10 二人の報告
セガランは図面、写真、拓本の資料を抱えて北京へやって来たが、今回彼は劉も同道させた。解明の糸口になったのが劉だったので、それに少しでも報いようとの思いだったのかもしれない。
劉にとっては願ってもない帰京だった。彼も今回の件について、彼の上司、曹強力に報告する義務があったからだ。
「良くぞ戻られた、セガラン殿」
満面の笑みで摂政王載灃がセガランを迎えた。
「ありがとうございます。監国様のご要望に叶い、安堵致しました」
「いやいや、お礼を言うのは私共ですぞ。これで大清帝国の復活が、成るやもしれません」
「それは慶事でございます」
「これはセガラン殿への返礼と言っては失礼かと存ずるが、今の仕事は一応の片が付きましたので、静養がてら東夷に遊ばれては如何ですか?」
「今の仕事は宜しいので?」
「はい。後の事は宗人府に任せますので、セガラン殿は何の気兼ねなく、ご静養なされ。勿論奥方や妹御もご一緒に渡航されては如何か。無論費用は全額大清帝国が負担致します」
「勿体ないご提案、ありがとうございます。しかし、妻とも相談致しませんと、返答致しかねますので、一度家に戻り、それからご連絡致して宜しいでしょうか」
「何ら問題ありません」
「それでは、そうさせて頂きます」
セガランは載灃に、姉妹墳墓の発掘について報告をすると、その足で自宅に戻った。何ヶ月振りかの帰宅であった。
その頃、劉保も宗人府の上司、属官、曹強力に報告をしていた。
「これが石碑の拓本か」
「そうでございます」
「何々。“本当の名前は、回廊を金メッキで飾る処にはない、行状を詳らかにする処にもない、人民が悔しさを打ち砕く処にもない”。それから、“本当の名前は、宮殿の中で読まれるものではない、同様に庭園でも、洞窟でもない、しかし、私が渇きを癒す水道の円天井の下の水によって隠されたまゝである”か・・・ これが我々の求めていた鍵なのか?」
「はい。この碑の陰刻に“諱名”と題された文字がございました。これは本来口外するのを恐れる名である、という事ございます。龍名に通じるかと思われます」
「それで?」
「つまり、天子様が子孫に伝えたいものがそこに有る、と判断致しました」
「分かった。それで墓は如何した?」
「はい。発掘後、直ぐに埋め戻しまして、陝西省巡撫様にお願いしまして、厳重に兵士に拠って周りを警護させております」
「それでは、李玉祥様に知れてしまったな」
「その辺の処は、理事官様に予算を計上して頂きましたので、たっぷり鼻薬を嗅がせておきましたので、ご安心を」
「それは重畳であった。あとは李玉祥様から袁世凱様に連絡がなければ、万事安泰か」
「左様でございます。鼻薬は充分嗅がせておりますので」
「続けてくれ」
「はい。その墓は、内部構造が王侯諸侯のようでありながら、玄室そのものは、質素な造りでございました。この矛盾する造りに疑問を持ちまして、盗人の盗掘穴を調べました処、連絡通路が現れまして、地下の暗渠水路につながっておりました。その水路が正しく石碑に刻まれたものと一致しておりましたので、後日北京より調査隊を派遣して頂き、水路の徹底的な調査を致せば、監国様の求められているものが見つかるかと」
「分かった。ご苦労であった。私から宗令様に、この事は報告する。無論、お前の名前も添えて言上するから安心せい。何らかの褒美があるやも知れぬぞ」
「はっ。恐悦至極に存じます」




