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49 普度

 方士の張泰山ちょうたいざんは、呉に普度ふとを行なうから手伝えと伝えた。そして、倒伏している石碑の手前に留めてあるトラックの荷台に向かって声を掛けた。そこには荷台の上で待機していた3名の道士と5名の人足がいた。


「おーい。これから()()(道教の儀礼)を行なうから、トラックから斎器と台を降ろしてくれ」

 張の呼びかけに3人が荷台から降り、積んであった斎器や台を降ろし始めた。それを見た呉が張に設置する場所を聞くと、張は石碑の前を指差し、「そこに置いてくれ」と頼んだ。場所を確認した呉は、トラックから降ろされた台を人足達と一緒に運んだ。

 石碑の前に二段に重ねられた台が並べられた。その高さは呉の身長程あり、その上に道士達が令牌、道蔵(どうぞう)(道教の経典)、天文図、博山(はくさん)()(八仙が住むとされる崑崙山を模した香炉)、三官大帝図、(さん)清図(せいず)(道教に於ける最高神)、香炉、杯、果物を並べる。


 セガランにとって、初めて見る光景であった。勿論道教の儀式を見る事も初めてゞあったが、彼にとって儀式の準備を目の当たりにする機会に恵まれた事は、幸運であったのであろう。頻りと野帳に何やら文字を書いている。


 忙しなく準備を進める4人と離れて、張はトラックの助手席に置いた衣装箱の中から赤い絹織物の法衣を取り出して着替え、科儀に臨む為、精神を統一させていた。

 暫くすると張は台の手前に歩み出て、右手に持った桃ノ木の枝で地面に何やら線を描き始めた。何の図形やら分からない。1.5m程の図形と思しきものを描き終えると、彼はその上を千鳥足のようにフラフラと歩き出した。

(てん)(てい)太一(たいいつ)(しん)、私は貴方の進む方向に共に歩みます。貴方の示す道は正道、如何なる迷いもなく、貴方と共に・・・」


 セガランは呉に歩みより尋ねた。

「呉よ。これが道教の儀式なのか?」

「はい、セガラン様。しかし、これは儀式の準備でございます」


「儀式ではないのか」

「そうです。準備は間もなく終わり、直ぐに始まりますから」


「分かった。それで、儀式はこのように、台を重ねて行うのか?」

「そうです。身分の高い方の斎では3段にして行います」


「何か意味があるのかい?」

「供物を香と共に焚き上げて天に捧げますので、天により近く築けば、より早く捧げられますので高く致しますが、儂らは1段で済ませます」


「それは身分によって異なるのかい、それとも地域によってかい?」

「どうでしょうかね・・・ 台の大きさ、高さは身分によって方士様が決めますが、儀式は地域によってまちまちですので。どうしなければいけない、という事はないと思います」



 呉がセガランの質問に一つ一つ丁寧に応えていると、科儀が何時しか始まった。

「セガラン様、始まりました」

 3人の道士が跪き、蛇腹に折った黄色い奉祀紙を両手に持ち、何やら喋り出した。


上元賜福天官一品紫微(じょうげんしふくてんかんいちぼんしび)大帝(たいてい)に捧ぐ。及び彼の侍女、書記、護衛、兵士には・・・云々」

中元赦(ちゅうげんしゃ)罪地官(ざいちかん)二品(にぼん)(せい)(きょ)大帝(たいてい)に捧ぐ。及び彼の侍女、書記、護衛、兵士には・・・云々」

下元(げげん)(かい)(やく)水官(すいかん)三品(さんぼん)(とう)(いん)大帝(たいてい)に捧ぐ。及び彼の侍女、書記、護衛、兵士には・・・云々」

 3人が読み終わると、それぞれの奏上文が一つの炉に()べられ、三界公に届けられた。


 張は右手に鐘、左手に(てん)(ほう)(しゃく)を持って1段目の台に登り、香を焚いた。

「天官賜福大帝、地官赦罪大帝、水官解厄大帝各々に言上願いし祈願文、速やかに()姥元(ぼげん)(くん)に奏上し奉らん事を。更には(こう)天金闕(てんきんけつ)()(そん)(ぎょく)(おう)上帝(じょうてい)中天紫微(ちゅうてんしび)北極(ほっきょく)(たい)(こう)大帝(たいてい)(こう)陳上宮(ちんじょうきゅう)南極(なんきょく)天皇(てんこう)大帝(たいてい)承天效法(しょうてんこうほう)后土(こうど)(こう)地祇(ちぎ)に速やかに奏上願い奉らん。然る後、大羅(だいら)(ぎょく)(せい)元始天(げんしてん)(そん)大羅上(だいらじょう)(せい)霊宝天(れいほうてん)(そん)大羅(だいら)(たい)(せい)道徳天(どうとくてん)(そん)に願い奉る。我が願文成就。臣張泰山」

 この言葉が終わるなり、3人の道士と呉が4本の竹竿に結んだ幕で張の周りを覆い、周りから彼が何をしているのか遮断してしまった。それでも張の声が零れて、途切れ途切れに聞こえる。


「祖師達の名に於いて・・・東の木気の訪れと共に邪な気、厲鬼が追い払われ、全てが穏やかに戻る。南の火気の訪れと共に云々・・・ 西の金気の訪れと共に云々・・・ 北の水気の訪れと共に云々・・・ (しん)(こう)王こと太素(たいそ)(みょう)(こう)真君に供物を捧げ、願い奉る・・・ (てん)(りん)王こと五化(ごか)()(れい)真君に供物を捧げ、願い奉る・・・ これをもって(じっ)(しん)(くん)にあっては我が預修を願い入れ、審理を尽くし、〇〇の罪状は詳らかとなった。此処に到れば前非を悔い、三清の広大無辺な・・・・・」


 張の三清への願いや厲鬼への訴追が終わったのか、4人が掲げていた幕が降ろされ、科儀の台が再び姿を現した。張は未だ香炉に何かを焼べている。

 3人の道士が黄色の法衣の上に京劇で見る兵士の装束を羽織り、各々手には刃、槍、杖を持って剣劇を見せ始めた。


 セガランは戻って来た呉に「何をしているのか」と尋ねた。

「これも儀式の一種です。道士様達が演じているのは、西遊記と言いまして、雷法によって道士が神将、神兵を降臨させて、悪鬼を成敗する場面を演じているのです。道教もそうですが、供養する家族への宣伝も兼ねておりまして・・・ まあ、この場合は新たに契約した人足達に、お祓いをしたからこの現場は浄化された、と知らせるんです」

「何でそんな事をするんだい」


「道士の活躍を我々に見せているんです。これだけ、我々は強いんだ。悪鬼も我々がこの様に退治するから、安心して任せなさい、という感じですかね」


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