44 陳と呉は相談する
セガランが宿舎で碑文の解明をしていた時、陳と呉は咸陽の現場で法事を誰に依頼するか相談していた。
「呉よ。お前の知り合いの方士様はいるか?」
「親方、私の知り合いにいる事はいますが、宿屋の亭主でして。村の者に頼まれた時だけ執り行うだけですよ」
「法事が執り行えれば構わん」
「そうですか?」
「十分だ」
「親方の方はどうなんですか?」
「俺は駄目だ。こういう商売を親の代からやって来たから、その方面は避けて来たんだ。それに、この商売はそんな事気にしていたら、何も出来やしないさ」
「でも親方、祟りは信じているんですよね」
「そりゃそうさ。だから、曰くありげな現場は避けて来たし、これからも受ける気はない」
「そりゃ、随分勝手な言い分ですね」
「そうか? 死んだ者が全て孤鬼や厲鬼になる訳じゃないし、第一祟るなら恨みを持った奴じゃないのか?」
「そりゃそうですけど。事故で亡くなった奴なんかは、念が残って、その場で祟るじゃないですか」
「俺達の扱う現場は、そんな祟られた場所じゃないさ。名家の者や金満家の墓、偶に王侯貴族の墓がある位で、悲惨な死に方をした者の墓は扱っていなかったな」
「ですが、セガラン様から依頼されたこの現場はどうですか?」
「こゝは、セガラン様が言っていた秦朝関係者の墓じゃないか」
「そうですが、人足が何時の間にか消えていますよ」
「確かにそうだな」
「そうですよ。だから怪しい現場なんですよ」
「それなら、近隣の村から人足が来なかった筈だ。近隣から来たと言う事は、祟られた墓じゃない。もしそうならば、手伝いに来る奴が、一人もいなかったゞろう」
「それはそうですね。怪しい現場なら噂がありますから、手伝いに来る奴もいませんしね」
「そうだろ。安心しろ」
「では人足が姿を消した理由は?」
「それは・・・ 分からん・・・」
「可笑しいでしょ? 何もない墓なら人が消えるなんて、ありゃしませんよ」
「そうだな。でもな。セガラン様は『人が死ねば肉体は滅び、何も残らない。霊魂等は存在しない。医者として人の死を見て来た経験だ』と言ったじゃないか。セガラン様の国と清国では死は別物か? そうじゃないだろ。死ねば身体は腐り果て、土に還る。しかし霊魂は残る。あるものは転生し、あるものは天に昇る。地獄に堕ちるものもある。そこが違う点だな」
「そうです。この墓には残された霊魂があるんですよ。それが孤鬼や厲鬼になって、人足に憑り付いて、あの世に連れていかれた・・・」
「じゃあ、俺とお前はどうなんだい?」
「どう、とは?」
「俺達も祟られる対象だって言う事さ」
呉は陳から二人が祟られる対象だと言われ、急に悪寒がした。今迄、人足の消えた事だけが気掛かりで、祟りだと思っていたが、自分もその対象だとは少しも思っていなかった。
「親方は平気なんですか?」
「平気じゃないさ。だけどな、人足が祟られて、俺達やセガラン様が無事なのは何故だ? 厲鬼も人を選ぶのか?」
「そんな訳ないじゃないですか」
「そうだろ。可笑しいだろ。だけどな、そう思っても、人が消えた現場に近隣から人を寄せられるか? 変な噂が立った以上、法事はしなけりゃいけないな」
「それじゃ」
「法事はする、人を寄せる為にな。だから兼業の方士様でも構わない、って事さ」
「良く分かりませんが、法事をやってもらえるなら、人足を又集める事も出来ますよ」
「そうだろ、だからお前の知り合いに頼もう」
「分かりました。早速連絡しますので」
「頼んだぜ」




