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バグエンド・オブ・ユニバース

 十二・零:終焉の鼓動、銀河の叫び

 記憶が覚醒したその瞬間、久留米城から放たれる「終焉のログファイル」の波動は、もはや街の範疇を超え、空を突き破り、銀河の彼方へと膨張していった。それはまるで、宇宙の闇に穿たれた巨大な口のように、あらゆる光を吸い込み、無限に広がっていく。その中心に、全てのバグが収束した究極の存在――「エンド・コード」が、巨大なエラーメッセージの塊となって蠢いていた。

「な、なんだアレは……!? まさか、ログファイルが、こんな形に……!」 レムが、驚愕に目を見開く。彼女の記憶は戻ったが、この規模の脅威は、これまでのループでは経験したことのないものだった。 「あれが、この世界の真の『エンディング』を書き換えようとしている存在……全ての『バグ』の集合体、『エンド・コード』だ!」 ユウマの声に、決意が宿る。彼の心臓は、まるで最終決戦を告げる警鐘のように、激しく脈打っていた。口の中には、戦闘前の高揚と緊張が混ざり合った、鉄と硝煙の味が広がる。

『おいユウマ! あんなもん、どうやってブッ壊すんだよ!? 見た目からしてラスボス感半端ねぇぞ! 俺のツッコミが追いつかねぇレベルだ!』 スラオの、身体から直接発せられるツッコミと、脳内に響く声が重なる。 「ブッ壊すさ。俺たちの、全ての力で!」

 久留米の街並みが、光の渦に飲み込まれていく。彼らの足元から、データで構成された巨大なアリーナがせり上がり、瞬く間に銀河を背景とした決戦の舞台へと変貌した。足元に広がるのは、福岡の市街地。上空には、歪んだ宇宙が広がっている。それは、ゲームと現実が完全に融合し、最終局面を迎えた世界の姿だった。

 十二・一:友情の力、ギャグの力、RPGの力

「エンド・コード」から、無数のバグ魔族が噴出し、津波のように押し寄せてくる。 「レム! スラオ! ミコ!」 ユウマが叫ぶ。その声に、それぞれの意志が宿る。 「ちっ、下郎の命令なぞ聞きたくないが……仕方ない! 我が『魔王結界』で吹き飛ばしてやる!」 レムが、巨大な魔力の波動を放ち、一掃する。彼女の魔法は、記憶が戻ったことで、かつてない精度と破壊力を兼ね備えていた。 「俺様のツッコミ、くらえぇぇぇ! 『矛盾解消砲』!!」 スラオが、自らの身体を膨らませ、緑色の光線を放つ。それは、ゲームの矛盾を突くような、物理法則を無視した一撃で、バグ魔族をまとめてエラー落ちさせた。彼の能力は、単なるツッコミではなく、世界の理不尽を正す、究極のギャグ兵器へと進化していたのだ。

 ユウマは、終焉のログファイルを手にしていた。それは、ただのデータではなく、世界が「忘れ去った物語」そのもの。 「ミコ! 解析だ! 『エンド・コード』の弱点を、全部洗い出せ!」 「了解。ただし、現在の解析進捗は0.0001%……」 ミコが冷静に答えるが、彼女の瞳には、かつてないほどの感情の揺らぎが見て取れた。ミコは、ユウマの指示に従い、エンド・コードの膨大なデータ構造を瞬時に解析し始める。彼女の指先から、無数のデータラインが伸び、エンド・コードに突き刺さる。それはまるで、銀河規模の巨大なハッキングのようだった。

「来るぞ! 『全データ消去オール・デリート』!」 エンド・コードが、その巨大な口を開き、全てを無に帰すような漆黒の光線を放つ。 「させねぇ! 『セーブ忘れバリア』!」 ユウマは、ミコの犠牲によって手に入れたセーブポイントの力を最大展開し、光線を弾き飛ばした。彼のバリアは、ゲームのルールを無視した「記憶」の力で、どんな攻撃も「なかったこと」にするという、反則級の防御力を誇っていた。

「くっ! バリアは持続しない! 次の攻撃までに、あいつをぶっ壊すんだ!」 レムが叫ぶ。 「『友情の力』ってやつを、見せてやるぜ!」 スラオが、自らの体を盾にしてユウマを守る。その背中には、これまでのループで共に戦い、育んできた絆が、目に見えない輝きとなって宿っていた。

 ユウマは、レムとスラオ、そしてミコの「データ支援」を受けながら、エンド・コードへと突進する。彼の剣には、これまでの全ての戦闘で得た経験値と、仲間たちとの絆が重なっていた。 「レム! 最大出力で、奴のデータコアを狙え! スラオ! 最後のツッコミだ!」 「分かったわ、下郎! この一撃に、全てを込める!」 レムが、ありったけの魔力を集中させる。彼女の身体が、まばゆい光に包まれる。 「任せろユウマ! 『全存在へのツッコミ(オール・ツッコミ)』!」 スラオが、全身のエネルギーを収束させ、魂の叫びを放つ。そのツッコミは、エンド・コードのシステムに直接干渉し、バグの存在意義そのものに矛盾を突きつけるような、究極の概念兵器だった。

 十二・二:エンディング・オブ・ユニバース、新たな物語

 レムの渾身の一撃が、ミコの解析で暴かれたエンド・コードの「データコア」を正確に貫いた。同時に、スラオの「全存在へのツッコミ」が、エンド・コードのシステムを根底から揺るがす。 「グギギギギギギギギギィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」 エンド・コードが、断末魔の叫びを上げる。その巨体から、無数のエラーコードが噴き出し、銀河に散らばっていく。それはまるで、歪んだ宇宙が、悲鳴を上げて崩壊していく光景のようだった。

 ユウマは、終焉のログファイルをエンド・コードの「データコア」に突き刺した。 「お前は、この世界の『終わりの物語』じゃない。俺たちが、新しい『エンディング』を書き換えるんだ!」 彼の言葉と共に、ログファイルから純粋な「物語のデータ」が溢れ出し、エンド・コードの内部で暴れ狂う。それは、プレイヤーたちの「願い」と「創造性」が凝縮された、光り輝く螺旋だった。

 エンド・コードは、光とノイズの中に飲み込まれていった。爆発音も、悲鳴も、何も聞こえない。ただ、静かに、そして確実に、その存在が消滅していく。宇宙の傷は癒され、久留米の空には、再び澄み切った青空が広がっていた。街の歪みは消え、人々は笑顔を取り戻している。

 ユウマは、仲間たちと顔を見合わせた。レムは、いつものように不機嫌そうにしながらも、その瞳には達成感が宿っていた。スラオは、小さくなった体でユウマの肩に乗って、はしゃいでいる。ミコは、静かに、しかし穏やかな表情で、ユウマたちを見つめていた。彼女の解析結果には、確かに「笑顔」というデータが追加されたように見えた。

「終わったのか……?」 レムが、空を見上げ、呟いた。 「ああ。最高の『エンディング・オブ・ユニバース』だ」 ユウマは、そう言って、満面の笑みを浮かべた。彼の「静かに暮らしたい」という願いは、もう「世界を救う」という壮大な物語の一部となっていた。


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