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59 馮、セガランに会う

 西安の姉妹墳墓から戻り、巡撫執務室で馮は劉からの連絡を待っていた。昼には戻って来たので直ぐに連絡が入ると思っていたが、一向に劉からの連絡がない。不在時に連絡があったか秘書の金に尋ねたが、「ない」の一言だけであった。

 代理の時間は少ない。短ければ数ヶ月、長くとも一年だろうと予測していた馮にとって、なんとしてもこの間に発掘に着手して、完形品を手に入れたいと渇望しているから、気が気でない訳だ。


 馮のイライラが募っているのは、金が何度も執務室に呼ばれるので明らかだ。事務官連中も神妙な顔で見守った。馮の怒りが自分達に向けられないよう祈るばかり。

 そんな緊張した時が流れ、漸く金は劉からの電話連絡を受けた。金は執務室の馮にセガランの来訪を伝え、ホッとする。これで不機嫌な上司の顔を見ないで済むと思い、安堵の表情が顔に現れてしまった。



 暗くなる前に、セガランは劉に伴われて馮の執務室に入って来た。

「失礼します。馮閣下、セガラン様をお連れしました」

「遅い。何時間待たせれば気が済むのだ」


「申し訳ありません。中々、居場所が分からず、人足に聞いて分かった次第です」

「良い訳は聞きたくない。ご苦労だった、下がって良い」

 馮は厳しい口調で劉に応えると、彼に退室を促した。劉は怪訝な顔をして馮の顔を見た。彼の視線を見て、直ぐに馮は理解した。


「待て、待て。俺の勘違いだ。済まなかったな、劉君。その椅子に座ってくれ。それとセガラン殿にも、寛いでくれと伝えくれないか」

 馮は応接用の椅子に劉とセガランに座るよう促し、電話で秘書の金に、来客へのお茶出しを指示した。そうである。彼はフランス語を喋る事が出来ないのだ。劉の怪訝顔でそれを悟り、態度を豹変させた訳である。


 金が執務室に入って来て、3人にお茶を出して、馮の顔を見た。馮は頷いて金の退室を促し、金は出て行った。

 金の退室を確認した後、劉がセガランに二言三言話すと、セガランは何やらフランス語で劉に伝えて椅子に腰掛けた。それに続いて劉も腰掛けた。セガランの顔を見ながら、劉は馮に尋ねた。


「セガラン様が、閣下にお尋ねしたい事があるそうです。『何故、此処に呼ばれたのか』と」

「そうだろうな。面識のない俺から呼ばれたんだからな。良いだろう、説明しよう。俺は提案したい。これから始める発掘現場を倍増して欲しい。勿論、費用はこちらで持つし、人足不足なら兵も提供しよう、如何かな?」


 劉はセガランに馮の話した内容を伝えた。少し間を置いて、セガランは劉に話し掛けた。

「セガラン様が言うには『今回の発掘は摂政王殿下の要請で進めているものですから、話しを私が聞いて、お答えするものではありません。話しは殿下にお伝え下さい』と申しております」

「それは分かるが、君達の発掘現場は我々が警備しているから、賊に襲われる事なく、何も心配せずに進められているじゃないか。この辺りも最近では物騒になって来ているから、我々の協力なしには不安ではないのか、と言う事だ」


 劉は馮の言葉をそのまゝ伝えた。少しセガランは考えて、劉に返答をした。

「セガラン様の返答をお伝えする前に、私からお話しさせて頂きます。先程セガラン様が言われたように、今回の発掘事業は殿下と前の巡撫様との間で交わされたものです。それを前提にセガラン様はこう申しております。『それを殿下に直接伝えますので、北京で殿下と交渉して下さい』と」


 みるみる馮の顔は赤くなっていく。眼は大きく見開き、口は尖り、前傾姿勢に為っている。口元はもぞもぞと微かに動いている。

「それは分かっている。分かっていて話しをしているんだ。いや、提案をしているんだ。無事に仕事をしたいなら、それ相応の準備が必要だろう。それをこちらが善意でしてやろうという提案だよ。一々北京にお伺いを立てるのかい?」


 劉は少し考えてセガランには通訳せずに応えた。

「閣下。私は宗人府の役人でございますので、(そう)強力(ごうりき)理事官様のご意向で動いております。理事官は今回の事業に於ける宗人府での窓口でもありますから、李巡撫様と殿下の仲介に携わった訳です。閣下の推薦も理事官様が殿下に奏上したと聞いております。更に、軍機処には袁世凱閣下のお知り合いも多いと聞いております。どうかこれらをご賢察の上、ご判断願います」


 馮は劉がセガランに通訳するものだ、とばかり思っていたから、劉から告げられた話しに怒りを露わにした。しかし袁の名前迄出され、急に怒りを鎮めた。宗人府との諍いだけならば対処出来ると踏んでいたが、摂政王や袁を敵にする度胸はなかった。

 怒りに吊り上がった眼は大人しくなり、顔は寧ろ青ざめているようにも見える。


 これ以降、陝西省の馮からの横槍は入らなくなった。


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