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26 李玉祥の疑念

 西安城で、陝西省巡撫、()(ぎょく)(しょう)は配下の副官、(ひょう)(かく)(うん)を怒鳴りつけていた。

「何時になったら作業が終わるんだ。もう一月になるぞ」

「劉が申すには『今暫く』との事です」


「それは前にも聞いた、二度も三度もな」

「申し訳ございません」


「お前が謝って済むか。劉を呼んでこい」

「使いは出しております」


「それはさっき聞いた」

「そうでしたか?」


「惚けるな。お前は誰の配下なのだ? 宗人府か?」

「私は李閣下の副官でございます」


「そうでなければ、首を刎ねる処だぞ」

「閣下、そのような戯言を言うものではございません。誰が聞いているのか、知れないのですぞ」


「うるさい」

 李は苛立っていた。劉に早く見つけなければ、首を刎ねると脅した処、劉の上司である宗人府の属官、(そう)強力(ごうりき)が、紫禁城で李が摂政王と交わした覚書を持ち出して、仲裁に乗り出して来たのだ。そして金で口を噤むように釘を刺された経緯があったから、尚更だろう。


「これから現場に行く」

「これからですか?」


「そうだ」

「車を手配しますので、暫しお待ちを」


「早くしろ」



 李は1小隊、60名の兵士を乗せた軍用トラック3台を従えて、姉妹墳墓の現場に向かった。現場では警護を担当する兵士が、手持ち無沙汰な様子で周囲を警邏している。明らかに指揮の低下が見える。

 現場で働いている人足には、だらけた様子は見えなかったので、彼は警護責任者を呼びつけ、制裁を加えて規律を保とうと考え、鉄拳制裁を加えた。部下にそれを見られた上官の立場はなくなった。李は責任者の交代を告げた。現場上官は失意の中逃亡し、陝西省巡撫への反乱軍に参加したのである。


 墳墓からは頻りに人足が土砂とレンガを運び出しているが、劉の姿が見えない。恐らく、暗渠水路の中で指揮しているのだろうと考えたが、中に入って彼を探す気にはなれなかった。あの狭くて息苦しい暗渠に、又入りたいとは思っていなかったから。


「そこの人足。劉を呼んで来い」

 彼は眼の前で土砂を運ぶ一人の人足に荒々しく命じた。

「はい。何方で?」


「劉だ、こゝの責任者だ」

「責任者なら向こうにおりますが」

 人足の指差す先には薄汚い作業着を纏った劉がいた。


 李は兵士に命じて劉を連れて来させた。劉は李の来訪に驚いた様子で、急いでやって来た。

「これは閣下、御役目ご苦労様でございます」

「ふん。挨拶なんぞよい。それよりもだ、もう一月も経つが、一向に隋の秘宝発見がないのはどうしてだ」


「それが閣下も噂でお聞き及びと思いますが、厲鬼の祟りが人足達に蔓延して、一時作業が中止に追い込まれました」

「それは聞いている。しかしだ。法要を行って一掃したんだろう?」


「はい。偉い阿闍梨様にお願いしまして、催しました。それで作業日程が狂いまして、遅延している訳です」

「そんなに中断したのか? 警護の兵に聞けば分かるんだぞ」


「人足の英気を養う為にも休暇を取りましたので、それもあるかと」

「休暇?」


 李は胡散臭そうな顔をしながら彼の話しを聞いていた。そして周囲を見回し。

「人足が一月前より少ないんじゃないか?」


 李の質問に劉は驚いた。しかし心の動揺を押し隠し、平静を装いながら応えた。

「立て続けに何人もの人足が不審な死を遂げておりましたので、逃げた人足もございました」

「ふーん」


 如何にも訝しそうに劉の顔を見る李。劉は人足の不足を知られない様、話題を換えたかったが、言葉が続かなかった。しかし、李も現場の雰囲気が一ヶ月前と比較して変わっていると感じたが、具体的にどれがどうだと迄は言えなかった。感覚として可笑しいと感じたのだ。後で兵に一ヶ月の間、何があったか聞けば分かるだろう、と思い劉の説明を受け入れた。


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