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月夜に  作者: 六福亭
11/18

11 砂男との約束

 私はまた砂男を怒らせてしまったのだろうか? そればかり気になって、翌日は何も手につかなかった。ただ夜が早く来ることばかりを念じていたけれど、同時に砂男はもう来ないのではないかと恐れてもいた。


 うんざりするほど長い昼間が終わり、日が暮れてから私はもうそわそわし通しだった。早く子ども部屋に行こうとアダーリ達を急かして呆れさせ、さっさとベッドに潜り込んだ。心臓がどきどきしてたまらなく怖かった。


 時計が十鳴った瞬間、私は部屋から飛び出した。今夜は月が見えなくて、雪がちらちらと降っていた。両手に息を吐いて温めながら、砂男を待つ。


 足音が聞こえた。街から庭へと続く小道を、砂男が歩いてくる。

「砂男さん!」

「__こんばんは」

 砂男が私の側にやってくる。

「風邪をひくといけないから、今夜は早めに家へお帰り」

「来たそばから、そんなこと言わないで!」

 白い息をどんどん吐きながら、私は怒ったふりをした。

 砂男が何かを差し出す。受け取ってみると、温かい岩塩だった。

「手が凍えるといけないからね」

「こういうの、どこで手に入れてくるの?」

「昨日の朝、私の家に行ってきた。そこで見つけたのだ」

 砂男の家。あまり考えたことはなかったけれど、誰にでも帰る家があるのは当たり前だ。

「しばらく帰っていなかったから、ひどい有様だったけれど」

「ひどい有様って、どんな風に?」

「食料品は全て、小さな妖精達に食い荒らされていたし、金目のものはゴブリンやレプラコーンが運び出してしまっていたらしい。まあ、大して気にしてはいないが」

「ひどいことをする人がいるのね」

「妖精の世界では、そう悪いことではないんだよ」

「ゴブリンって言ったわね。いたずらとかもするの?」

「ああ。彼らは誰かを困らせるのが好きだ。人間や、他の妖精達に対しても」

「妖精って他にもいっぱいいるの?」

「そうだね。いろんな者がいる。人間とよく似た姿の者も、体の大きい者も、空や水の中で暮らす者も。草木から生まれた者もいる」

 だがね、と砂男は付け加えた。

「彼らと関わろうとしてはいけないよ。中には、子どもをさらって、自分の国に連れて行こうとする邪悪な妖精もいるからね」

「私、別の砂男さんに会ったわ。いけなかった?」

「別の?」

 砂男は眉を上げた。

「男の子みたいな若い人だった。砂男さんが忘れていった砂に、月の光をあててみたらって教えてくれたの。優しい人だったわ」

「……そうか」

 私はくしゃみをした。もう寝る時間だと砂男が言い、私もそれに賛成した。

「あの子たちと仲直りはできたかね?」

 私は首を振る。

「土曜日までには仲直りしたいんだけど……」

「おや、どうして?」

 私は照れた。

「その日は私の誕生日なの」

 砂男は目を瞠った。

「そうだったのか。その日はクリスマス・イブでもあるが」

「えへへ」

 砂男はちょっとの間何かを考えていたが、微笑んで私に言った。

「じゃあ、その日もし君に用事がなければ、お芝居でも観に行こうか」

 街に出るということだ。私はちょっと迷ったけれど、楽しい期待の方が勝った。

「行きたい!」

「ただし、必ずあの子達と仲直りはするんだよ」

「頑張る!」

 私は拳を握った。わくわくして、眠気や寒さが吹き飛んでしまった。

「それじゃ、おやすみ。もうしばらく雪が降るようだから、温かくして寝るんだよ」

「うん、砂男さんもね。これから子どもの家を回るの?」

「ああ。だが、その前に砂を集めに行かなくては」

「気をつけて。悪い妖精に出会ったりとか、しないよね?」

「大丈夫だよ」

 砂男は、小径を歩いて行った。足跡が、新雪の上に残っていた。


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