27 陳と呉
陳泰平と呉石のいる場所は、咸陽から南西に15km、西安から西に50km、渭水から少し離れた処である。トウモロコシ畑と雑木林が広がる、何処にでもある風景が続いている。
人足が陳の命令で横たわった石碑を中心にして、四方10m余り、約100㎡を掘り返していた。地表から60cmは掘り下げられたゞろうか。石碑は明らかに横転したのが分かった。基底部に礎石が据えられていたのが確認された。掘り下げた地盤を見ると、一部硬い岩石が露出していた。人足達が土を剥ぎ取ると、岩石が次々に露呈して来た。それは人工的に配置されたかのようであった。人足の作業を見ていた呉は、岩石の掘り出しを中止させた。
「親方」
「何だ、呉」
「この岩石、どうしますか? 自然石なんですが、綺麗に並べたようですよ」
呉の呼びかけに応じて陳が呉の傍に来て、露出した岩石を見渡した。確かに人為的に配置されたように見える。どれも不成形な自然石ばかりだ。
「成形されていない岩だな」
「そうなんですよ。手の入っていない石ばかりですから。どうしましょうか?」
「自然に、こんなに綺麗に並ぶか?」
「可笑しいですかね?」
「俺等には判断出来ねえから、そのまゝにしておいて、他を掘り下げろ。それと平面図と写真は撮っておけよ」
「分かりました。お前等、親方の命令だ。岩はそのまゝにしておけ。それで他を掘れ」
陳の命令を呉は人足に伝えた。人足は岩の土を水で洗い、他の土の部分を掘り下げた。
礫を含まない均一の土を掘り下げる。それだけでも人為的なものであるのが分かる。周りの畑は礫交じりの土であるから、限られた作物しか作っていないのだろう。その日は横転した石碑の周りを30cm程掘り下げて終了した。
作業が終了する頃、西安へ見張りとして派遣していた人足が帰って来た。陳達のやっている事は幾ら、セガランから頼まれたとは言え、西安政府に無届けで行っている発掘である否、盗掘である。盗掘を生業とする陳にとって、恐ろしいのは陝西省新軍であった。役人に袖の下や鼻薬を与えれば、多少の事は目を瞑ってくれるだろうが、彼等の仕事はそれ程儲かるものではない。当たればめっけもの位だから、賄賂など出せよう筈もない。精々、軍の目を盗んで仕事をするしかなかった。
「親方。戻りました」
「おゝ、萬か。ご苦労だったな。丁度帰る処だったから、良かったな。宿に帰って酒を飲もう」
「ありがとうございます」
「変わりはなかったか?」
「それが、新軍の一部が、トラックで西安の西に向かったのを見ました」
「どれ位だ?」
「50名位でしょうか」
「向かった先は?」
「恐らく、前の現場ではないですか?」
「すると、姉妹墳墓だな」
「そうだと思います」
「何か出たか?」
「否、何も聞いていません」
「何用で向かったのかな?」
「さあ・・・」
「まあ良いさ。こっちに来られなけりゃ構わない。おい、呉。一寸来い」
「何ですか親方」
「今、萬から聞いたんだが、巡撫軍が姉妹墳墓に向かったらしいぞ」
「何かあったんですかね?」
「何もなかったらしい」
「それじゃ、何で?」
「分からん。分からんから、こちらも注意しなけりゃならんな」
「そうですね。雑木で覆いましょう。そうすれば誤魔化せますよ」
「そうだな。そうしてくれ」
呉は帰り支度の人足に命じて、近くの雑木を刈り取らせ、掘り下げた地表の上にばら撒かせた。そうして雑木林のようにカモフラージュさせた。




