10羽 二人目の関係者
翌朝。
ファントムタイガーの背中に乗せられて王とその従者たち計4名が私の拠点である浮島(ターさんの背中)のある湖までやってきた。
『ようこそ。マルル大森林へ。改めまして、私は聖獣ネザーランドウサギです。』
「あ、ああ…ロム王国、カディア・ロムだ…よろしく頼む。」
ファントムタイガーから降り、怯え半分驚き半分の表情を王は浮かべていた。
『いかがされましたか?』
「い、いや…私も臣下も、聖獣…元聖獣の背中に乗るのは初めてで…」
森の中は危険な魔物も多い。いくら強いと言えど、人間がここまで無傷でたどり着くのは中々困難になるはずだ。
だから彼らの野営地の近くまでファントムタイガーを迎車として向かわせ、彼らの脚で危険に遭遇するよりも速くここに到着させた。
昨日に安全を保障すると言った以上、これくらいはやらなければならない。
「…うさぎよ一つ聞きたい。」
王の従者の一人が私に訪ねる。
こいつはたしか…昨日前衛の最前に立っていた男か。かなり強そうだと思ってはいたが、ここに連れて来られたということは私の読みは外してはいなかったという事か。
『何ですか。』
「俺は過去に何度も調査メンバーとして森に出入りしている。もちろん、ファントムタイガーに出会ったことも一度や二度ではない。そのとき、俺はこ奴らと会話は出来なかった。だが、今回のこの四頭のファントムタイガーはそれぞれ俺と会話をした。人間と会話するのと遜色もない世間話をだ。」
『それに関してもこれからお話しします。どうぞこっちに来てください。』
スキル【水冷操作】を使い特定範囲の水温を急激に下げ、浮島までの氷の道を作る。滑りにくいように表面を荒くするという配慮付きだ。
四人が全員浮島に上陸したのを確認して私は地面の土を少し盛り上げたところに座り、四人分の土の椅子を【土流操作】で作る。
『どうぞ。土で申し訳ないですがおかけになってください。』
「…お心遣い、感謝する。」
促した椅子に王が真っ先に座ってみせた。
なるほどな。これがこの王様の統治の仕方なのだろう。まず自らが率先して動き示すことで、従者にこの場での振る舞いの正解を示している。
従者もたとえ魔獣の作り出した椅子でも王が座った以上座る以外の選択肢はない。従者たちも警戒しながらではあるが私の作った椅子に座る。
『さて…まずはお互いの気になっているところから話しましょう。』
「異論無い。」
議論一。私たちが共通で気になっているもの。スキル【グリーディキリング】に関すること。
『まず私の方から答えさせてもらうと、このスキルは私が元々所有していたものになります。』
「なるほどな…それは、魔獣でも扱えるスキルなのか?」
『はい。魔獣であろうと人であろうと…前例は知りませんがおそらく微生物や人工物でも、その所有者に意思があれば使うことは可能です。』
可能な限り丁寧な口調で話す。本物の王族からしてみればまだまだ生意気なものなのかもしれないが、それでもため口で話すよりマシだ。
私は自分の中でターさんの喋り方を必死で思い出しながら喋っていた。
「ふむ…ネザーランドウサギ殿は…」
『うさぎ、でいいですよ、ロム王。』
「そうか…ではうさぎ殿。昨日私はそのスキルを私のスキルを使って見させてもらった。スキルの名を【天啓眼】という。」
『【スルーシーイング】…ユニークスキルですね。』
「我が王家に伝わるスキルでな。私の視界に入った者の所持スキル、その能力やその他スキルに関する全てを見ることが出来るのだ。」
「お、王様!?」
「よろしいのですか!?このような魔獣に我が国の切り札である王家のスキルを教えてしまっても…!」
「よい。我が国のスキルは全容を知れていても対策のしようがない。そのスキルを使い情報を仕入れ、そこからどのような作戦を立案するかが本当の切り札だ。そして貴様ら…そのような不敬な発言は控えよ。我らの前にいるのは魔獣などではない。マルル大森林の守護者、聖獣だ。」
「し、しかし…!」
『従者の方の不安もわかります。喋る魔獣、まして人間の脅威になり得るほどの力を持っているなんて、私が人間だったら信用しろという方がまず無理な話です。』
我ながらパンチの効いた皮肉ではあると思うが、この人たちには私が元人間の転生者だということは話していない。
彼に自分が転生者だと話すかどうかを決めるのはこれからだ。
『王よ。私の質問はたった一つ。あなたはなぜ【グリーディキリング】のことを知っている?』
「…やはり、そのスキルは強力なものなのか…?」
『非常に強力で、凶悪です。』
「そう…か………」
王は深くため息をつくと頭を抱えた。
その額には汗がにじみ、瞳もやや潤んでいる様に見える。
震える声で絞り出すように言葉を零す。
「ルカが…私の娘が…そのスキルを生まれた時から持っているのだ。」
全身に警戒が走る。
つまり、この王の娘、次期国家権力を握るような人間が転生者として生まれてしまったのだ。
誰が転生したのかはわからない。そもそも学校中の五百人近い人間全員が転生しているのでほとんどは知らない人だ。
クラスメイトはかろうじて分かるが、あとはもう同じ中学からの友人とかその辺り。
それ以外の人間の素性などわからないし、向こうの世界で大人しかった人だとしてもこちらの世界で強大な力を手にすればそれに溺れる可能性だって十分にある。
であれば、私の取る行動は二択。
一つは王の娘を記憶が戻る前に殺してスキルを奪う事。
だがこれは本当にどうしようもなくなったときの最終手段だ。
王族を殺せばロム王国と戦争になる。そうなれば多くの森の命、それにヘビ子の身も危ない。
そして、もう一つの選択肢もギャンブルだ。成功するかどうかは分からないが、少なくとも最終手段を取る前に動ける選択肢で、上手くいけばロム王国を味方につけることだって可能な択。仮に失敗すれば争いは免れないが、少なくともそれまでの時間は稼げる。
『…もし、もしですが、娘さんが【グリーディキリング】の他に二つのスキルを所持していれば、私が力になれるかもしれません。』
「まさか…!【ステータス開示】と【宝玉の転移門】!!それが娘のスキルだ!もう一つは【スルーシーイング】で王族のスキルだが、娘は生まれつき四つのスキルを所有しているんだ!!!」
王は身を乗り出して私に娘のスキルを説明してきた。
そして、もうその娘を見て見ぬふりは出来なくなってしまった。
『…王様。【グリーディキリング】は殺した対象のスキルを奪うことのできるスキルです。』
「まさか...!?本当にそのようなスキルが存在するのか...?」
『事実です。王様、もう一度私のスキルを見ることは可能ですか?』
「あ、ああ。可能ではあるが...」
王はスキルを使うことを渋っているようだった。
そういえば、昨日私のスキルを覗いた後に気絶していたっけ。
何かしらのデメリットのあるスキルなのかな。
デメリットが外傷や身体的なものであれば問題ない。
『ご安心を。今度は気絶しないように、私がスキルで王の体を治癒し続けます。痛みは...消すことは出来ませんが...』
「構わぬ。それも、娘の未来のためなのだろう?」
この人、ずっと娘のことばかりを気にかけている。
臣下の前だというのに、国王である前に一人の父親として娘を救おうとしているのか。
そしてそれを黙認され、従者たちの表情が依然として王の身を案じているあたり...
この王を敵に回すのは愚策以外の何物でもない。
恐らくこの王はその気になれば歴史に名を残せるレベルの賢王だ。
私は【超速再生】をパサラン経由で発動し、そのパサランを王の頭に乗せる。
『少々くすぐったいと思いますが我慢してください。私は体に魔力を溜められない体質ゆえ、このパサランがないと簡単な魔法すら扱えないのです。』
「...不思議な聖獣だな。魔力が貯まらないのも、その見た目も...言葉に困るな。」
『良いんですよ。雑魚種族、被捕食者だと、何度も自分を揶揄してますから。』
「肝が据わっているのだな。」
『それは、お互い様でしょ?』
「そう言ってもらえるとありがたいものだ...【スルーシーイング】」
パサラン越しに王のスキルの発動を感じ取る。
相当な痛みを伴っているようだが、脂汗を吹き出しながらもその視線は私から一切反らされない。
『そのスキル、見ようと思えば対象のスキルを絞れると思います。』
「ああ...!!城から街を見下ろして特定の建物を見るようなものだ...!」
『では私の言葉を辿ってスキルを追ってください...【飛行】【万能毒】【超探知】【水冷操作】...』
私は出来るだけうさぎという種族からかけ離れたスキルを王に伝える。
このスキルが借り物のスキルだということを伝えるにはこれが一番分かりやすいと思ったからだ。
『【ファントムフレイム】【超速再生】【獣の支配者】』
「なるほど...な...!」
『では、スキルを解いていただいて大丈夫です。』
「ぐはぁっ...!!!はぁ...はぁ...!!」
「王様っ!」
「ご無事ですか!?」
倒れ込む王に従者が駆け寄るが、王はそれを止め立ち上がる。
倒れたのは痛みによるものだけで、身体自体は【メガキュアラル】で何の状態変化も起きていない。
「...凄まじいスキルだな...【スルーシーイング】はどれだけ弱いスキルでも見た直後は疲労感が残るのだが...何なら来た時よりも健康なくらいだ。」
『かなり練度を上げているスキルの一つですから。それで、【グリーディキリング】の本質を理解していただけましたか?』
「ああ。どうやら、本当のようだ。」
王は再び椅子に座り汗を拭うと、大きくため息をついた。
「【飛行】【ファントムフレイム】そして【獣の支配者】どれも自然にうさぎの身体に発生するスキルではない。」
『私のスキルのほとんどは他の種族から奪ったスキルですから。』
「だが、分からぬ。なぜうさぎ殿の様な聖獣のスキルを我が娘が生まれつき持っているのだ?」
『それは...』
躊躇した。
まだこの王様に自分が、そして娘が転生者だということを教えないほうがいい。そんな気がしたのだ。
『...このスキルは公表は出来ませんが、ある特定の条件を満たす個体に種族を問わず発生するスキルなのです。今回で言えば、私と娘さんがその条件を満たしていたのです。』
「条件を満たすことで生まれつき手に入る...なるほど。それだけであれば、通常の上域スキルと取得の条件は変わらないな。」
なるほど、いいことを聞けた。
てっきり上域スキルは特定のスキルの進化による獲得がメインルートかと思っていたから。
生まれつき上域スキルを持っている生き物も存在するのか。
それは親個体が上域スキルを所持しているとかが条件なのだろうか。
「もう一つ分からない。なぜ私は【グリーディキリング】そして【ステータス開示】のスキル詳細を見ることが出来ないのだ?」
『あー、そうなんですね...』
どう考えてもあの靄がスキルに何かしらの加工を施したからだろう。
もともとこの世界にある彼のスキルにまで干渉範囲のあるスキル。
いったいあいつは何者なんだろうか...
『多分あまりに特殊だから、とかでしょうか。』
「ここに来て随分とぼんやりした表現になったな...」
『...このスキルの所有者はこの世界に500人ほどいます。それぞれが皆、強力な副次スキルを所有しています。遭遇すること自体が稀ですから。そして何より...』
警戒はされるだろう。だがこれを伝えないことにはその先の説明ができない。
『【グリーディキリング】の所有者は同じ【グリーディキリング】の所有者に命を狙われる可能性があります。』
「何ッ!!?」
王の警戒心が跳ね上がる。
それに反応して従者たちも各々武器や魔法を構え私を警戒する。
『...武器をしまってください。警戒される気持ちは分かりますが、私は娘さんに危害を加えるつもりはありません。』
「その言葉を...そのまま信用しろと?」
『まあ無理ですよね。魔獣の言葉を信じろなどと。』
想定内だ。さあ、問題はここから上手く丸め込めるかどうか。
『まず第一に、私が娘さんを殺すことはありません。』
「...その根拠は?」
『私がロム王国と良好な関係を築きたいと思っているからです。』
警戒から疑惑に表情が変わる。
嘘はつかない。でも本当のことも言わない。
『先に誤解のないように言っておくと、ロム王国だけでなく、ファディオス帝国にも今後同様の提案をさせていただきます。あくまで森は中立。どちらのどちらか一方の不利益になるようなことは、こちらからはしないつもりです。』
「つまり、両者の得にはならないが、自分たち森の生き物は両国からいいとこ取りの恩恵を受けたいと?」
ここまで黙っていた魔導士が喋った。
相手の力量をぼんやりと見れる【解析眼】でも明らかにこの場の人間の中で一番強い。慎重に言葉を紡ぐ。
『両者の得にならないのではなく、損にならないように動く、です。例えば帝国は立地的には優位を取れるものの、資材に関してかなり王国に遅れを取っています。そこで、向こうから我々に連絡を取ってくるようなことがあれば、森の恵として一部資材を提供してもいいと考えています。』
「元々無かったものが急に湧いただけだからこちらは損はしていないと?」
『もちろん、王国にも恩恵を与えます。それも聖獣直々に与える恩恵です。』
この作戦の成功はうまく行けば私がこの世界で出会う二人目の関係者をこちら側に引き込める。
そのためには、その関係者に王国の人たちと良好な関係を築いてもらいつつ、かつ幼少から私の存在をほのめかす必要がある。
『娘さんを、私が育てましょう。』




