15 砂男と砂男
私は、走っていくツィラを見送った。
迂闊に全てを彼女に打ち明けたことを、後悔していた。あの話をしたことで、ツィラは確かに傷ついた。死だの報いだの、彼女にはまだ早すぎる。まだ十一歳なのだから。
私の後ろから、近づいてくる者がいた。
「砂の乾き具合はいかがですか?」
砂男同士のおきまりの挨拶だ。私はゆっくりと振り返った。少年のような姿の砂男が立っていた。知らない顔だ。不機嫌そうに顔をしかめていた。
「まあまあだよ。そちらは?」
「上々って感じですけど」
その砂男は、挨拶もそこそこに私を非難する。
「あの子に、何であんなことを言ったんです?」
「あの子?」
「ツィラですよ」
「我々の会話を聞いていたのか。あまりいい趣味とは言えないな」
「趣味が悪いのは、あんたの方だろ」
若い砂男が声を荒げる。
「自分は死んだだの、報いが来るだの……馬鹿なんですか? あんたが蘇って、ツィラと幸せに暮らしてめでたしめでたしでいいじゃないか! せっかく蘇ったのに、また死ぬなんてもったいないだろ」
私は、若い砂男に顔を近づけた。
「君がツィラをそそのかしたんだな?」
低い声でそう言うと砂男はひるんだが、言い返す。
「そうですよ。あの子がかわいそうだったから」
「これからどんな災厄が来るのか、分からないのに?」
「気にしすぎだぜ、じいさん」
砂男は、慣れ慣れしく私の腕を叩いた。
「どうせいつかはもう一回死がやってくるだろ。それまで、ツィラとのんびり過ごせばいいじゃないか。生き急ぐなよ」
彼はとてもいい加減な性格のようだ。
「そうは言っても__」
「とにかく、せっかく今日はクリスマス・イブなんだから、楽しく過ごそうぜ。……あれ?」
砂男は、辺りを見回した。
「あの子、どこに行きました?」
私も気がついた。ツィラの姿がない。さっきまで、屋台の前にいたのに。
「ショックすぎて、家に帰っちまったのかな?」
「まさか……」
屋台の周りを探し回っても、彼女はどこにもいなかった。先程出てきたテントの中にも、広場のどこにも。
スプライトが一人、ふわふわと空中を飛んでいた。私は彼を引き留めて尋ねた。
「屋台にいた、青い服の女の子がどこにいったか知らないかね?」
「えー……」
スプライトはさっと目をそらし、方向を変えて飛んでいこうとした。
「待ってくれ、」
「おいら、何も知らないよ!」
スプライトがそう叫ぶと、若い砂男が手を伸ばし、彼の羽をつまんだ。
「放せよ!」
「なーんか、怪しいな。おい、お前が見たもの、全部話せよ。さもないとこの羽をひきちぎるぜ」
残酷な脅しだ。私は顔をしかめた。だが、このスプライトには聞いたようだった。
「ゴブリン達がさらっていったよ」
血の気が引いた。
「一体、何故……」
「知らない。けど、あいつらオーガの手先だぜ。金のどくろを首からさげてるから分かる」
オーガは残忍な魔王だ。ツィラに何をするつもりなのだろう。
スプライトは逃げていった。私の傍らの砂男を見ると、彼も真っ青な顔をしていた。
「じいさん……」
私は様々な感情を押し殺して、彼に言った。
「これが、君がしたことの結果だ。この先よく覚えておいた方がいい」
だが今は、ゴブリン達を追いかけなければならない。ツィラを助け出すために。




