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67 厲鬼調伏 1


 (はい)(せい)が法要を執り行う日は、又しても快晴だった。前回は姉妹墳墓で行われたが、その当時、セガランは日本に滞在して、徐福の痕跡を求めて山梨や和歌山を探索していた。呉はセガランに命じられて、この現場で今は亡き陳と共に働いていた。廃青の法要を経験したのは宗人府の役人である劉と彼の部下である李来仙りらいせんだけであった。


 倒伏している石碑の前に大壇が設けられ、護摩壇を当時の法要に参加した人足の中から、有志が集って手伝いをしている。人足達の悩みを聞き、各人の悪鬼消滅を為した廃青に、彼等は全幅の信頼を寄せ、彼の活動の手助けをしていた。

 セクション確認用に設けられたトレンチ脇に法要参加者の席が設けられ、セガランは椅子に座っている。劉、李、呉そしてこの現場で働いている人足達は地面に敷いた茣蓙に胡坐をかいて法要を待っていた。


「私は、本日の法要を任されました廃青と申します。浅学非才な者ですが、御仏のお導きにより、そこに居ります宗人府の李君に頼まれ、過日法要を行いました処、(いた)く評価されまして、同じくそこに居ります劉君に青龍寺の再建をお願いしている処であります。聞く処によりますと、この地では、道士様主導の法事が、一度執り行われたとか。しかしながら再度の法要をとの要請がありまして、私に白羽の矢が立ちました。勿論、前回と同様、費用は頂きませんので。それが大きな理由か、とは思いますが・・・」

 前回の流れを知っている、廃青の法要を手伝っている人足達は笑いを堪えて働いている。劉と李は神妙な面持ちで、聞き入っている。そしてセガランと呉及び人足達は無表情で聞いている。


「大変な法要である事はそれで分かりましたので、今回は皆さんに、真言を唱和して頂きます。真言とは有り難い御仏のお言葉でございますので、意味が分からずとも唱和して下さい。それが厲鬼調伏に繋がりますので、宜しいか?」

「真言て、何ですか?」

 一人の人足が怪訝な顔で廃青に尋ねた。


「良い質問ですね。真言とは、仏陀釈尊が生きていた頃に使っていた言葉で、仏様に帰依すると宣言する事です。分かりましたか?」

「はあ・・・」


 廃青が茣蓙に座った人々を見回すと、大半の者がポカンとしている。何を感じたのか、廃青はこう話し出した。

「今迄聞いた事がない、分からない言葉が聞こえてきたら、その言葉を繰り返して下さい。それが真言ですから」

「はい」

 参加者が一斉に返事をした。それを聞いて安堵したのか、廃青は挨拶を終えた。


 護摩壇に着座して先ずは壇前普(だんぜんふ)(らい)。精神統一をして入我我入の境地に入る。廃青の後ろには、待機していた黒い法衣をまとう一人の人足が、彼と同じ作法をしている。

 廃青は()(こう)を両手に擦り付け、己の全身が清められ、自性仏心を自らのものとし、法衣の中で手を動かして護身法を修した。


 そして五体投地して壇前普礼で三拝(さんぱい)


 加持(かじ)香水(こうずい)から開経偈(かいきょうげ)と進み、般若心経が唱えられた頃には、セガランはその様式美に魅了された。


 法衣の中で廃青は、両手を動かして様々な(いん)(げい)を結ぶ。小さく真言を唱えているが、参加者席には聞こえず、誰も追随しない。


 様々法衣の下での動きと真言及び観想によって、護摩壇の周りに結界が出来た。


 大日如来との一体観に拠って入我我入の境地に達した廃青。


 諸仏諸尊を迎える応接の時。


 大日如来の降臨、諸仏諸尊の降臨。


 仏界が地上に出現した。しかし法力のない者には見えなかったし、仏界のイメージすら湧かなかった。


 その間にも、護摩木が護摩壇に投下され、焚き上げられた。供物が諸仏に提供されたのだ。


 廃青が十三仏真言を唱えた。不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿閦如来、大日如来、虚空蔵菩薩の真言が唱えられた。

 人足達も分からないなりに、廃青の唱える真言を聞きながら、唱和している。


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