6 セガランの思惑
セガランは北京の自宅に戻ると、妻と妹を伴い、友人のジャン・ラルティーグの元を尋ねた。ラルティーグの自宅も北京市内にあり、馬車を使えば10分も掛からない場所にあった。
セガランがラルティーグの自宅を訪ねると、直ぐに彼の細君が対応し、彼の書斎に案内してくれた。妻と妹は彼の細君と居間にてお茶で一時を過ごすと言う。彼の細君が書斎の扉を閉めると、開口一番。
「ヴィットル何処を調査しているのだ?」
「今は咸陽と西安さ」
「少し前は長城の近くだったな」
「そうだよ。煬帝が築いた部分を調べていたが、何も見つけられなかった。それで監国様から咸陽と西安に向かうよう依頼されて、もう一月経つかな」
「摂政王からの直々の依頼なのか?」
「そうだよ。何を探ればよいのか、詳細は知らされていないので、確と
分からないが、多分隋、秦の財宝の在り処ではないのかな」
「そんな国家の秘事を俺に話しても良いのか?」
「構わないさ。俺は遺跡の調査と石碑等の拓本や写真撮影だけを頼まれたからね。それ以外は私の推測でしかないから、清国の秘密など知らないよ」
「確かに」
「それよりも面白いものを見つけたよ」
「何だいそれは?」
「俺が前にタヒチに赴いていた事は話したよね」
「聞いた。間違いがなければ5年前の事だよね」
「そうさ。海軍の仕事で滞在していたんだ。その時ゴーギャンの写生画を手に入れたんだよ。嬉しかったね」
「そうだね。それでそれを無くして、この世の終わり、みたいな話しになった事を思い出したよ」
「あれは未だに思い出すよ。情けないやら、悔しいやら」
「気持ちは察するよ」
「ありがとう。でもね、話そうとした事はそれじゃないんだ。オセアニア一体で信じられていた“タアロア”と言う神についてだよ」
「それがどうしたって」
「実はね、清国でもそれに近い話しを聞いたし、その証にもなる石碑を見かけたんだよ」
「興味深い話しだが、俺が聞くと不味くないか?」
「そうなんだ。だから詳しくは話せないんだけども、清国ではその名前を記す事も口にする事も、その本当の名前を言う事も出来ないものが存在するんだ。そしてその存在が周や漢の遺構から確認されているんだ。俺はそれを報告してはいないんだ」
「何故報告しないのだ?」
「それは彼等の求めているものと違うからさ」
「違うとは?」
「初め、太后陛下からは隋の遺構を調べるよう、命じられた。その太后陛下がご逝去された後に、監国様からは秦の遺構も隋の遺構同様、調べるよう依頼を受けたんだ」
「それで今、咸陽や西安で調べているのか」
「そうだ。私が興味を持った遺構は、彼等の対象外と言う訳さ。だから、報告書にも記載しないし、写真や拓本も北京に送っていない」
「それは写真や拓本は採取したが、送っていない、と言う事か?」
「ご明察。私の個人的関心から収集しているんだ」
「何か言われないか?」
「特に北京からは何も。但しだ。助手として北京から派遣された劉と言う男は、私の行動に疑惑とは言わないが、疑問は抱いているだろうな」
「君の身に危険が及ぶ事はないのか?」
「それは大丈夫だよ。依頼された仕事は、しっかりこなしているからね。
「それ良かった。自分好奇心を満たす為に危険な事は冒さないでくれよ。奥方が嘆くぞ」
「忠告ありがとう。気を付けるよ」
「それで、その『本当の名前を言う事も出来ない存在』というものは何だい?」
「さっきも君が心配してくれたように、今は話す事は出来ないんだ。この調査が終わったら多分話せると思うから、その時迄待っていてくれ」
「了解した。君の身に係る事だからね」
「すまない」




