表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月夜に  作者: 六福亭
12/18

12 仲直りの方法

 アダーリとエルザと仲直りするには、どうしたらいいのだろう。贈り物をするのはどうかしら? なんだかわざとらしい気がするし、私にはお金もない。


 二人の喜ぶことをする? けれど、二人が何で喜ぶのか、私には分からない。

『お互いのことを知らないからだ』と砂男は言った。だとすれば、私がまずするべきなのは、二人のことを知ることかもしれない。


 朝、奧さんと二人になった時、私は思いきって聞いた。

「アダーリとエルザは、何が好きなんですか?」

「どうしてそんなことを聞くの?」

 奧さんは鋭く聞き返した。途端にしどろもどろになる私。

「えっと……その、二人と仲よくなりたくて……」

「そう」

 いつものぶっきらぼうな返事だった。けれど奧さんは続けて言った。

「エルザはお菓子作りが好きよ。よくクッキーやケーキを作ってくれるわ」

 それで、私がクッキーを作った時にあんなに怒ったのか。

「アダーリは?」

「あの子は、本を読むのが好き」

「どんな本を?」

「グリムのような、子どものための物語が好きみたいね」

 私がこっそり書いていた物語の作文に、真っ先に目をつけたのはアダーリだったっけ。

「あなたは?」

「え?」

「あなたは何が好きなの? ツィラ」

 私は、心の中で好きなものを数えた。お母さん、砂男、お茶……。

「私は……」

 奧さんは、テーブルに身を乗り出し、私に語りかけた。

「アダーリとエルザも、あなたと同じ。あなたが喜ぶことを知りたいと思っているはずよ」

 なぜだか分かる? と奧さんが尋ねた。

「私を……愛したがっているから?」

「そうね」

 私はうつむいた。

「私も。私も、アダーリ達を愛したい。でも、その方法が分からないです」

 奧さんが椅子から立ち上がる。

「いい、ツィラ? あの子達も、よく喧嘩をするのよ。でも、仲直りする時に必ず二人ですることがあるの」

「何ですか?」

 奥さんは音もなく私のそばに来た。そしておもむろに私を抱きしめた。

「不思議ね。つかみ合いの喧嘩をした後だって、二人はこれで仲直りするの。どこで覚えてきたのかしら」

 温かい、と思った。夜の庭にいる時よりも。お母さんが生きていた時以来だな、とも思った。

 

 私の目からぽつりと涙が落ちて、奥さんのセーターにしみを作った。たれてきた鼻水を何度すすり上げても、涙は次から次へとあふれ出た。


 奧さんはしばらく、そのままでいてくれた。私が泣き止むまで。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ