あいすくりーむ
姉がアイスを片手に空を見上げる。
空からは雪が降っている。
チラチラと。
チラチラと。
雪が降っている。
大変寒いです。
何で冬の寒い日にアイスを食べてるんだろう?
意味が分からない。
「アイス、それは人類が作り上げた至高の一品」
姉よ震えながら食うな。
「そうやね」
馬鹿姉の言葉に頷く僕。
「アイス美味しいな~~」
「美味しいね」
「今の季節が冬で無ければ……」
「そうやね」
姉の唇が寒さで変色してます。
アイスによるものではない事は確実です。
ええ。
「寒い」
姉の目が死んでた。
寒さのあまり。
だろうな~~。
僕も寒い。
ガクガク。
ブルブル。
ガクガク。
ブルブル。
僕ら二人寒さで震えていた。
「姉が食べたいと言ったんだろう」
死んだ目の姉にツッコむ僕。
「そうだけど」
姉の目が泳いでいる。
「私たちは食べないからね~~」
「残らず食べなさい」
両親よ。
確かに僕らが大量のアイスを作ったのは悪い。
段ボール一箱は確かに多いと思う。
だからといって家から閉め出すの酷いと思います。
「せめて家で食べさせて」
「「駄目」」
玄関のカギを閉めたよ。
この両親。
「とほほ~~」
まだ段ボール半分有るんだが。
お腹を壊した時のみしか家に入れないのはキツイ。
ここは自分の家の玄関前。
姉と僕はアイスを食べていた。
血を使ったアイスを。
もう一度言おう。
血を使ったアイスだ。
正確に言えば血を練りこんだアイスだが。
寒さに震えながら食べていた。
オレゴン州ポートランド発祥。
ロサンゼルスやサンフランシスコ、シアトルなどにも店舗を構える人気アイスクリームショップのソルト&ストロー(Salt & Straw)が製作した。
血を使ったアイスを。
ハロウィンシーズンに合わせて新フレーバーを開発したらしい。
本物の「血」を練り込んだアイス。
その名も「ドラキュラズ・ブラッド・プディング」という新商品を誕生させた。
血液を材料として加えたソーセージ。
イギリスやアメリカでは「ブラッド・プディング」という呼び名で、家畜を無駄なく利用する食品として古くから親しまれている。
味わいとしては、レバーに近いと言われているブラッド・プディング。
それをヒントにして制作されたと思う。
それを馬鹿姉は何処からか聞きつけ僕に制作を命じた。
姉の特権で。
鬼です。
「甘くて美味しい」
「そうやね」
「アイスクリームは御菓子の王様よ」
「そうやね」
うっとりとアイスの味を堪能する姉。
「寒くなければね」
姉の目が死んでいた。
「そうやね」
寒さで震えてるんだが?
僕は明後日の方を見る。
どうでも良い。
正直言えばそう言いたい。
というか……。
血を練りこんだアイスなど食いたくないのだが……。
費用は僕の自腹だ。
少しでも元は取らないと。
「自分で作ったアイスクリームは特に美味しいわね」
「作ったのは僕だけど」
「お金は……」
「材料費を出したのは僕だけどね」
「レシピは私が調べたわ」
「そうやね」
「材料を集めたのも私」
「そうやね~~それだけだけど」
うぐぐっ~~と、悶絶する姉。
「アイスを作ろうと思い付いたのは私」
「姉の特権で弟をこき使ったがな」
「うぐ」
ぐうの音も出ないようだ。
「まあ~~美味しいけどね」
「そうね」
姉。
お通夜みたいな顔で言うな。
アイスが不味くなる。
折角のアイスが。
色々言うが僕もアイスは好きだし文句はない。
文句は無い。
無いのだが……。
ガタガタと震える僕達。
「母~~」
「なに?」
僕の言葉に母が家から出てきた。
玄関に待機してたんかい。
タイミングが良すぎる。
「アイスが美味いのは分かる」
「うん」
「でも冬に外で食べる意味が分からん」
「室内だとストーブでアイスが溶けるから」
思わず蹲る僕。
「母~~その理屈は意味わからんっ!」
「溶けたら不味いでしょ」
「分かるけどっ!」
「だったら良いじゃない」
「それで風邪ひいたら意味無いだろうっ!」
「美味しいアイスの為よ」
「だからなに?」
「死んでも悔いはあるまい」
「ありまくるわああああああああああっ!」
僕らを外に締め出し母は家の中に入る。
鍵をかけて。
鬼だ。
鬼がいる。
「うう~~」
アイスは美味しい。
だけどよ~~。
冬に外で食べるのは正気とは思えません。
「それはそうと姉」
「なに?」
「このアイスなんだけど」
「うん?」
「なんの動物の血を使ってるの?」
「豚」
ポトッ。
「豚あああああああああああああああああっ!」
「なに?」
その言葉に僕はアイスを落とした。
新鮮な血を使ったアイス。
新鮮な豚の血?
寄生虫……。
「有鉤条虫の幼虫(有鉤嚢虫)」。
人を固有宿主としている寄生虫。
生の豚肉を食べてしまうと、人に感染する。
有鉤条虫に感染すると、人間の腸内で卵が孵化。
体の各所に有鉤条虫の幼虫が発生し移動する。
体の小腸などの移動だけではなく、眼球や脳にも移動する。
有鉤条虫の幼虫に感染すると、目から幼虫が出てグロい状況になるらしい。
そのことを思いだし僕は意識を失った。
綺麗な川だ。
何故か僕は川岸に立っていた。
見たこともない綺麗な川岸に。
景色もいい。
赤い花が対岸に沢山見える。
向こうの川岸に誰かいた。
二人程。
『こっちに来るな~~』
『来ちゃだめよ~~』
あれ?
去年死んだと思ったお爺ちゃんとお祖母ちゃん?
生きてたの?
気がついたら白い天井を見ていました。
見慣れない天井を。
病院の天井を。
あれ?
後で聞いたら僕は寒さと精神的な衝撃で気絶したらしい。
因みにアイスに練りこまれた豚の血は自然派精肉店から仕入れた物らしい。
やたら高いと思いました。
それはそうと……。
あの川は一体?
それに死んだはずの祖父母は一体?