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70 崔、曹、丁

 摂政王、載灃(さいほう)は宗人府の曹理事官を通じて咸陽での法要の詳細を早急に報告するよう命じた。又、掌儀司の崔理事官には宗派を問わず、法力のある高僧、阿闍梨を即日リストアップし、招集出来るように命じた。


 掌儀司の崔は、何故僧侶のみをピックアップするのか疑問に思い、同じ内務府に勤務する者として、宦官に摂政王と接触した官人を問い、(てい)(えい)(たい)の名前を聞き出し、早々に彼と接触した。


「丁学長、面談を受けて頂き感謝致します」

 崔は官職が内書堂で、数名の者が就く学長職にある丁に対し、丁寧なあいさつを交わした。崔の位階は正五品、丁の位階は従五品。位階で言うなら崔の方が上であるが、宦官は後宮の管理運営に携わるので、どうしても満州皇族の意を汲んで動く事が多く、腐敗の温床となり易かった。

 歴代皇帝も宦官の権力削減に力を注いだが、宦官を排除すれば後宮が機能せず、宗人府の負担が桁違いに多くなるので、清朝滅亡迄存続した。宦官の教育を任せる為、内書堂を設置して彼等の統制も行なっていた。丁はそこで易経と儒教を教えていた。


「崔理事官、お気を使わせ申し訳ございません」彼は宦官特有の上ずった声で応えた。「それで本日は如何様なご用でしょうか」

「摂政王殿下より、僧侶のリストアップの命を受けたのですが、道士のそれはなかったもので、如何なる仕儀によるものなのかと思いまして。学長も聞く処によりますと、殿下よりご相談を受けたとか・・・」


「お耳が早いですな。あれは宗人府の役人で、咸陽に派遣されております者からの文に、厲鬼調伏の必要性を説いたものがありまして。如何すべきかご下問されまして、『殿下の意のまゝに』とお応え致しました」

「それは私も存じております。宗人府の曹理事官と同席して伺っておりましたので」


「そうでしたか。それでは殿下の仰せの通り、進めて頂きますようお願い申し上げます」

「それは分かるのですが、何故道教を外したのか・・・」


「それは簡単な事でございます。道教の始祖は老子、荘子でございますが、彼等は現世を捨て、深山幽谷に隠棲して身を修し仙人、真人になり、不老不死を得たと。然るに仏陀は、瞑想によってニルバーナに至る前、詰まり成仏前に、魔による妨害がありましたが、彼等を排除して覚醒したのでございます。この事からも、仏教には魔を退散させる法があると思われます。それを殿下は知っておられたのでしょう」

「そうでしたか。分かりました。色々とご教授頂き、感謝致します」


「それよりも、リストアップは大丈夫なのでしょうか?」

「『大丈夫』と言いますと?」


「仏陀釈尊が成仏致しましたので、仏教には成仏法が確かにございましょう。この大清帝国には、何百万巻にも及ぶ経典が、天竺よりもたらされております。余りに多い経典全てに、それが書かれているとは思えません。かの天台大師、智顗(ちぎ)教相判釈(きょうそうはんじゃく)によりまして、法華経こそが神髄であると位置付け致しました。その当時の最高判断だったと思います。全てが釈尊の説かれたものであるという前提でしたから。しかしながら今では、経典は北伝だけでなく、南伝のそれも認められておりまして。寧ろ、そちらの方が釈尊の言葉に近いのでは、と判断されております。それは小乗と呼ばれております上座部のそれであり、大乗と呼ばれております大衆部のそれではございません。ですので、依拠する経典によりましては、法力のない宗派もあるのではないでしょうか」

「私共で把握している宗派の高位高僧をリストアップするだけでございますので・・・」


「そうですか・・・」

「何か問題でもございますか?」


「いや、そうではございません。宗人府の理事官、曹様と同席しておりましたのなら、咸陽からの奏上文をご覧になられると宜しいかと。詳細が書かれていると思いますので、曹様からご意見を伺うのも宜しいかと」

「ありがとうございます。曹理事官に経緯を伺いましょう。概容が朧気ながらに見えました。お忙しい処、お時間を割いて頂き、感謝申し上げます」


「理事官様のお役に立てたのであれば、殿下の意向も叶う事でしょう。私もお伝えした甲斐がございます」

「それではこれをご縁に、何かとご相談させて頂きたいのですが、如何なものでしょうか?」


「私の方こそ、掌儀司の崔理事官様の知己を得ました事、感謝申し上げます。私も後宮以外に伺えるのでしたら、ご協力させて頂きます」

「それでは、今後共良しなに」


 崔は丁との会談に満足した。彼との会話の中で、摂政王と丁とのつながりも伺い知れたし、崔の出世につながるであろうコネも作る事に成功した。それだけでも十分な成果であるが、摂政王の意向もある程度把握出来たのも大きかった。

 それは丁も同様である。彼にとっては後宮以外に伝手が出来、許可さえ貰えれば仕事と称して、後宮から外に出る事が可能になったのだ。この当時の宦官は、各層からの出身者で構成されていて、最下層の者も生活の為、自身を傷付けて宦官に応募する者もいた。教育も受けていない者も多かったので、彼の仕事は宦官からは望まれていた。

 そのような需要があっても、宦官は一部の役人からは白眼視され、蔑視の対象にもなっていた。容姿からして男であって男でないものとなるし、科挙に合格した官吏と比較すると短命にもなる。後宮での勤務も長期に渡る者の方が少なく、後宮を辞した後の余生も短い。一時の栄華を達成するに過ぎない職に、多くの者が参加するのも国の豊かさが満遍なく民に行き渡る事がなかったからだろうし、口減らしをしなければ、生きて行けない家族もいたのだ。たった百年前の民の生活が、今と大差ないのはどうしてか。


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