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月夜に  作者: 六福亭
15/18

15 砂男と砂男

 私は、走っていくツィラを見送った。


 迂闊に全てを彼女に打ち明けたことを、後悔していた。あの話をしたことで、ツィラは確かに傷ついた。死だの報いだの、彼女にはまだ早すぎる。まだ十一歳なのだから。


 私の後ろから、近づいてくる者がいた。

「砂の乾き具合はいかがですか?」

 砂男同士のおきまりの挨拶だ。私はゆっくりと振り返った。少年のような姿の砂男が立っていた。知らない顔だ。不機嫌そうに顔をしかめていた。

「まあまあだよ。そちらは?」

「上々って感じですけど」

 その砂男は、挨拶もそこそこに私を非難する。

「あの子に、何であんなことを言ったんです?」

「あの子?」

「ツィラですよ」

「我々の会話を聞いていたのか。あまりいい趣味とは言えないな」

「趣味が悪いのは、あんたの方だろ」

 若い砂男が声を荒げる。

「自分は死んだだの、報いが来るだの……馬鹿なんですか? あんたが蘇って、ツィラと幸せに暮らしてめでたしめでたしでいいじゃないか! せっかく蘇ったのに、また死ぬなんてもったいないだろ」

 私は、若い砂男に顔を近づけた。

「君がツィラをそそのかしたんだな?」

 低い声でそう言うと砂男はひるんだが、言い返す。

「そうですよ。あの子がかわいそうだったから」

「これからどんな災厄が来るのか、分からないのに?」

「気にしすぎだぜ、じいさん」

 砂男は、慣れ慣れしく私の腕を叩いた。

「どうせいつかはもう一回死がやってくるだろ。それまで、ツィラとのんびり過ごせばいいじゃないか。生き急ぐなよ」

 彼はとてもいい加減な性格のようだ。

「そうは言っても__」

「とにかく、せっかく今日はクリスマス・イブなんだから、楽しく過ごそうぜ。……あれ?」

 砂男は、辺りを見回した。

「あの子、どこに行きました?」

 私も気がついた。ツィラの姿がない。さっきまで、屋台の前にいたのに。

「ショックすぎて、家に帰っちまったのかな?」

「まさか……」

 屋台の周りを探し回っても、彼女はどこにもいなかった。先程出てきたテントの中にも、広場のどこにも。


 スプライトが一人、ふわふわと空中を飛んでいた。私は彼を引き留めて尋ねた。

「屋台にいた、青い服の女の子がどこにいったか知らないかね?」

「えー……」

 スプライトはさっと目をそらし、方向を変えて飛んでいこうとした。

「待ってくれ、」

「おいら、何も知らないよ!」

 スプライトがそう叫ぶと、若い砂男が手を伸ばし、彼の羽をつまんだ。

「放せよ!」

「なーんか、怪しいな。おい、お前が見たもの、全部話せよ。さもないとこの羽をひきちぎるぜ」

 残酷な脅しだ。私は顔をしかめた。だが、このスプライトには聞いたようだった。

「ゴブリン達がさらっていったよ」

 血の気が引いた。

「一体、何故……」

「知らない。けど、あいつらオーガの手先だぜ。金のどくろを首からさげてるから分かる」

 オーガは残忍な魔王だ。ツィラに何をするつもりなのだろう。

 

 スプライトは逃げていった。私の傍らの砂男を見ると、彼も真っ青な顔をしていた。

「じいさん……」

 私は様々な感情を押し殺して、彼に言った。

「これが、君がしたことの結果だ。この先よく覚えておいた方がいい」

 だが今は、ゴブリン達を追いかけなければならない。ツィラを助け出すために。


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