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1 北京に住む

 その男が北京の北部地区に居を構えたのは、1910年からだったが、前年の6月には、友人と既に北京に滞在していた。彼は妻と一緒に北京の自宅で、1年余り暮らした事になっていた。その家は支那では何処にでもある、屋根の持ち上がった赤い板張りの赤く塗られた平屋であった。

 彼はその間何処で、何をしていたのか。公式には清国政府の要請で支那の奥深くを探検していた事になっていたし、色々な伝記や記録にもそう書かれている。しかし、その前から北京には住んでいたとの風聞もある。それと言うのも、公式記録には1910年からと記載されているが、彼の行動から推測すると、1908年には行動を開始していると思われた。


 清国第11代皇帝光緒帝、愛新覚羅載湉(あいしんかくら・さいてん)が1908年11月14日に崩御され、第12代皇帝宣統帝、愛新覚羅溥儀(あいしんかくら・ふぎ)が帝位を継いだ。摂政は西太后によって指名された、溥儀の父親、醇親王載灃(じゅんしんのう・さいしん)であった。

 摂政の政治権力は1911年の辛亥革命で失墜した訳ではなく、宮廷内の陰謀によって瓦解したのだ。戊戌(ぼじゅつ)の政変、光緒帝の毒殺、袁世凱(えんせいがい)の失脚及び暗殺計画そして孝定景皇后(こうていけいこうごう)による袁世凱への全権移譲命令によって清国は崩壊した。

 1908年、清国の密命を帯びた彼の行動は既に始まっていたが、彼の行動が日の目を見る事はなかった。惜しむらくは、もう少し早ければ、彼の行動が清国存続につながった可能性があった。


 彼は西太后及び醇親王載灃より各々賜った密命を達成するべく、支那中央部や日本を秘かに訪れたが、その何処にも彼が探し求めたものはなかった、とされている。それはそうであろう。清国は1911年に帝国として死んだのだから。しかし、彼の探し求めたものは見付からなかったのか? 

 実は見つかっていた、と主張する者もいた。彼の見つけたものは、彼の作品の何処かに隠されている、そのような噂が度々流れて来るからだ。そして彼の発見したものは、秦又は隋帝国の莫大な財宝だとも、秦の始皇帝が探し求めた不老不死の仙薬とも噂されていた。

 西太后や醇親王載灃が清国の政体を換えずとも、清国の存続する術があったのだ。唯、その術は間に合わなかった、清国延命には。

 だから彼は悩んでいるのだ。その術を中華民国に提出して良いのか、どうか。清国存続策として計画されたものを中華民国政府に差し出して良いのか。しかし、それは否定された。その後の歴史が物語っているではないか。中華民国は大陸から追い出されてしまったから。だからと言って、彼をこの国に派遣した母国に持ち帰るなど、以ての外である。


 この男は1902年、ニューヨークとサンフランシスコを経由して、タヒチに行く為アーブルで船に乗った。海軍の要請でタヒチを目指していたが、彼の関心事は仕事よりもゴーギャンに向いていた。それもあって、彼はこの仕事を引き受けたのだ。

 かの地での数年の勤務を終え、彼は母国に帰還すると、幾つかの散文や詩及び論文を出版した。売り上げは決して良いものではなかったが、一定数の読者は獲得していた。彼も心得たもので、作品によっては出版元を変えたり、ペンネームで出版した事もあった。幾らかでも、作品の評価を上げたかったのだろう。

 言わば二足の草鞋を履いていた男が、次に外国から招聘されたのだ。その国は清国。西欧列強の圧力と大日本帝国の圧迫を受け、政治体制の変換を迫られていた時に、彼は呼ばれたのである。


参考文献

 新字鑑 弘道館発行 鹽谷溫編, Victor Segalen Jean-Louis Bedouin著 

Lecture de Steles Victor P. BOL著, 中国史 朝日新聞出版 岡本隆司監修

中国の呪術 大修館書店 松本浩一著, 中国の神話伝説 青土社 袁珂著 鈴木博訳

中国古典文学大系8 抱朴子・列仙伝・神仙伝・山海経 本田済、沢田瑞穂、高馬三良訳



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