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14 李玉祥の思惑

 劉は姉妹墳墓の入り口から中に、陝西省巡撫、()(ぎょく)(しょう)を案内した。玄室への通路を通って玄室に入り、壁面に開けられた人口穴を通り、暗渠水路に辿り着く。

「こゝがお前の言っていた水路か?」

「はい、そうでございます。巡撫閣下」


「何もないではないか?」

 暗渠に水はなかった。水路の路床が見える。何処迄続いているのか分からないが、排水口のある渭水迄続く水路は現在使われておらず、反対側の取水口を見やっても干上がっている。何時からなのか、この水路は使われていない。

「ご安心下さい。“円天井の水路の下”に口にしてはいけない物があると思われます」


「ならば直ぐにでも掘り返せ」

「お待ち下さい、巡撫閣下。先ず、この遺構の平面図、断面図、全景図を測量致します。その後に発掘に掛かりますので、今暫くの御猶予をお願い致します」


「それはどの位掛かるのか?」

「半年程は必要かと思います」


「ふざけるな、そんなに待てるか。良いか。お前達の命なぞ、鶏程の価値もないのだぞ。俺の命によって、朝露の如く消え去るのだ。明日から掘り返せ。これは陝西省巡撫の命令だ、絶対だ」

「はい」

 劉は首肯するしかなかった。摂政王との打ち合わせでは、共同で行うと言われたが、いざ李玉祥を現場に案内すると、全てが彼の命令の下、動いているように感じられた。こゝでの責任者は劉であったが、位階からして李とは雲泥の差があった。彼の命令に背く事など出来なかった。せめて、宗人府の宗令か彼の上司の属官、(そう)強力(ごうりき)でもいれば、多少は違ったかも知れないが、劉のような小者では如何ともし難かった。


 劉は暗渠内での説明を終え、李を墳墓の外へと案内した。外では人足達に、先程李より命じられた発掘の開始を明日から行うと説明した。その様子を満足そうに聞いていた李は、墳墓の警護用に数十名の兵士を残し、巡撫新軍と共に西安城に帰還した。後には劉と呼び集められた人足だけが、帰り支度をしている。


 周りには殷朝からの歴代王朝の墳墓が、其処彼処に見られた。全てが小高い丘のように見え、雑草に覆われているか、低木が何本か繁茂している。鬱蒼とした雑木林にはなっておらず、一応の手入れは入っているようだ。

 そんな周囲を見回して、劉は本当に、こゝなのか不安になった。咸陽や西安の郊外は王族の墳墓が築造された場所であり、当然盗人の仕事場でもある。そのような場所に、王朝の宝物を埋蔵するだろうか? その疑念が湧いて来ると、劉は水路を掘り返して、何も出土しなかった時の事を想像した。

 それは彼の死を意味するだろう位の推測は出来た。逃げ出そう。仕事をほっぽり出して北京に戻ろう。上司には巡撫に脅されて、厭々従っていたが、脅迫に耐え切れず逃げ出したと。当然宗人府を放り出されるだろう。仕事を辞した下級役人の勤め口など、幾らでもあるだろうから、そうしよう。命あっての物種。そう考える一方、両親が如何に苦労して宗人府の仕事を世話してくれたか。漢人の親にも己にも、満人への伝手などない。真面な事をしても紫禁城に務める事なぞ出来ない位、察しは付く。それを思うと如何にすべきか悩む劉であった。



 翌日から劉と人足達は水路の路床のレンガを一枚一枚丁寧に剥がし始めた。取水口と排水口、二方向に向かって人足を差し向けた。手荒に掘り返さないよう作業を進めたのが、せめてもの李への抵抗であろうか。地下の狭く、息苦しい場所に李は来なかったから、遅延行為を咎められる心配はなかった。

 2ヶ月程で暗渠の路床レンガの大半を剥がしたが、何も出土しなかった。その間、劉は宗人府の上司である理事官、曹強力に経過説明をして、姉妹墳墓が石碑で示した場所でない事を伝えた。そして彼と人足達の身の安全を確保する為に、曹の来訪を要請した。そうしなければ李によって、成果のない咎によって処刑されると涙ながらに訴えた。


 曹は事態の収拾を図る為、摂政王の覚書を携えてやって来た。李の怒りを幾らかでも緩和しようと、調査の継続を北京が決定したと伝えた。これは両者の合意の下になされた契約である写しを見せる事で、彼に反駁させない為であった。写しを見せられ、李も引き下がらずを得なかった。しかし彼は己の面子を考え、軍の駐留費の増額を求めた。曹も李の要請を受け入れた、事が穏便に済むのであればと。



「劉よ。巡撫様の機嫌を金で買ったようなものだったぞ」

「本当に申し訳ございませんでした。巡撫様のお怒りは、それは酷く全員殺されるかと思いました。現に、うなされて病気になった者もおりましたので」


「何はともあれ、はした金で済んだのだから、良しとしよう。それよりもこゝでないとしたら、隋の秘宝は何処にあるのだ?」

「それでございますが、この辺り一帯は王侯諸侯の墳墓だらけでございます。謂わば、盗人にとって、宝の山とも言える場所でございます。果たして、そのような場所に隋の秘宝を隠すでしょうか? 今回の件でム(わたくし)は確信致しました。碑文には“本当の名前は、回廊を金メッキで飾る処にはない、行状を詳らかにする処にもない、人民が悔しさを打ち砕く処にもない。本当の名前は、宮殿の中で読まれるものではない、同様に庭園でも、洞窟でもない、しかし、私が渇きを癒す水道の円天井の下の水によって隠されたまゝである”と陰刻されております。ムはこれを今一度読み返して、こう解釈致しました。“水道の円天井の下の水によって隠されたまゝ”とは・・・」



 その頃、曹との会見を終えた李は副官、(ひょう)(かく)(うん)と秘かに語り合っていた。

「ようございましたな、閣下」

「何がだ?」


「閣下、ご冗談を。前の直隷総督様に全く感付かれる事もなく、宗人府から金銭を引っ張り出すなど、流石と存じます」

「これは偶々だ。怒りに任せて口から出た言葉を彼等が、勝手に脅しと解釈したおかげだ。俺でも監国様との約束を違える事なぞ考えておらんし、反故にする気もない」


「前の直隷総督様に、全く知らせなくとも良かったのですか?」

「構わん。直隷総督殿の力は雲散霧中した。監国様の影響力の方が強いから、この度の件で俺は謁見を望んだのだ。この伝手を利用して、俺は宮中内部に手を伸ばすぞ。そして、直隷総督殿に取って代わり、新軍を指揮したい」


「それは遠大なお考えですな」

「それだけの力を得られるチャンスだ。是非とも隋の秘宝を手に入れたい。それにはどうしても、劉の協力が必要だ。金の卵を産む牝鶏をどうして殺せようか。無論、雄鶏は食ってやるがな」


「左様でございます」

「そこでだ、早く目的の遺構が何処にあるのか、劉の尻を蹴飛ばしてゞも探させよ」


「分かりました」


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