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17羽 小さな軍師

「ルカっ!!!」

部隊の誰よりも早く自分の娘の元へ駆け寄る王を横目に私は自分の体の各所を治療する。

ルカの放つどの攻撃も今の私にとって致命傷となることはなかったが、回復をしない、出来ないという状況であったならばもしかしたら負けていたかもしれない。

本人はオタクとしての基礎教育的知識を持っているだけだと思っているかもしれないが、それがこの世界の仕組みと彼女に与えられた能力とで見事に噛み合っている。

スキルを拡大解釈しての応用や回復があるが故の自損覚悟で放つ特大火力等。

彼女と全く同じ状況になったとして、一体何人が同じ行動まで取れるだろうか。

「ルカ...!無事か...!?」

「お父様。うん、平気。全く何とも無いよ。」

「あぁ...良かった...本当に良かった...!!」

『...ある程度再会を喜んだなら、この部隊の剣を納めさせてくれないかな?』

私を取り囲むように王国部隊が各々武器を抜き、魔法を構え、そして怯えていた。

まあボロボロの王女と一緒に森から吹っ飛んできたら、私が王女に攻撃したと思われるよなぁ。

「み、皆!武器を納めて!私は無事だから!」

「ルカ様っ!!お下がりください...我ら一同、たとえ命尽きようとも、王とルカ様だけは守り抜いてみせます...!!」

「いや、むしろ攻撃してたの私の方!!聖獣の試練を受けてたんだって!!」

彼女の一言に部隊が一瞬どよめくがすぐにその伝播は収まり、再び意識が私に集中する。

いくら上位のスキルを持っているとはいえまだ幼子。子供の言う事を素直に信じるほど人間の大人は余裕のある生き物じゃない。

「...まさか......!?」

部隊の面々の間から恐らくスキルをルカに向けて発動しているであろう王の姿が見えた。

数秒で王の表情は一気に青ざめていった。

単純に多数のスキルを獲得したルカを見た反動だと思うし、今回は私が回復してやらなくてもルカがそのスキルを持っている。

「ルカ...お前まさか本当に...!?」

「うん...聖獣ネザーランドウサギにスキルを貰った。」

『王よ、取引をいたしましょう。』

私が王の方へ向かって歩くにつれて部隊の警戒も上がっていく。

正直この程度の人数であれば大人しくしててもらおうかとも思ったが、証人は多いに越したことはないので少し鬱陶しいがこのままにしておく。

『ルカ・ロム様は私のスキルを分け与えるに足ると思い、私の持つスキルの一部を分け与えました。よってスキルの扱い方を教えるのは私の義務です。数年前の契りの通り今後彼女には定期的に森に来て頂き、私が彼女のスキルを育てます。』

「ただし私の時間を奪っちゃう代わりに、森を越えた侵略が帝国から起きた場合には手を貸してくれるんだよね?」

『...は??』

この女何を言い出すかと思えばめちゃくちゃ言いやがって!!

おいこっちを見ろ!!

有名なお菓子ブランドのマスコットみたいに舌出して目反らしてんじゃねえ!!

素材がいいからあざとくても普通に可愛いんだよクソッ!!

「あれぇ?そういう約束じゃなかったっけ?うさぎ。」

『......』

目線が合ったかと思えば『話を合わせろ』か。

全く...わざわざアイコンタクトを送らなくても私に向けて思ってくれればスキルで分かるってのに。

『…一方的な侵略、かつ森の生き物たちにも危険が及ぶと判断したときだけ手を貸します。』

「そう。だからこれでしばらくは安心なんじゃない?」

「おお…何と豪胆な姫君だ…」

「これで森の脅威度は格段に下がったが、しかし……」

ご近所が協力体制に入ると分かったのに随分と浮かない顔の王国部隊。

「…?何かあったの?」

「…うさぎ殿にも知っておいていただいた方が良いだろう。」

『…拝聴します。』

「先ほど森の南側を監視させている者から伝令が来た。帝国の少数部隊が進軍しているというのだ。」

「帝国が…!?」

森の南はキュアの縄張りだ。少し森から離れれば海に隣していて見晴らしがあまりに良すぎるがゆえに軍を進ませるには不向きと思っていたが、まさかそこからやってくるとは。

「以前に森の北側を進行した際にキャッスルタートルに目を付けられたのが原因だろう。喧嘩を売った聖獣相手にまた堂々と縄張りを通るよりは、多少見つかりやすくても別ルートを通った方が良いということなのだろうが…」

「それ、突破力に重きを置いた火力全開の部隊だね。多分こっちから観測されないけどすぐ動けるところに本隊が控えてる。」

「る、ルカ…?いったい何を…」

誰からの分析かと思えば、その発言はその場において最年少であるルカの口から出てきた。

前世の年を考慮してもまだ若輩の彼女は軍師さながらに帝国の少数部隊を分析する。

「王国の軍は歴史において長い間、兵法の基本に則った忠実で堅実な運用を徹底してきた。それがうちの良さだけど、今回ばかりは多分、このままいけば大きな弱点になる。」

彼女は吹き飛んだ私と一緒に飛んできていた木の枝を使って地面に図を描き始めた。

「うちの軍の強みは徹底的なまでの受け。目の前の敵に対して地の利や隊列を生かした戦法でなるべく犠牲者を出さないようにっていうのがマストの作戦。」

「...おっしゃる通り。我が軍は防衛戦に非常に長けております。歴史の上でもそうして幾度となく侵攻を退けてきましたから。」

「でも、今回に関してはそれが穴になる。」

彼女は中心に一つ大きな円を描き、それに沿わせるように三つ小さな円を描いてそれらに矢印を加える。

「今回観測が捕捉出来たのは私たちに帝国が攻めてきたと思わせるためにわざと見つかりやすいルートを進んでるから。それを無視できるような作戦をこちらが組めないとあっちは理解してる。」

やがて周囲の兵も巻き込んで彼女の野戦軍議は続く。

「私たちの勝利条件は彼らの侵攻を退け撤退させること。その為にはある程度帝国部隊を押し返さなきゃいけない。押し返すためには前線を上げなきゃいけない。その上がった前線を側面や後方から叩かれれば、私たちはホームグラウンドで挟み撃ちされることになる。」

「ふむ...ではルカよ。先兵を早期に叩き、本隊の到着までに撤退させる、というのはどうだ?」

「それが出来れば良いんだけどね、お父様。私が帝国なら、森を利用して隠れるかな。」

『森の中は私を初めとする強力な魔物の気配が充満してるから、息を潜めるには丁度いいってことか。』

「そう。いつ攻撃を仕掛けてくるかわからない部隊が森に隠れてることを知ってる状態で、警戒は解けない。訓練されていても人は人、年中無休で警戒し続けられるわけじゃない。必ず疲弊してほころびが生じる瞬間がある。」

『(...ルカ、どこでこんな知識を?勉強嫌いとか言ってる割には随分と理に適った分析じゃない?)』

「(うわ、びっくりした...!脳に直接話しかけないでよ。ネトゲよネトゲ。MMOの基本戦術。)」

ネトゲ...今度はゲームの知識か...

こんなことになるなら私も少しは勉強、もといエンタメに触れとけば良かったなぁ。

全くやってこなかった訳では無いし、むしろ人よりやっていた方ではあったが、ここまでぽんぽんと知識が出てくるほどにやり込んではいなかった。

手に交われば赤くなる、とは少し違うが、彼女にとってこの世界はまさに彼女の望み憧れ生きたかった世界そのものなのだろう。

「では、どうするのが良いのだ。余は既に色々な事が起きすぎて頭が回らぬ。」

『心中お察しします王様。』

「ちょ、それどういうこと?」

『で?小さな軍師殿、あなたの大切な国や国民がピンチだよ。どうするの?』

「...ふひっ。」

途方もなく気持ち悪い笑い方をするルカ。

前世のオタクが出てきてるぞ。

「申し訳ないけど、帝国の部隊には私のサンドバッグになってもらおうかなって!」

『何を言い出すのかと思えば…許可できない。向こうにもし…その、私の同類がいたらどうする。』

転生者がいたらどうする、と言いたかったのだがさすがにこれだけ多くの人がいる場所で混乱を招くようなことは言いたくない。

「だから私が行くんだよ。別に約束を理由にうさぎにお願いしても良かったんだけど、うさぎだと相手が同類かどうか質問を重ねないと分からないでしょ?ブラフにも弱い。」

『うっ…強いし…!舌戦だって望むところだし…!!』

「大丈夫だから。心配だったら森の中から見守っていて。」

その眼は完全に覚悟の決まった眼をしていた。

これ以上引き留めてはオタクがかんしゃくを起こしかねない、というか私を置いて一人で勝手に行ってしまうかもしれない。

だったら、せめて私の目の届くところで事を起こしてもらおう。そして、一応保険もつけさせてもらう。

『分かった。私は、森から見守らせてもらう。』

「ありがとう!それじゃあ、私無双伝説の始まり始まり………」

『けど、一人では行かせないから。』

彼女を守るために、そしてあの子に勉強させるために私はある決断を心で下した。


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