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36 不吉な兆し

 渭水の北方で墳墓の発掘をしている(ちん)泰平(たいへい)()(せき)の現場に、数日経っても西安の新軍は姿を見せなかった。姉妹墳墓に現れた軍が、どうもそのまゝ現場に駐留する事はせず、直ぐに西安に戻ったらしい。

 現場をカモフラージュして2日程様子見をしていたが、何も起こらず、陳は作業を開始した。


 綺麗に整地した石碑下には自然石が露出している。どれも人工的に成形された形跡があり、陳は呉と話し合い、石碑を移動してその下を確認する事にした。その決定はセガランに知らせようにも、彼は日本に旅立って以降連絡を寄越さず、全て陳に一任した形になっていたから、当然と言えば当然な行為であるが、それでも陳はセガランに相談したい気持ちがあった。


 トウモロコシ畑と雑木林が広がる周辺を見ても誰もいない。静かな現場であった。人足が陳の命令で横たわった石碑を移動させるのに必要なコロを石碑の下噛ませているが、中々作業が捗らない。成形された自然石とは言え、表面上の凹凸が結構あり、スムースにコロを噛ませられない。


「呉よ」

「何ですか?」


「結構な時間掛かるな」

「そうですね。ですがもう少しで石碑を移動出来ますよ。問題はその後ですかね」


「そうだな。碑を動かしても、その下の岩を動かせるか、掘り返せるか? お前どうする?」

「駄目なら、何時ものように脇から入れば良いじゃないですか」


「何時もなら、俺もそうするさ。けどこれはセガラン様の現場だぜ。盗掘みたいな真似出来るか?」

「駄目なんですか?」


「駄目とは言わないさ。だがな・・・」

「そんな悠長な事言って、軍に見つかったらどうします? それこそセガラン様に、ご迷惑を掛けちゃいますよ。軍にしたって、盗掘には目を光らせているんですから。見付からない内に作業を終わらせて引き揚げましょう」


「そうだな。見つかったら、全てオジャンになってしまうからな。作業を急がせてくれ」

「はい」


 呉は陳の指示を受け、人足に発破をかけた。気合を入れられた人足は、掛け声を掛けながら作業を進め、徐々にコロが碑の下に敷かれていった。

 石碑の下にコロが噛ませられ、梃子で重い石碑を少しずつ移動させる。十人に満たない男達が丸太の梃子を碑と岩の間に入れて、懸命に動かす。碑はコロの上を少しずつ動く。それを何回か繰り返し、碑の下に隠されていた岩の全景が見えて来た。


 一辺が3尺(約103.5cm)×6尺(約207cm)の岩が縦に2個、横に2個、合計4個現われた。広さにして4.14m×2.07m、約8.6㎡の岩畳であった。

 呉はバールを岩と岩との間に差し込み、梃子の働きで力を入れてみるが、そんな事で岩畳が動く筈もない。次に岩の端を叩きたがねで穿った。穴は開いたが、亀裂は造れなかった。そんな動作を何度か繰り返し、破砕出来る箇所を探す。しかし、その作業は余り捗々しくなかった。


 それを見ていた陳は、岩の側面を掘り下げるよう人足に命じた。一ヶ所の岩の側面を円匙(えんぴ)で3人が掘り返し始めた。土は礫が混じらず、掘り返し易かった。30cm程掘り下げたが、岩肌が露出したのみであった。更に作業は続けられ、何時しか地表から2m程迄に掘り下げられた。しかし、岩の末端は現れなかった。


 陳は作業を中止させた。何時迄掘っても底の見えない作業に、人足が音を上げたので、諦めた格好になった。

「おい、呉」

「何ですか?」


「今日の作業はこれで仕舞いにしよう」

「そうですね。底が確認出来ませんから仕方ないですかね」

呉は人足に命じて、脇に置いておいた雑木を石碑と岩畳に敷き詰めた。こんもり茂った雑木のように遠目には見えるだろう。


「明日、一気に掘り下げよう。何時迄も悠長にしていられないからな」

「はい」



 翌日、現場に集まった人足は5人しかいなかった。陳と呉を合わせても7人。2人の人足が現場から姿を消した。


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