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19羽 傲り

【完全防御】に対しての有効打は思いついたわけではない。

先ほどから自分のスキルで打てる可能な限りの攻撃スキルを試してみてはいるが、そのどれも有効打にならない。

「タフだなぁ…というか、そもそも疲労にもならないのか…」

おそらく鎧の無い部分を攻撃できれば攻撃として通用するのだろうが、全身がすっぽりと隠れてしまう巨大な盾がそれを許してくれない。

背後に回って視界の外から高速の攻撃を仕掛けても。

「くっ…!!」

「おーおー、危ねぇ危ねぇ。」

攻撃が来るという意識があれば、スキルが勝手にツィヤックの体を動かす。

的確に首を目掛けた拳は手甲によって阻まれる。

「武器だけじゃなくて装備もスキル対象って、ずる過ぎるでしょ…!!」

武器というよりは装備品というくくりで発動対象を取っているスキル、つまり理論上衣服でも攻撃は無効化出来るはずだが、そこはしっかりと相手の連撃を遅らせるための鎧なのだろう。

現にスキルを使用して回復し続けているとはいえ、私の拳の骨は優に十回は砕けている。

鉄の塊に全力で打ち付ければ当然だろう。

この硬さじゃ武器で攻撃しても武器の方が弾かれる。

衝撃は無効に出来ないのかと思ったけど、多分さっきの不意打ち以降持ってた【衝撃相殺】のスキルを使って吹っ飛ばされる威力を消しているんだ。


【衝撃相殺】

物体に与えられた衝撃を反対方向から同じ力を発生させて消滅させることが出来る。


やつは【完全防御】に加えてこの【衝撃相殺】も装備に使用しているんだ。

相手を右から殴れば、装備から左方向に同等の衝撃が発生してその衝撃を無効、加えて攻撃してきた相手にカウンター食らわせて、自分はダメージ無効ときたもんだ。

目の前にいる、本物のチートスキル。

その圧倒的状況の悪さに思わず自嘲的な笑いを浮かべるしかなかった。

「速さ、威力共に申し分なしだが、いかんせん相性が悪すぎるなぁ?」

煽る間もしっかりと盾で半身は防御している。性能差があるからって油断はしてくれそうにない。そのあたりはしっかりと現代人だな。

しかもずっと引っかかってる。

どう見てもあいつの年齢が私より上だという事。

ドワーフとは言え、生まれて7年程度ではあそこまで成熟しない。

人間基準にするなら20代前半、肉体的全盛期にあたることは無いはずだ。

何か別のスキルか?例えば肉体の成長を加速させるスキルとか…

「戦闘中に考え事かよッ!!?」

「しまっ......!!!」

回避は間に合わなかった。

盾を扱った大振りの一撃だがモーションがコマ送りの様に加速してくる。

これもスキルか!さっきの【スルーシーイング】で全てのスキルを確認できなかったのがマズかった!!

辛うじて【筋力強化】で骨と内臓を守るが、重い。

ぶつかり続けている間にも多段的に衝撃が襲いくる。

受け切っても遅れてくる衝撃がガードを崩し、その間に加速した盾が再度私を狙う。

もろに一撃をくらってしまい大きく後ろへ後退させられた。

「はっ!その幼児体型でよく対応できたなぁ?」

「はぁ...はぁ...!」

辛うじて攻撃の瞬間に後ろに飛び初撃のダメージを最小限に留めたが、遅れてる衝撃が上乗せされる。

「はぁ...マジで、容赦ないね。こんなに可愛いロリ相手に鈍器で殴打とか...!」

「そんなこと言ったって油断はしねえからな?俺は用心深いんだよ。」

「用心深い?ビビリの間違いでしょ。」

「威勢が良いのは認めるがここからどう俺を倒すつもりだ?」

「...どうにかして倒すんだよ、チキン野郎ッ!!」

【跳躍強化】で加速し【ホーリーゲート】でタイミングを幾度かずらす。ずらしたそばから【跳躍強化】で加速し直すを繰り返し、攻撃のタイミングを悟らせないために。

そして彼女のタイミングに合わせるために。

「ヘビ子ッ!!!」

「タイミング完璧ッ!!!」

2人同時に、ツィヤックの前後から攻撃を仕掛ける。

しかしその攻撃も私の攻撃を盾で受け止め、ヘビ子の攻撃はまたしても装備に付与させるスキルで弾き返していた。

「...!?」

「クソ...不意打ちも効かないのか...!」

「やるな魔獣ッ!!俺の部隊を壊滅させたか!!全員殺したか!?」

「殺しはしないっ!森に直接害を為すニンゲンしか殺しはしないとお母様は言っていた。だったら私もそれに従うっ!!」

「ハッハッハッ!!!甘いな蛇女ァ!!!」

ヘビ子の攻撃をいなし、距離を取るとツィヤックは部隊の仲間の元へ歩み寄る。

「ツィヤック様…申し訳ありません………!!」

「心配するな。お前らは役に立ってるよ。これまでも………そしてこれからも…!!!」

彼が盾で地面を力任せにたたくとそこを中心に振動が伝播する。

地面が波打ち、こちらにも振動が近づいてくる。

「ヘビ子!避けて!!」

「言われなくても!!!」

幸い波打つように単調に進むだけの攻撃なので跳躍すればかわすことは容易だった。

だが、衝撃を回避できなかった帝国兵たちは体中が弾けるように痙攣しながら出血している。

「…仲間ごと私たちを…!!」

「いや、これが一番合理的なんだよ…あいつや…私にとっては…!」

奴が狙ったのは私たちじゃない。奴の仲間が持ってるスキルだ。

【スルーシーイング】で確認しただけでもさっきより倍近いスキルが増えてる。

「助かったぜ…十二騎士のルールでな、死にかけるまで仲間からスキルは奪うなっていうのが最優先のルールなんだよ。」

「腐ったルールだね。同士討ちで滅んでもおかしくないのに。」

「心配いらねえよ。そもそも団長のあいつには誰も勝てねえからな。俺らはあのクソ野郎に生かされてるだけだ。」

「…へえ、その団長ってのももちろん。」

「ああ…」

ツィヤックが盾を正面に構えて一直線に私に突進してくる。辛うじて横に回避したがほぼ直角に近い角度を全く速度を落とす事無く曲がってくる。

先ほどまでにはない機敏な動き。

私やうさぎの持っている【跳躍強化】に近い脚部を使ったスキルか。

「俺たちと同じ転生者だよッ!!!」

「さっきの行動…あんたも【グリーディキリング】の効果は知ってるんでしょ?!だったらなんでわざわざ殺されるかもしれない相手の近くにいるの!?」

かわせる攻撃はかわしつつ受けられる攻撃は可能な限り威力を殺して受ける。こいつ以外の全敵兵は殺され、戦況的には二対一で有利だが、スキル相性が悪すぎる。

「殺されそうになったら最悪逃げればいい!!俺のスキルならそれが出来る!!最後まで生き残れば勝ちって体育館で言ってたろ!?スキルがあれば実質無限に逃げられる!!!」

「ホントに救いようのない臆病者だね、あんたは!!!」

「ルカ!避けて!!」

ツィヤックの背後からヘビ子が魔法による攻撃を仕掛ける。連打力の強い風魔法で奴の【衝撃相殺】の方向を分散させてくれた。

ほんの一瞬出来た隙を利用し、私は蹴りを一撃入れることに成功する。

【完全防御】でダメージは入っていないだろうが、分散させた衝撃で後退させ距離を取ることには成功した。

「ルカ!!」

「助かったよヘビ子…!」

「ダメージ貰い過ぎ!今回復を…!」

「大丈夫…私のスキルだけでギリ間に合う…」

【完全防御】と【衝撃相殺】

つまるところダメージの通らない不落の要塞。攻撃を続けてもじり貧でこちらが削られていく。

回復スキルに魔力を使い続けているせいで攻撃に魔力を回せない…それどころか魔力切れで回復が追いつかなくなるのも時間の問題。

ヘビ子も他の部隊との戦闘に相当体力を消費している。

「…ばらばらに攻撃してるんじゃだめだ。さっきの時みたいに二人で連携して削っていこう。ダメージは通らなくてもかみ合えば後退させることは出来る。」

「…あまり時間は使えない。後続に別部隊がいる可能性があるんでしょ?」

「だから最短でこいつぶっ飛ばす。」

「急に知能指数下がってない?ハイになってるの…?」

肉体のダメージは最低限回復できた。

が、出血が多すぎる。体が修正できても流れ出た血液までは戻らない。

着てきたドレスも、大部分は自分が引きちぎったとはいえもうボロボロだ。こんな姿で一国の姫を名乗っても信じて貰えないだろうな。

それでも、泥にまみれたとしても私は私の守るべきものの為に戦う…

お父様がそうしたように、うさぎがそうあろうとするように、私は私の為に戦う。

「行くよ、ヘビ子…!!!」

「…しっかり合わせなさいよ、ルカ!!!」

【跳躍強化】を使っても思ったより速度が出ない。疲労とダメージの蓄積は私が想定しているよりも大きかったみたいだ。

ヘビ子の方が先にツィヤックの元にたどり着き、攻撃を仕掛ける。

疲労とダメージが溜まっているとは思えないほどのきれいな戦闘スタイル。だが、攻撃の流れが素直過ぎて全てに対応されてしまっている。

「きれいに戦い過ぎ何だよッ!!!それでも魔獣か!!?もっとがむしゃらにッ!!!」

即座に合流した私は奴からヘビ子への反撃の機会を潰すためにひたすらに連打する。型や流れなど度外視の連撃。

きれいな戦い方とか知らないし、ダメージが通ればなんだっていい。

手数、威力、速度。それだけに集中すればいずれはほころびが生まれるはずだ。

「雑に連打するなッ!!!すぐにガス欠するでしょ!!?」

「だったら丁寧なヘビ子が私に合わせてよ…!!!」

「さっきから…!やってるわよ…!!」

彼女の言う通り、本当にヘビ子が私の攻撃に合わせて同時に打ち込んでくれているのだろう。

その証拠に、ツィヤックの体は何発かに一回は後退している。

それでも…遠い。

「ハハハッ!!!メスガキの分際で良い攻撃するじゃねえか!!?だが…足りねえ!!!」

「くっ…!!!」

「ぐぅっ…!!!」

奴を中心に放たれた衝撃波で私とヘビ子の体は吹き飛ばされ、森の木に打ち付けられた。

「転生者のお前も未熟、感覚だけで戦おうとしてるなぁ?メスの蛇に至っては論外だ。本来この場に立つ資格すら無いものを、このメスガキに頼りっぱなしで何とか生きてるって状態だなぁ?」

「がっはぁあああ…!!?」

ヘビ子の体に盾が押し付けられる。

彼女の体のきしむ音と必死の抵抗で尻尾をツィヤックの体に打ち付けるヘビ子の悲鳴が耳に痛い。

「やめ…ろ…!!その子に…手を出すな…!!!」

「安心しろよ。この雌殺したあとにお前もしっかり殺してやる。スキルは俺が有効に使ってやるからありがたく思え。」

情けない…

自らの力に溺れ、傲り、友達の娘を危険にさらした。

分かっていたはずなのに、十分に備えていたはずなのに、それでも届かなかった。

うさぎならどうにかできたのかな…

ねえ。

聖獣の君なら、こんな風な結果にはならなかったのかな?

私は君みたいには、なれないのかな?

「あ?」

刹那。

ほんの刹那の一瞬。

とっくに自由など効かないはずの体はツィヤックをヘビ子から引きはがしてその上に覆いかぶさるように倒れていた。

これは…どういうことだ…?

脚の骨が完全に折れている、しかも内側から。

【跳躍強化】?それに近い折れ方だ。

だが私はスキルなんて発動していない。発動できるほど体力は残っていない。

スキルが勝手に発動した?今まで私の持っているスキルでそんなことは起きなかった。

このスキルがうさぎに貰ったスキルだから?

分からない。考えられない。頭が回らない。

「てめえ…上等だ。そんなに死にたきゃお前から先に殺してやる…!!!」

盾が振り上げられる。

頭を砕かれる。

動かなければ死ぬ。

なのに頭が回らない。視界だけが動く。

視界と、聴覚だけが。

『だったら俺がテメェを殺してやる。』

再び刹那。

私の前にいたツィヤックの体が消えた。

その体は、私のはるか前方。目の前に立つ黒い鱗によって飛ばされていた。

遅れて突風が私とヘビ子の後ろから吹き荒れる。風よりも速くツィヤックを吹き飛ばしたのは。

『光栄に思いやがれ…!俺が…【加速の支配者(アクセルロード)】が直々にお前を殺してやるって言ってんだからなァ…!!?』


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