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18羽 王族の娘と聖獣の娘

「………」

「………」

「あの、さ。」

「何ですか?私いま非常に虫の居所が悪いので出来るだけ話しかけないでもらっていいですか?」

「は、はい…すみません…」

帝国からの侵攻の知らせを聞いてその先兵に対処するために森の北側に陣取った私。

本来なら私一人でなんとかできると思うんだけど、森の中から感じる視線はうさぎのもので、そして横にはご機嫌斜めのうさぎの娘がいる。


『ヘビ子を護衛として連れて行かせる。今となってはあなたの方が実力が上かもしれないけど、ヘビ子の戦闘センスなら足を引っ張ることは無いから。』


といううさぎの要望でこの子を連れてきたのは良いものの…

「………」

「あの…私の顔に何かついてるかな…?」

ものすごい睨まれてる。

そりゃあもうすごい睨まれてる。

何で?私何かした?あなたが攻撃を仕掛けてた時も私は比較的おとなしくしてた方だと思うんだけど…?

ここまで気まずい空間にい続けると根暗オタクだった時の私が顔を出しちゃう…!

会話の頭に「あっ」ってつけてた頃の私に戻っちゃう!!

「いえ...たった数時間で、お母様と遜色のないくらいの強さを手にしたんだなって思っただけです。」

「...全然敵わなかったけどね。君のお母さん強すぎでしょ。」

「...当然です。お母様が負けるはずありません...と言うか、あなた何だか人が変わりすぎじゃありませんか?」

「姫として発言してないってだけだよ。これがルカ・ロム本来の姿。」

「そうですか。」

「…ねえ、君と君のお母さんの話を聞かせてよ。」

開けた視界の先には帝国の部隊はまだ見えない。私はストレッチをしながら、直立して正面を見続けている獣人の少女に話しかけた。

「君とうさぎ、本当に血が繋がっているわけじゃ無いんでしょ?それなのに、やりとりから何から本当の親子みたいだった。」

「…私は、生まれつきナーガとして失敗作でした。目が合った対象の動きを封じるというナーガの性質を持ち合わせていなかった。獲物を捉えるために必要な目を持ち合わせていないナーガなど、ただの鈍重で目立つヘビとしても人としても半端な獣ですから。」

今の彼女の姿は人のそれと相違ない。私に合わせて人の姿になってくれているのか、ヘビの要素など鋭い目つきくらいしか感じ取れない。

「満足に食事をとることも出来ず、死にかけていた私を見つけてくれたのがお母様でした。私の命を救ってくれた人の役に立ちたい。だから私は強くあろうとした。本当はお母様に稽古をつけてほしかったけれど、お母様は忙しいからって、ドラおじちゃんやキュアおじちゃんに稽古をつけてもらってた。」

彼女の言うドラとキュアはおそらくこの森の聖獣、インフェルノドラゴンとキュアラルフェニックスの事だろう。

そんな聖獣たちと稽古をして生きていられる魔獣なんてめちゃくちゃすごいと思うんだけど…

「二人と稽古してて分かった。お母様が稽古してくれないのは忙しいだけじゃない。加減して相手をしてくれても私じゃ稽古にならないくらい強すぎるからなんだって。」

「そうだね。今日で十分過ぎるほど分かったよ、うさぎの強さ。」

「そして、あなたは一日で私を超えた。」

震える彼女の声。

相変わらず毅然と前を向いているが、その頬には一筋雫が落ちていた。

「お母様が攻撃を受けるときに四つもスキルを発動することなんてなかった。妨害に使う【ファントムフレイム】をあの火力で使う事なんてなかった。森から飛び出るほど飛ばされることなんてなかった。」

上擦る声からは私に対する嫉妬と、自分への悔しさがにじんでいるようで。

私はただ、静かに聞くことしかできなかった。

「私は…あんなに楽しそうなお母様の顔を見たことがなかった…」

「ヘビ子ちゃん………」

かける言葉を探していると、気配を感じた。

うさぎから貰った【気配感知】のスキルが正常に発動している証拠だが、それはつまり、本当に帝国の部隊がここを侵攻してきたということでもある。

「…ヘビ子ちゃんはうさぎのことが憧れで誇りなんだね。」

彼女の一歩前に出て防御系のスキルをいくつか発動させる。この見通しの良さなら、もうこちらのことは向こうからもバレているだろう。遠距離攻撃が来ても対応できるように備えておく。

「私もさ、憧れてたんだ。うさぎみたいな強さに。」

想像通り、炎の矢のような物体が正確に私の頭を目掛けて飛んできた。その矢をよけて横から殴りつけて消滅させる。

炎を纏っていただけあって、ほんの一瞬弾く様にして殴っただけでも拳の皮膚がただれてしまった。

【メガキュアラル】で治療しながら攻撃の方向を見る。

馬、ような見た目だが脚が6本ある魔獣に乗った十数人が進軍を止め、少し離れた距離でこちらの様子を伺っている。

「スレイプニル…で、良いのかな?」

「レッサースレイプニル、スレイプニルの亜種です。種族的にというより、人に飼いならされたスレイプニルの汚名という意味ですが。」

部隊のうちの一人が集団から離れてこちらにやって来る。大きな盾を持っているが武器という武器を持っているように見えない。

体格から見てドワーフだろうか。だがドワーフはあまり華美な装飾を好まないはず…その割に目の前の男は鎧や細部に至るまで実用性など度外視したようなきらびやかな装飾を身にまとっている。

「悪いがお嬢ちゃんたち、そこをどいてくれ。」

「幼気な幼女二人に先に攻撃を仕掛けてきておいて謝罪も無く要求ですか。」

「大森林に面したこの場所はただの幼女が仲良くおままごと出来る所じゃない。殺気の攻撃も、そっちの金髪のチビがかき消しちまったんだろ?」

「まず名乗れって言ってるんですよ。ご立派な鎧で着飾るってことはさぞ中身も大層な方なんでしょう?」

「はっ!クソ生意気なメスガキだなぁ?金持ち見つけてパパにでもさせようってか?」

はい、墓穴掘ったなこいつ。

今の言葉にヘビ子は反応していない。おそらく気づいたのは私と、森の中で見てるうさぎだけ。

うさぎにまだ出なくて大丈夫と軽く合図をして、私は準備を始める。

「ファディオス帝国十二騎士、蟹座のツィヤックだ。」

ああもう確定だ。

こいつは転生者。

この世界には星座に関する文献が無い。星に対する考察や理解はあっても、それらを結んで動物や物に見立てるといった文化は無いのだ。

そんな世界で蟹座という明確な星座の要素を持ってきた時点で、こいつの背後にいるやつが転生者であることがまず確定。

そしてメスガキ、金持ちにパパが結びつく下品な発想はこの世界には存在しない。

つまり。

「…本当に御大層な二つ名だね。これで本当の名字がスズキとかイトウとかクソ普通だったら爆笑してやるよ。」

「な…!?てめえ…まさか関係者か!!?」

「戦って確かめてみなよッ…!!!」

【跳躍強化】を使って先陣を切って突撃。直線的な動きでは単純に見切られる可能性があるので何度かフェイントも織り交ぜ、スレイプニルの上に乗るツィヤックの横腹を殴打する。

人間の反応速度では防御出来ない速度と角度で殴ったはずだが、吹き飛んだ奴には殴打によるダメージは一切入ってないように見える。

…まあ、会話中に【スルーシーイング】で全部確認してたから分かってたんだけどね。

「厄介だなぁ…【完全防御】か…」


【完全防御】

盾、鎧を通しての攻撃はダメージが無効化される。体構造の無理のない範囲であれば、攻撃に対して武器を使っての自動防御も可能。


それでこいつだけ完全武装だったのか。装備品前提の能力でもダメージの無効化は厄介だな。

おまけにオートガード…バランスブレイカー筆頭のスキルか…

私はヘビ子ちゃんの所まで戻り、再度警戒を改める。

攻撃を仕掛けてきたのは向こうだが、それに私が応戦したことも事実。当然帝国側も攻撃の準備を始めてきた。

「…ヘビ子ちゃん、私が思うに強くなるのに一番大事なことは自分を信じて貫き通すことだと思うんだ。」

「…どういうことですか?」

「私は、私の中のこの楽しいって感情に従ってる。楽しい場所を、人たちを守るために、楽しんで戦う。」

元の世界での私は、もう多分死んでるって何となくわかる。向こうの世界での最後の記憶は今までに経験したことの無いような不快な痛みだった。あれが何によるものなのかはわからないけど、体に害のない痛みだったとしても普通にショック死してもおかしくない痛みだったから。

オタクで陰キャの私には輝けるような世界ではなかったから、向こうの世界は退屈だった。

だからこそ転生したこの世界のまぶしさに私は心を奪われた。

私の求めていた世界、私の求めていた才能、私の求めていた私。

私は私の求めていたものを守るために戦う。

「きっとうさぎも、自分のなすべきことの為に戦ってるんじゃないかな?そういう生き方が出来る人は、とっても強い。」

「為すべきこと…」

「難しく考えることは無いよ。子供に分かるように言うなら、ヘビ子ちゃんのやりたいことって感じかな?」

「…」

彼女は少し考えて、すぐに私の横に立った。

片手には彼女愛用の武器である棒を構えて、その姿をナーガ本来の美しく猛々しい姿へと変貌させていく。

「…ニンゲンの幼体の癖に子供扱いしないでください。」

「あなたも子供でしょ?」

「私は立派に戦えます。そして私は、いつかお母様の力になりたい。そのために私は戦います。たとえお母様に止められる戦いだったとしても。」

「止められる?」

彼女は棒でツィヤックを指して私に耳打ちする。

「あの男、お母様やあなた…ルカと同じ雰囲気を感じます。きっと今の私が一人で奴と戦うことをお母様は良しとしないでしょう。それに不意打ちに近いルカの攻撃をしのげるような相手…普通に私では分が悪いです。」

見かけの禍々しさに反して何と冷静な分析…初対面でも思ったが、彼女の戦い方は魔獣とは思えないほど丁寧で無駄がない。

だがそれゆえにごり押しという戦法が最初から頭にないのだろう。

だからこそ【完全防御】をもつツィヤックに対して分が悪いと分析をしている。

「…ふふ。」

「…?何かおかしなことを言いましたか?」

「いいや。名前呼んでくれたなって。」

「嫌だったら敬称をつけますよ。」

「全然、何ならむしろため口でいいくらいだよ。私の方が年下だし。」

「年下のルカは何で最初っから私にため口なのかは疑問ですが…」

彼女が再び前を向き、臨戦態勢を取る。

「…周りの有象無象は私が引き受ける。ルカは2分…いや、1分半だけあのツィヤックという男の気を引ける?」

私もそれに合わせてスキルを全開で発動する。

「なぁんだ、2時間くらい余裕でいけたのに控えめな要求だね。もしかしてヘビ子、わがまま苦手?」

「お生憎、聖獣のわがまま娘っておじちゃんたちには言われてる…!」

ツィヤックが立ち上がり、それに合わせて後方の部隊も彼を援護するように陣形を組む。

私とヘビ子はぐっと地面を踏みしめて高らかに宣言する。

「私はッ!!!ロム王国第一王女、ルカ・ロムッ!!!」

「聖獣ネザーランドウサギの一人娘ッ!!!ヘビ子ッ!!!」

「先ほどの攻撃を王国への侵略の意思と取り…」

「王族の娘と聖獣の娘が貴殿らのお相手をしますッ!!!」

この圧倒的数的不利に気圧されないよう、二人の少女の宣戦布告がマルル大森林と海岸に堂々と響き渡った。


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