16羽 ハイセンス野郎
「私のスキルをって…まさか、私に殺されるつもりじゃ…」
『違う違う!私スキルを複製して渡せるの!』
レベル1になるとはいえこの大森林を生きてきた魔獣たちのスキル。ちょっとやそっとのことくらいなら容易に対応できるようになるはずだ。
ヘビ子にスキルを与えた時みたいにルカにも私のスキルをある程度コピーして渡そう。
『それじゃあ、スキル渡すからしゃがんで。』
「ん。」
スキルを渡すには対象者の頭に触れなければならない。
加えてスキルを1個ずつコピーして渡してコピーしてを繰り返すのでしっかりと安定した場所でないと気が散ってしまう。
私は彼女の頭から降りて後ろ足で立ち、両の手で彼女の黄金に輝く頭を掴む。
『じゃ、スキルを渡していくね。一通り渡してから使い方を教えるから。』
「お、おっけぇ…何かドキドキするなぁ…ねえ痛くないよね…?」
『大丈夫だよ。ヘビ子がちょっと唸るくらいだったから。』
「魔獣が唸るって相当じゃない!?ちょ、本当に痛くないよね!?」
『もう大袈裟だなぁ…大丈夫だって、死ぬわけじゃないんだし。それにどうやら、私たち転生者はスキルに適応する能力が他の生き物に比べて強いみたいだし。』
先ほどルカが【スルーシーイング】で私のスキルを覗き見た時の影響が、親であるロム王がスキルを使ったときよりも小さかった。少なくとも彼が気絶してしまうような衝撃をルカは受けなかった。
これも【グリーディキリング】の、あの靄の仕業なのだろうか…
思えば私がこの世界で前世の記憶を思い出した時にあって以来姿を見せない。
今もどこかで私たちのことを観察しているのだろうか?
「…?うさぎ、どうしたの?この体制地味にきついから早くしてほしいんだけど…」
『あ、ああ!ごめん、すぐやる!』
前傾姿勢で待機し続けていればそれはきついに決まっている。
私はひとまず、軽めのスキルを何個かコピーして渡すことにした。
【遊泳】をコピー 譲渡成功
【万能毒】をコピー 譲渡成功
【危険予知】をコピー 譲渡成功
【嗅覚強化】をコピー 譲渡成功
【跳躍強化】をコピー 譲渡成功
【営巣】をコピー 譲渡成功
【反応速度向上】をコピー 譲渡成功
【筋力強化】をコピー 譲渡成功
【】をコピー
【】を
【】
「ち、ちょちょちょ!!!ストップストップ!!!」
その場から後ろに飛び退いた勢いで尻もちをつくルカ。私の目線からだと思いっきり下が見えてるけど、まあ同じ女子同士だし、今周りには私たちしかいないから一国の王族がこんなはしたない姿をさらしても問題ないか。
『本当に大袈裟だなぁ…そんなに痛くなかったでしょ?』
「痛みはね!?痛みはそれほどでも無かったよ!!渡してくるスキルの量多くない!!?」
『渡せるスキルだけでも200近くあるんだからちゃっちゃと渡しちゃいたいんだけど?』
「いやいや、いきなりそんな数渡されても手に余るって!!」
『えぇ…もう我がままだな…そしたら、あともう1個だけ渡すから、ほらっ!こっちきて面貸しなさい。』
「わざとでしょ?わざとやってるんでしょ?」
私はうだうだと愚痴をこぼす彼女の頭を押さえつけるように掴んで、最後に一つだけスキルを渡した。
【メガキュアラル】をコピー 譲渡成功
『…やっぱり、同じ転生者相手ならスキルのコピー譲渡も制限が無いんだ…』
「【メガキュアラル】…上域スキルじゃない!」
『それとさっき渡した【跳躍強化】の面白い組み合わせを教えてあげる。』
私は【跳躍超強化】で木々の隙間を連続して飛び回り、彼女の背後の高めの木の上に一瞬で登って見せた。
『【跳躍強化】は跳ねる、飛ぶっていう類の行動を大幅に強化するスキル。でも肉体のキャパシティを越えると脚が壊れる。でも【メガキュアラル】で常に足を治療し続けながら使えば、そのデメリットは実質帳消しにできる。』
「…なるほどね。つまりチートスキル、オタクの大好物ってわけだ…!」
『私がスキルの使い方を教えてあげるから、ルカはそれを習ってゆっくり…』
「それじゃまどろっこしいよ、うさぎ。」
彼女はストレッチを始め、あろうことか来ているドレスの裾や袖をちぎり始めた。
「アクティブになった性格、チートスキル、異世界…これで燃えなきゃオタクじゃない…!!」
彼女のその瞳に思わず私も胸が高まってしまった。向けられるだけでぞくぞくしてしまうような好奇心の瞳に、私の中の強者の意思がうずいてしまう。
『…へえ?それじゃあ何がご所望なの?根暗オタク上がり。』
「私と模擬戦しなよ、元ぼっち。」
『聖獣に挑むとか、命知らずにも程があるでしょ。』
「もちろん本気で殺しはしない…ってかそもそも、今のうさぎ強すぎるから殺せないだろうし殺さないでほしい。あくまで模擬戦。」
『それをやることでスキルをより実践に近い形で習得するってことだね。』
「それだけじゃないよー。」
彼女は脚に力を込めて、一気に加速し、あろうことか走るモーションで私のさらに上の枝にまで登ってしまった。
「…なるほど。前方に《飛び》出す、っていうのも跳躍判定になるのか。思った以上に汎用性の塊だね、【跳躍強化】」
走るという行為を脳に飛び出すという行動に誤認させることで【跳躍強化】の恩恵を走力に与えたのか…
この応用力。しっかりとスキルを習得したら…
『…まだあるメリットって何?』
「私が聖獣の試練を受けて聖獣に認められたっていう実績になる。その実績があれば私がうさぎからスキルをもらってても違和感ないでしょ?」
『…まだ幼子の人間が、聖獣の試練をねぇ………』
「だから私が死なない範囲でなるべく派手にやってよ。森の外にいる皆にも見えるようにさ。」
正直その考えは大ありだ。
ただスキルを与えただけではあの王様がルカのスキルをみた時に怪しんでしまう。
であれば、確かに彼女の言うようにスキルを与える理由を今から作るに越したことはないのだが…
ちょっと…むっとくる言い回しだなぁ…
『分かった…それじゃあ………』
私だって、この体になって聖獣になって、役割や責任に追われてきた。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ楽しんだって文句言わないでよ?
スキル【獣の支配者】発動
『せいぜい私を楽しませろッ!!ニンゲンッ!!!』
「お手柔らかにねッ!!!」
ルカとほぼ同時に枝を蹴り上げ、木々を【跳躍超強化】で駆け巡りながら距離を取る。
単純な出力の方では進化後のスキルである私のスキルの方に分があるが…
さすがの応用力。
先ほどやって見せた走る行為を跳躍と解釈するスキルの応用利用はまぐれでは無かった。
しっかり【メガキュアラル】も発動してケアも怠っていない…
なら!
『ちょっと妨害!!!』
「…っ!!」
【ファントムフレイム】で視界を遮りつつ木を焼き倒して彼女の進路を塞ぐ。
これでかなりの時間を稼げた、そう思った瞬間。
「殺す気満々じゃん、うさぎッ!!!」
「…生きてんじゃん!!!」
どう考えても進行不可能な方角から彼女が私に拳の攻撃を仕掛けてくる。
関節を外すほどの勢いで体を捻ってどうにかかわしたが、【メガキュアラル】が無ければ勝負のついていた一撃。ひとまず着地して仕切りなおそうとしたが。
「【飛行】」
『…はぁ!!?使えないでしょ!!!』
「飛べなくても落下速度が落ちるんでしょ!?体勢立て直すには十分過ぎる!!!」
ほんの一瞬減少しただけの落下速度。
その一瞬で彼女は私の上を取った。
私は着地の瞬間に脚を崩壊させる威力で地面を蹴り、彼女の落下速度と体重の乗った拳を紙一重で回避する。
着地の直後からありえない立て直しの速度で拳が連続で飛んでくる。
「…防戦一方じゃないですか、聖獣様。」
どうにか距離を取って片方のパサラン鬼火で応戦する。
『手加減してやってんだよ…ロリっ子!!!』
「いらねえよ愛玩動物!!!」
私の【ファントムフレイム】を拳でかき消す。
火傷による皮膚の損傷は【メガキュアラル】で即座に治っているのは分かるのだが、その速度が速すぎる。
潜在的な魔力の保有量が桁外れなのだ。でなければ【メガキュアラル】を連続して使用することは到底できない。
その回復の速さもさることながら爆発の熱風もものともせず、正確にその拳で私のいる場所を打ち抜いてくる。【筋力強化】だけでここまでの動きが出来るはずがない…
彼女のこの尋常でない動きの正確さには何かからくりがある。
「逃げないでよ?」
『逃げなきゃ死ぬっての…!!』
「じゃあ逃がさないようにする…!!」
彼女は【筋力強化】を拳に集中する。
さすがにいくら速い拳と言えど、あんな大ぶりの一撃をまともに食らうはずが…
「【ホーリーゲート】」
『…!!!』
【ホーリーゲート】彼女の転生時に貰ったスキルか…!!
その効果は確か…
「ど真ん中…!!!」
対象の転送!
強化された筋力に加速系のスキルを多重に発動して拳の威力を増大している。回避は出来ない、防御するしかない。
【キャッスルディフェンス】【ウォリアーソウル】【硬質化】【衝撃吸収】!!
『ぐぅっ…!!!』
衝突までになんとか4つのスキルを重ねたが完全に威力を相殺しきれていない。
スキルを譲渡された初日でここまで使いこなすのか…!
真っ芯でルカの拳に捉えられた私の体は木々を吹き飛ばしながら森の外にはじき出される。
そこは彼女の帰りを待ちながら臨戦態勢を解いていなかった王国の部隊の駐屯場所から少し外れた場所。
轟音と共に森から飛び出してきた異変に対して即座に陣形が組みなおされていた。
『はぁ…はぁ…このハイセンス野郎………』
「はぁっ、はぁっ…うさぎこそ…何で今ので生きてんのよ…!」
『やっぱ殺す気だったんじゃん。』
「でなきゃここまでやれてない…貰ったスキルが無かったら、あるいはうさぎが少しでも私を殺そうとしてたら、最初の瞬間から死んでた。」
『そんなことない。森の外まではじき出されたのは、聖獣になってからは初めてだよ。』
「くっそぉ…その余裕なのやだぁ…」
その場に大の字で仰向けに倒れる彼女。その様子を遠くから確認して王国の部隊たちが慌ててやってくる。
『ほら、王国の人たちが来るよ。はしたないでございますことよ、お嬢様。』
「うげぇ、貴族言葉の違和感ヤバ…もっと勉強しなよ。」
『…うん、そうする。ルカが教えてよ。』
「嫌でーす。私は勉強大嫌いなので。」
『ハイセンス野郎め…』
倒れる彼女の頭を撫でて、木の燃えたすすで黒くなってしまっている顔を少しだけ拭う。
くすぐったそうに笑ったその顔はまさに宝石と呼ぶにふさわしい代物だった。




