3 奥さんとの勉強
街の学校には行かないでいいと、奥さんが私に言った。その代わり、朝食の片づけが終わった後、私は居間に呼び出された。
アダーリとエルザは、連れだって学校に行った。お父さんも、お仕事に出かけた。家に残ったのは、私と奥さんだけだった。
居間のテーブルには、教科書が数冊置かれていた。私の正面に奥さんが座り、厳しい声で言った。
「学校に行く必要はないけれど、子どもは勉強しなくてはならないわ。これから昼間は、私と勉強をするのよ」
私は憂うつだったけれど、ノートと鉛筆も渡され、勉強が始まった。
「私は教師をしていたから、あなたに勉強を教えることができるの。さあ、まずは算数の教科書を開きなさい」
算数は苦手だ。前の学校でも、成績があまり良くなかった。宿題がどうしても分からなくてべそをかいていたら、砂男が解き方を教えてくれたっけ。
奥さんは教科書の目次を指差し、どこまで学校で習ったかを尋ねた。私は正直に答えた。
「今日は復習をしましょう」
と言い、奥さんは簡単な問題をたくさん出した。砂男が教えてくれた解き方を使って、問題を問いた。国語、歴史、ラテン語……復習だけで一日はあっという間に過ぎた。
次の日以降も私は奥さんと勉強をした。私が何度も間違えると、奥さんは私の手の甲を物差しでぴしゃりと打った。夕方、弁当箱と鞄を持ってアダーリたちが帰ってくるまで、二人きりの学校は続いた。
私の手はあざだらけになったけれど、お父さんとアダーリたちは何も言わなかった。
作文を書く時間に、奥さんは私をひどく叱った。私は作文が好きで、はりきって書いたけれど、文法からつづりから内容から、何から何まで奥さんは私の作文が気に入らなかったのだ。
お題は自由だと奥さんが最初に言ったので、私はお母さんのことを書いた。お母さんがどんな人か、どうやってお父さんに出会ったのか、お母さんと私がどんな日々を過ごしたか。けれど、それを読んだ奥さんは突然怒り出した。
「書き直して」
突き返された紙には、奥さんの字でびっしりと「正しい文章」が書かれていた。内容も、「お父さんがどんな人か」にすっかり変えて。
その時、私がどう思って、どうしてあんなことをしたのか__自分自身でもよく分からない。私は、あざだらけの手で、作文の紙を引き裂いた。破って破って、パン屑の山のようになるまで、決して手を止めなかった。
奥さんはもう何も言わず、私を冷ややかに睨んでいた。その日から、作文の授業だけはなくなった。