17 妖精の指輪
私は即座に拒否した。
「そんなことはできません。一度死を迎えた者を蘇らせることなど、あってはならないことです! あなただって、よく理解しているはずでしょう」
「だが、お前は蘇ったではないか!」
主人が椅子を倒して立ち上がり、大声で怒鳴った。シャンデリヤが大きく揺れ、何本かのろうそくが消えた。今や主人は、牙を剥きだし、怒りのあまり顔色をどす黒くして、らんらんと光る大きな目で私を睨みつけていた。
私は慎重に言葉を選びながら答えた。
「確かに、私は死から蘇りました。ですが、それは重大な間違いだと自分でも理解しています。私はいずれ、二度目の死を迎えるでしょう。全く予期せず、生きる喜びをまた知ってしまったその時に。死を裏切るとはそういうことです。生にも裏切られるのです」
「それでもいい。私はもう一度息子に会いたいのだ」
主人は、顔を歪ませて言う。
「たった一日でも__いや、一時間でもいい。息子に伝えたいことがある。息子に聞きたいことがある……」
声を震わせる主人を見て、ツィラが顔を曇らせた。そして、私にささやく。
「ね、砂男さん、ほんのちょっとだけでも、あの人の願いを叶えてあげられないかしら」
若い砂男も同調する。
「そうだぜ、なんか可哀想じゃないか」
「君は、大事なことに気がついていない。彼のご子息を蘇らせる方法など、我々には分からないじゃないか」
「月の光にさらせば……」
「何を?」
ツィラは言葉に詰まった。
「だから、何でもできると軽々しく言ってはいけないんだ。私が残した砂を、君は大切に取っておいてくれた。だが、オーガの息子の形見が残っているとは……」
「何をこそこそとしゃべっている?」
オーガが苛立った。
「言っておくが、お前達に断ることはできぬ。小娘の指を見るがいい」
「指?」
慌ててツィラに両手を広げさせた。右手の小指に銀色の指輪がはまっていた。嫌な予感が増していく。
「ツィラ、この指輪は?」
彼女も困惑していた。
「知らないわ。いつの間にか……はまってたみたい……さっきまでは、絶対になかったのに」
ツィラと私は指輪を抜こうとしたが、どれほど引っ張っても、指の一部のように頑として動かなかった。
「ドワーフに作らせた、約束を守らせるための指輪だ。約束を破れば、小娘は苦痛に満ちた死を迎えることだろう。これより先……」
オーガは近づいてきて、ツィラの右手の小指に軽く触れた。
「少しでも逃げ出そうとか、約束を破ろうと考えた瞬間にも、呪いはふりかかる。いいな、私の息子を、必ず蘇らせるのだ……」
可哀想に、怯えたツィラが私にしがみつく。だが、これ以上異を唱えることはできない。彼女の命がかかっているのだから。
「勿論、時間は十分にやろう。十年ではどうだ?」
返事は一つしかなかった。私はツィラの代わりにうなずいた。
「あなたのご子息を……必ず……蘇らせましょう」
オーガは満足げにうなずいた。




