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13 もう一つの遺構 2

 2週間後、陳はセガランの希望通り人足を10名集め、地図に示された渭水の北側に集合した。セガランは既に現地について、辺りを調べている。日は既に天空に昇り、時間にして10時近いだろう。

「おはようございます。セガラン様」

「おはよう、陳君。良く集めてくれたね。感謝するよ」


「おはようございます。セガラン様」

「おはよう、呉君。引き続き頼むよ」


「はい」二人は連れて来た人足に指示して、荷物を降ろし、人足を待機させた。そしてセガランの傍らにやって来た。


「こゝですか?」

「多分、そうだと思う」


「なにもありませんが」

 少し不安気な顔で陳が尋ねた。そこには一部風化して判別不能な石碑が横たわり、10cm程地中に埋まっていた。若干盛り上がった地形である事は分かるが、墳墓や塚の類いとは思えない程雑草以外何もなかった。

 しかし、そこが墳墓らしき場所であった事を思わせる証はあった。そこの土には礫が含まれておらず、均一の土であり、灌木もそこだけ生じていない。一面雑草に覆われ、少し高くなっているだけだ。そこから少し離れると、トウモロコシ畑が広がり、雑木が鬱蒼と茂る場所もあれば、礫交じりの硬い地面が見える耕作地もあった。しかし、調査地は耕作した形跡もない。雑草だけが生い茂り、灌木が繁茂しないのは樹木の根が地中深く張らないからだろう。この下には硬い岩盤があるか、人為的な構造物が埋まっている可能性がある。セガランはそれらの理由から、この場所に何かゞ埋設されている、と睨んだ。

 辺りには高木が生えておらず、見晴らしは比較的良かった。これなら、巡撫の軍が近付いても直ぐに分かる。


「この碑を中心に発掘してくれ。そして碑文は拓本に採ってくれないか。私が離れる前に判別したいから、頼むよ」

「了解しました。おい、お前達。この碑を中心に掘り下げてくれ」


 陳の命令で彼の連れて来た人足が石碑の周りに集まって、測量用の杭を打ち始めた。

 測量が終わり、人足が一斉に地面を掘り返した。陳を除いた7人で掘り起こしているが、土が比較的柔らかい為、順調に作業は続けられた。掘り下げて行く過程では何も出土していなかった。もし昔から耕作されている土地であれば、地層が結構攪乱されており、60cm程迄の地層は掘り易い。

 陳は2人の人足に命じて、石碑の碑文を採取する作業に取り掛かった。石碑自体は、人足が地表面を掘り下げたので、底部が確認出来た。全体の掃除から始め、こびり付いた土や苔を取り除く作業は結構時間を要した。余り強く擦ると碑面が剥離する恐れもあるので、作業は慎重に進められた。碑の3面の洗浄が終わり、その日の作業は終了した。

 現場は近くの村から5km近く離れているので、作業を終え、宿舎に帰る時間も考慮すると、3時頃には帰路につかないと暗くなってしまう。人気のない暗い夜道を進めば、夜盗の類いに身ぐるみ剥がされ、金目の品を強奪される恐れがあるから、日の有る内に帰らねばならない。その頃の清朝の治安はめっきり悪くなっていた。幾ら巡撫の軍が駐留する場所であっても、治安の悪さは如何ともし難い。これが西欧諸国や日本に圧迫される前であれば、皇帝の威光は帝国内に隈なく及んでいたものが、今では昔日の面影もない有様である。



 宿舎に帰り、セガランは陳と呉を呼び、翌日からの作業について指示した。あと1週間もすれば、彼は日本に向け出発する為、上海に向かわなければならない。時間がない事を二人に告げ、先ず以って、拓本採取を急ぐように話した。そして、問題は李巡撫の心配である。自分がいなければ作業が中止になったり、作業自体が李に取って代わられたりしかねない。

 しかし、その心配は杞憂であった。姉妹墳墓の発掘が再開された事を陳がセガランに告げたのだ。何でも北京からの命令で、李と劉との合同の作業になったらしい、と陳が話した。それは即ち、陳達が西安の現場から外された事を意味するし、それだから彼の要請に応じられたとも言える。

 セガランは作業の進め方を事細かく伝えた。自分がいなくとも判断に困らない様、詳細に渡って指示した。本当は書面にした指示書を残せれば良いのだが、二人は字が読めないと言っていたのでそれは諦め、

否と言う程細かい話し迄した。二人の理解力を超えるか心配したが、作業には慣れているのでその心配はなかった。その晩、彼は北京の摂政王に向けて、日本へ向かう渡航費と滞在費及び日本での調査費の概算を計算して請求書を摂政王に送った、全額を上海に到着している妻の滞在ホテルに送金するよう申し添えて。

 一週間後、彼は陳達に賃金を上海から送金する事を約束した。陳達への金が北京より送られる事を伝え、一連の作業手順といざと言う時の判断を陳に与え、上海に向け旅立った。そこには彼の妻と妹も既に着いている筈だ。


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