結ばれる螺旋

 繰り返し、繰り返し、戦闘を続けた。ユウマは同じ戦術を試し、同じバグ魔族を同じように倒し、同じセリフを繰り返す仲間たちと、何度も、何度も、初めての出会いを演じた 。

 一度目のループでは、彼は絶望に打ちひしがれた。二度目には怒り、三度目には諦めが胸を支配した。しかし、四度目、五度目と繰り返すうちに、彼はあることに気づき始める 。

 レムは、最初はユウマを「下郎」と見下し、協力を拒むが、バグ魔族に追い詰められると、結局はツンデレを発動して助けてくれる 。

 スラオは、うるさくてうざいものの、いざという時にはユウマを庇おうとするガチ漢気を見せる 。

 ミコは、無表情ながらも的確な解析とサポートで、ユウマの命を幾度となく救ってくれた 。

 ユウマの体は、限界を訴えていた。腕の筋肉は鉛のように重く、剣を振るうたびに軋みを上げる。全身に叩きつけられたバグ魔族の攻撃の衝撃が、骨の髄まで響く。口の中は、渇ききった砂漠のようだった 。疲労と、何よりも精神的な消耗が彼を襲う。彼は「静かに暮らしたい」という願いを胸に抱きながら、皮肉にも最も騒がしく、最も過酷な現実に放り込まれていたのだ 。

 だが、繰り返される死に戻りの中で、ユウマは気づいた。彼だけが、この記憶を保持している。それは、彼に課せられた呪いであると同時に、唯一の「武器」でもあった。彼は仲間たちの行動パターン、バグ魔族の弱点、ルートの分岐点、そして何より、仲間たちの心の機微を、その「ループする記憶」の中に刻み込んでいった 。

「レム、次、右から来るぞ! さっきと同じパターンだ!」 「スラオ! お前の回復、そっちじゃなくて俺に! 今だ、全力でギャグ死だ! ……って言ったけど、これ、死ぬ前に笑い取れるかな? 新しいオチ、試してみたかったのに! っていうか、こんな緊迫した状況で、ギャグの試運転とか、俺ってマジでメンタル強すぎか!?」 「ミコ、あのバグ魔族の脆弱性、解析はまだか? いけるだろ、お前なら!」

 ユウマの指示は、日を追うごとに的確になっていく 。仲間たちは、記憶こそ共有していないものの、ユウマの言葉に不思議と従うようになった。レムは少しだけ素直になり 、スラオはユウマの言葉に合わせた「オチ」を意識し始める 。ミコは、データ上の最適解ではないが、ユウマの「指示」を優先するようになっていった 。

「……なんで貴様の指示に、こうも従ってしまうのか。私にも理解不能だ」 レムが、照れたように剣を振り下ろしながら呟く 。

「ユウマのツッコミ、的確になってきたね! 俺のギャグも冴えわたるってもんよ!……って、ちょっと待って?これ、本当にギャグとして機能してる?俺、ただの状況説明役になってない? あ、もしかして俺、ツッコミじゃなくて解説役っていう新境地開拓してる?それとも、もうギャグ通り越して哲学?」 スラオが、全身から光を放ちながら爆発し、次の瞬間には別の場所に復活する 。

「識別コード:ユウマ=セーブレス。信頼度パラメータ:上昇傾向。理由は不明」 ミコが、相変わらずの無表情で告げた 。

 無限のループは、ユウマの心を削る 。しかし、同時に、彼はその中で、仲間たちとの見えない絆を紡ぎ出していた 。それは、記憶がリセットされても決して消えることのない、魂の螺旋だった 。彼らがなぜここにいるのか、どんな夢や目標があるのか、まだ何も知らない。だが、この繰り返される死と再生の中で、ユウマの「静かに暮らしたい」という願いの奥底で、彼らを守り、共に進むという、新たな、しかし強固な意志が芽生え始めていた 。

 久留米の街は、今日もまた、バグと戦いの喧騒に包まれている 。しかし、ユウマの瞳の奥には、ループの先に何かがあると信じる、静かな光が宿り始めていた 。無限ロード地獄の先に、わずかな希望が点滅している 。それが彼の、そして彼らの進むべき道を示す、唯一のコンパスだった 。


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