52 馮、劉におもねるも
劉が残務整理をしている現場に、馮は警護の兵を伴ってやって来た。警備の兵隊を伴わない訪問であり、故李玉祥の来訪とは違って威圧感はそれ程なかった。
「劉君。すまないな、忙しい処」
馮の親し気なあいさつが劉に届き、劉も思わず微笑んであいさつを返した。
「馮閣下、おめでとうございます。正三品、提法使に内定されました事、曹強力理事官から伺っております」
「ありがとう。これも偏に君が曹理事官に私を推薦してくれたお陰だ。何と言って良いやら。私は恩を決して忘れない男だ。必ずや、君から受けた恩に報いる積もりだよ」
「ありがとうございます。閣下の御口添えを頂ければ、私の昇進も必ずや得られるでしょう。宜しくご指導願います」
「今回の君の働きには感謝しているから、私もそのように動こう」
「よろしくお願い致します。処で、本日は如何様なご用事でしょうか?」
「うん。実はな。今後の発掘についてだよ」
「今後と言いますと?」
「これから君は咸陽地区に移動して発掘を続けるのだろう?」
「はい」
「そこでだ。政府が実施する現場以外にも秦の遺構はあるだろう?
「はい、ございます」
「そうだろう。それを順に発掘しては手間が掛かり過ぎるだろう」
「はあ」
劉は馮の意図が分からず、生返事をした。
「それを私の方で手助けしてやろう、と言うんだ。有り難い話しだとは思わんかね?」
「どういう事でしょうか?」
「私の兵士を人足替りに、自由に使って構わないから、現場を倍にして数をこなさないか、と言う事だよ」
「それはどうも貴重なご意見を頂きまして、感謝申し上げます」
「それでは、何時でも兵は派遣出来るから、現場を教えてくれるかな?」
「閣下。ご意見としてセガラン様にお伝えする、という意味でございます。現場の選定、指揮は殿下からセガラン様に委任されておりますので。私はセガラン様の指示を受けて現場を仕切っているだけでございます」
「そうなのか?」
馮は露骨に落胆の表情を浮かべた。今迄事務官の劉にへりくだって接して来た己自身に我慢し切れなくなったのか、少し口調がきつくなって尋ねた。
「そのセガランと言う男は、何処にいるんだ?」
「セガラン様は既に、咸陽の発掘現場の下見に行っております」
「咸陽の何処だ?」
「分かりません。秦朝関係者の墳墓を中心に、調べている最中かと思います」
馮は劉が現場責任者である事を再認した。彼に肩入れしても何の益もない。彼が己を取り次いだのも職責からだろう。矢張り、力があるのは理事官の曹なのか。素早く判断した馮は、認識を変えて劉に尋ねた。
「そのセガランと言う奴は、どのような男なんだ?」
「はい。フランス共和国から派遣されました、海軍医官でございます。摂政王殿下から隋朝、秦朝の遺跡発掘の全権委任を受けております」
「外国の軍務医が発掘の担当者か」
「はい」
「何故そのような男が責任者に?」
「それは私にも分かりません」
暫し瞑目して、馮は考えた。外国人が担当する事は、国内の主導権争いを避ける為、それは分かる。今回のように財宝が絡めば、実力行使にもつながるから。しかしだ、我が国の歴史を知らない者が担当者になるなどあって良いのか? 誰が決めたのか? 目的は何だ?
「取り合えず、西安に戻る。もしセガランとやらから連絡が入ったならば、俺に連絡を入れよ、分かったな」
「ご連絡致します」
一連の会話で、劉は馮も李と同族だと感じた。己の安心立命のみを考える男だと。




