66 反乱?革命?
西安から南に30km下ると、秦嶺山脈を形成する終南山の麓に辿り着く。
黄強は二人の部下と共に、西安での協力者から金品を受け取り、終南山のアジトに帰還する最中、折悪しく陝西省新軍のパトロール隊に見つかり、今逃走の真っ只中であった。
馬で逃走するには街道よりも山道は都合が良く、必死で逃げていた街道では生きた心地がしなかった。それが山中に入った途端、心は落ち着き、周囲に気を配る事も出来るようになった。そうなると、新軍パトロール隊から逃れようとするよりも、この山中で彼等を包囲して制圧するか、投降させようかと考える余裕が出て来た。
山道は馬で描けるには都合が良い。道は左右に蛇行し、枝は左右に広がり視界を塞ぐ。時折山道に落石した岩が進路を妨げる事もあるので、車両での登攀は厳しい。しかし馬ならば難なく進む事が出来るから、彼等は使う。
彼等は大きく迂回する登攀路の比較的広い道で、追っ手の新軍パトロール隊を待った。下から登って来る彼等の目標を視認させる必要があったから。彼等が自分達を見失ったら、追跡を中止する恐れもあったので、用心しながら彼等を山中に誘い込まねばならない。
「どうだ、新軍の奴等見えるか?」黄が一人に訪ねた。
「追って来ているのは音で分かるんですが、視界には未だ入っていません」
聞かれた部下の一人が、目を凝らしながら下の山道を見て応じた。
「折角のチャンスだ。奴等のトラックや武器を捕獲出来たら良いんだがな。軍資金にもなるしな」
「そうですね。毎回市中の賛同者から資金の提供を受けるのも危険ですからね」
もう一人が、これも下を凝視しながら応えた。
「楚よ、お前はこのまゝ副官の元に向かってくれ。俺達はこの道を通って中台迄進む。そして中台の手前で、南台に方向を転換するから、追っ手が南台に向かって転換する時に、その横っ腹を突いてくれ。そうすれば少人数でも勝ち目があるから、と伝えてくれ。それとトラック一台だから、新軍は10名程度だ、とも伝えてくれ。分かったか?」
「復唱します。南台手前で新軍10名が転換する横を攻撃するよう、副官に伝えます」
「良し。それじゃ越。奴等が見えたら、行こうか」
「はい」
黄は楚に新軍制圧の策を副官に伝えるよう要請し、それ迄の囮として行動する旨も告げた。
楚が出発して少し経って、新軍パトロールが乗ったトラックが木々の間から所々見えるようになった。見え始めた頃は車体の一部しか視認出来なかったが、徐々に車体全体が見渡せるようになると、黄は越と共に中台に向かって行動を開始した。
黄と越が動き出した時には、新軍のトラックからも彼等の姿が確認された。新軍の分隊長は、西安市外で怪しい一団を見つけ、何か金目の物を持っていたのなら、難癖を付けて一部を巻き上げようとした処、黄等がいきなり逃げ出した為、成行き上追跡行動に出たのだが、その追跡が終南山迄掛かってしまった事を幾らか悔いていた処だった。
分隊長にとって治安維持パトロール中なので、追跡行動は妥当な判断ではあるも、終南山迄の追跡が適正な行為なのか、彼には判別が付かなかった。馮からは陝西省内の不穏分子、反乱分子、山賊の排除を命令されていたので、行為自体は非難されるものではないと理解しているが、その追跡行為が何処迄許されるのか分からなかった。それでも反乱分子排除ともなれば、彼の評価は格段に上がるだろうから、地位や賃金に直結する機会を独占したい気持ちになるのは当たり前だと思っていた。
そんな功名心に駆られた行動が、本部への連絡という基本を無視する行為に奔らせたのかも知れない。目標が視認出来なくなってから、急に自分の行動に対して不信感を抱かせるのではないかと不安に駆られたが、目標を視認した途端、そんな辛気臭い思いは霧散してしまった。
今は賊を確保するだけを考えよう。それが出来るのは自分だけだ。賊を捕縛すれば、その栄は自分が受けるものだ、と都合の良い夢を見る分隊長にとって、彼の妄想を止められるものは、最早いなかった。
そんな分隊長の気持ちなど知る由もない兵士は、唯々前の目標を射撃して、身柄を確保出来ればそれで良い、と信じていた。新軍の士気は至って低調なだけだ。勿論、それは黄の側にも当て嵌まるだろうが。




