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32 袁世凱登場 1

「閣下、李閣下」

 西安城の中で()(ぎょく)(しょう)の副官、(ひょう)(かく)(うん)は袁世凱の突然の訪問を受け、主の李を探していた。何の先触れもなしに袁が西安にやって来た事は、馮を驚天動地の心境にさせた。兎にも角にも袁を貴賓の間に案内し、直ぐに主を呼びに部下を走らせたが、二人だけの時間と空間に耐えられず、貴賓の間を退出してしまったのだ。

 何の目的もなしにやって来る男ではない。何かしらの意図を抱いて来たに相違ない。そう思うと、彼一人で接待する事が恐ろしく、思わず退室してしまった。

 室内には女官がいるので、最低限不都合はないと思っているが、それでも役人が接待しない事などあり得ない筈だから、心中は複雑であった。ほんの1、2分が1時間にも感じられ、冷や汗が浮かんでくる。


 部下の一人から主を貴賓の間に連れて来た事を知らされ、馮は急いで部屋に戻った。そしてそこで見たものは、袁が床に倒れている李を足蹴にしていた姿だった。

 馮は唖然として棒立ちになってしまった。人の気配を感じ取った袁は、それが李の副官であると認識し、彼に向かって怒鳴った。


「こっちに来い」

 その怒声に気圧されて、彼は袁の元に近付いた。そして彼も袁から鉄拳を喰らわされた。



 暫く経ち、二人は女官から止血と内出血の手当てを受けていた。その隣では同じく女官に両の手の拳を冷水で冷やされている袁世凱がいる。

「俺が何も知らない、と思っていたのか。どうなんだ?」

「滅相も・・・」


 李が返答を返すが、明瞭に聞こえない。

「満足に口も利けないのか」

「申し訳・・・」 


 途切れ途切れにしか聞こえない。

「俺を騙せると思っていたのか?」

「・・・」


 李は項垂れて何も言えなくなった。馮も女官に手当てをされたまゝ、黙って俯いていた。

「俺には宮廷を去ったとしても、何人もの部下がいる。それに皇后陛下は俺の立場にご理解を示し、『暫しの猶予』と迄言って頂いた。直ぐに北洋軍の指揮権は取り戻せるのだ。巡撫や総督の一人や二人、何時でも首を挿げ替えてやるぞ。お前も例外じゃない」


 顔を腫らした二人には、袁の言葉が傷口に塩を摺り込むように感じられた。彼等の行為が既に袁に知られているから、西安に先触れもなくやって来たのだと理解した。

 李は最早事の隠ぺいを諦め、全てを晒す覚悟を決めた。しかし、馮はこの窮地を李単独の計画として、己は与り知らぬ事と言い繕い、脱しようと考えた。責任は全て巡撫たる李にあり、己は命令されたゞけだと抗弁しようと。


 馮が思い巡らしている時、ふと疑問が浮かび上がった。

 “確か、袁世凱閣下は摂政王、醇親王載灃じゅんしんのうさいほう殿下から軍機大臣兼外務部尚書の任を解かれ、帰郷療養を命じられた筈。河南省彰(しょう)徳府(とくふ)(現在の河南省安陽市)で隠遁生活を送っていたのではないか? すると先触れなしに来たと言う事は、先触れを送る事が出来ず、単独で入城したという事か?”


 彼の顔に少し余裕が見えるように感じられた。

 “白を切り通せば、何も尻尾を掴まれる事はないし、そもそも我々を詰問する権限もない筈だ、・・・と思う。此処は強気で臨んでみるのも手だな、多分? この考えを李閣下に伝えるべきなのか? 厭々、閣下の責任で押し通せば、俺が次の巡撫に袁閣下から推薦して頂けるかもしれない。今の袁閣下の立場を示唆すれば、何の権限があるのかと。どうしたものか?”

 馮は逡巡した。白を切るには袁閣下の立場を李閣下に伝え、彼から詰問させなければならない。そうすると責任を李だけに被せる事は不可能になる、俺も一蓮托生だから。それとは逆に、責任を李のみに被せれば、その後で袁閣下の立場に疑問を呈し、兵に逮捕させれば良いか。彼の思考はそれぞれのメリット、デメリットを天秤にかけて答えを出そうとしていた。



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