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9 劉の推測

 セガランは昨日に続いて姉妹墳墓を訪れた。彼に続いて劉、陳、呉も続いた。入口から円天井を隈なく調べたが、石組みの天井には何の仕掛けも、出入り口もなかった。通路の内壁も石積みがされ、床は敷石が隙間なく敷かれている。

 セガランは思った。矢張りこゝは、“諱名”で刻されている場所ではないか。有力者の墳墓にしては内部構造が豪華過ぎる、まるで王侯諸侯の墳墓の様だ。だが、肝心な副葬品が見つかっていない以上、断定は出来ない。石棺も石蓋もこれと言った装飾が施されている訳ではなく、切り出して成形したまゝの状態で使用されている。これをどう解釈するのか? 内部構造は王侯並み、石棺は地方有力者のそれ。


 セガランが石棺を調べている時、劉は攪乱した壁面を調べていた。そこだけ、石積みが崩落して土砂で埋まっている。最も石積みが玄室内部に向かって崩落しており、盗掘されたと判断した訳だ。

 劉が壁面を調べていると、陳が彼に近寄り囁いた。

「劉様、この盗人の入り口ですが、何か可笑しいですよ」

「何が可笑しいんだ?」


「良く分からないですけど、今迄の盗人の穴からすると、何かゞ違う気がするんです」

「どう違うんだ」


「どうと言われましても、分からないんですよ。唯、何処か可笑しいんです」

「盗人の開けた穴じゃないのか?」


「はあ・・・」

 自信のない返事だった。陳は頻りに何処が違う、何が違うとブツブツ呟いている。それを見ていた呉も同調して、劉に「盗人の開けた穴じゃない」と言った。


 二人は盗人が開けた穴にしては、可笑しいと言っている。では何処が可笑しいのか尋ねたが、二人から具体的な説明はなかった。合理的な理由ではなく、二人の感覚として違和感を抱いたのであろう。劉はそれが、何処から来ているのか分からなかった。合理的理由なくセガランに伝える事を彼は躊躇った。

劉は攪乱した壁面の土砂に手を触れた。土砂は何の変哲もない土砂である。彼は断面を確認した。事業面は見られない。均一の土砂である。するとこの土砂は、盗掘された時に外から崩されて、玄室内部に石積みと共に崩落したのだろう。何の違和感もない。では二人が感じている違和感は何処から来ているのか?


 セガランは一人で、石棺を調べている。玄室内部は4人でいると息苦しくなる。時折、4人は交代で入口から外の空気を吸いに出て行く。


 劉は何度も壁面の土砂に触れていたり、ハンマーで石積みの壁面を叩いて廻ったが、壁面の向こう側が空洞になっているような反響音はなかった。しっかりした、鈍い音だけだ。

 何度土砂を見たのだろうか。陳も呉も土砂を前に黙っている。その二人の顔を劉が見た時、彼は二人の身長が違う事に気付いた。陳は160cm位の背丈であるのに対して、呉は170cm以上あるだろう。凸凹コンビだと思いながら見ていると、彼は己の身長も呉と同じ位ある事に気付いた。呉と目線が同じだったから。その視線で周りを見ると、玄室の円天井は2m位だろうと思えた。そして攪乱部分の土砂を見ると、彼の目線から丁度ピッタリの位置に上端があった。下端は敷石の処であったから全高160cmだ。


 彼は思った。こんなに大きく盗掘用の穴を掘るのか? 盗掘は犯罪である。見付かれば有無を言わさず、斬首される罪である。短時間に事を成さなければいけない。であるならば、掘削に時間は掛けられないのは必然だ。それをこの墳墓のように大きな穴を掘るだろうか? これが二人の違和感に違いない。劉は二人に尋ねた。

「陳よ。お前は墓を暴いた事はあるか?」

「ございません」


「呉よ。お前はどうだ?」

「私も盗人ではありません」


「何も昔の罪を暴いて刑に服させるような事はしない。正直に話してくれ。もし嘘をついている事が後で分かれば、斬首の刑に処すぞ。巡撫様に連絡すれは、犯罪歴など直ぐに分かるからな。どうだ」

 二人はお互いの顔を見合わせた。お互いがどのような話しをするのか、想像したのだろうか。暫くの沈黙が続いた。


「劉様。昔、私の親方はこの地域の有力者でした。色々な事業に従事させられました。その中には今、劉様が仰られている事もございました」

 陳は恐る恐る劉に、か細い声で応えた。昔の事、親方の話しをしたが、多分に己の事であろう。劉はそう考えたが、彼の過去を断罪する気はなかった。


「呉、この部分を掘り進めてくれ」

「良いんですか?」


「構わん」

 劉はセガランに攪乱部分が盗掘穴なのか確認する為、試掘すると伝えた。セガランはその意味が分からずに、首肯した。

 劉に言われ、呉は外に出ると、二人の人足を呼び、攪乱部分を掘り進ませた。2m位掘り進んだろうか、ポッカリ大きな穴が開いた。呉が土を掻き分けて中を覗いた。そこには水のない暗渠水路があった。


 劉は小さく掘った穴を全掘させた。天上、壁、床の土砂を綺麗に取り除くと、石積みが現れた。これで陳や呉の違和感が分かった。盗人がこれ程大きな盗掘穴を掘る事はない。人一人がようやく通れる位の穴で済ますのが殆んどだ。素早く事を済ませなければ、人目に付く事になる。それを当局に通報されゝば、司直の手によって斬首刑に処されるか、運よく通報されなくとも、地元の有力者に強奪される事が殆んどだから。

 これは始めから通路部分を隠して造られたものだ。そして副葬品も初めから埋葬されていなかった。劉は想像した。恐らく当時、地元民の目の前で墳墓だけ造成したのだろう。だから地元民は誰もがこの墓には何も埋葬されていない、副葬品もない事を知っており、口伝えに語り継がれて来たのだろう。それ故に長年盗掘されずに残されていたのだ。そして、地元民である陳がこゝを盗掘しなかった事の説明にもなる。


 これが大清帝国の探し求めた遺構なのだろうか、と劉は考えた。セガランも同様に考えた。陳と呉は何故、こんな手の込んだ施設を造ったのか訳が分からなかった。


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