7 月の光を浴びて
私は毎晩、砂の入った瓶を窓辺に置く。晴れた夜は、月の光が窓にゆっくりとあたって、ガラスをきらきらと輝かせる。それを見ていると、満ち足りた気分になり、アダーリやエルザとの確執を忘れることができた。
窓の桟に私も腰かけて、瓶を振ってみることがあったけれど、砂を取り出す勇気はなかった。万が一砂をこぼしてしまったり、手を滑らせて瓶を割ってしまったら、砂男のことをすっかり忘れてしまうような気がして。
少年の姿をした砂男は、毎晩あちこちの家を回っているらしい。私は何度かその姿を見かけた。彼は軽々と窓から窓へ飛び移り、内側からかかっている鍵をするりと開けて中に入り、眠らない子どもの目に砂を落とす。そうした様子に気がついているのは私だけだ。
時折、彼は私の家にもやってきた。
「よっ、ツィラ。元気か?」
彼は私に朗らかに話しかけた。私も挨拶を返す。それから、ちょっとだけ世間話をして、砂男はまた次の家に行った。本当はお茶でも入れてあげたいけれど。奥さんやアダーリたちの目を盗んでお茶のポットを持ち出すのは至難の技だ。
ツリーを倒した事件の後、奥さんたちは不気味な沈黙を守っていた。私はなるべく奥さんたち__とりわけエルザを刺激しないように、こそこそと目立たないように過ごした。
ある晩、子ども部屋で砂男と話していると、アダーリが入ってきた。
彼女はきっと、私が中にいると知り、足音を忍ばせていたのだろう。背後に彼女がいることにしばらく気がつかず、私は砂男と話し続けていた。話し終わり、さよならと手を振った後でふと後ろを向くと、アダーリが立ち尽くしていたのだ。
アダーリは何も言わず部屋を飛び出し、お父さんを連れて戻ってきた。お父さんは、私に厳しい顔を向けた。
「誰としゃべっていたんだ? どうして、最近ずっと部屋にこもっているんだ。その瓶は何だ?」
私はありのままを答えた。しゃべっていたのは友達だし、ガラス瓶は大切な宝物。何も後ろめたく思うことなんてない。
けれどお父さんは、私の肩をきつくつかんだ。
「いけない、ツィラ。そいつに二度と近づくんじゃない。そいつは、お前を私から奪う悪魔だ!」
お父さんが何を言っているのか、分からなかった。砂男たちは悪魔なんかじゃないのに。
「そんなもの、捨ててしまえ!」
お父さんがガラス瓶に手を伸ばした。それだけは嫌だ。私は、瓶を胸に抱え、部屋の隅にしゃがみこんだ。お父さんは激怒して、私から瓶を取り上げようと躍起になった。騒ぎを聞きつけて、奥さんが私とお父さんの間に割って入った。
奥さんの提案で、瓶の中身を捨てないかわりに、私は夜、一人で部屋にいてはいけないことになった。