第97話「太陽祭」終盤
格闘と転落事故の件で、格闘舞台の周りはわやくちゃだ。
気を失ったブルジェナ嬢を担架に乗せ換える。医務室に運ばれる彼女と彼女の付き添いになった女子二人を見送った。
「お前も行けよ」
「それは……」
歯切れの悪い友人やな……。
「中に入らんでも、外におっとくだけでええねん。仮に元気に出てきたら『無事で良かった』ったれよ」
「ならカルヴィン様も一緒に」
「俺は次の舞台や……。と言いたいけど、先輩にお願いしてキャンセルさせてもらう」
「カルヴィン様、トリですよね?」
「目の前で友達が落ちたんやぞ。こんな気分で恋愛モノなんて語れるか! 俺も含めて予備の話があるからそれで対応してもらうよ。はははっ」
苦笑いしてヴォルフと別れた。
詠唱舞台の近くにいた三年の先輩に事のあらましを話し、俺は最後の舞台を降板した。
予備に用意していたシナリオを託して、俺は食堂へ向かった。
食堂にはまばらに学生らがいる。
複数のグループと、俺みたいなぼっちさんらがぱらぱら。
屋台飯食いながら、お茶やサングリアを飲んでいた。
グループの連中は事故の事を知らないらしく、楽しげに談笑している。
俺はカウンターでお茶を貰い、誰もいない島の適当なテーブルに着いた。
命に別状もなんも無かったとは言え、友人、それも俺の命に関わるかもしれない人物が飛び降り自殺しようとしていたのだ。
理由がわからない。
パトリシア嬢らが言っていた女子寮で流行っていた小説……。それに感化された?
嘘だろー!
勘弁してくれ……。
何があってもゲームであったイベントが展開されるのか?
俺はゲームの細かい話を知らない。たまにお姉らの話を思い出して整合性を照らし合わせてるだけだ。
このままだと、何かの拍子にジェル姉が闇落ちしてドラゴン化。大暴れして俺が巻き込まれて死ぬルート確定やんけ。
嫌だー。死にたくねー。
ガラガラガラ
勢い良く食堂の後ろの扉が開けられる。
「オイ! 決勝戦、決勝戦!」
あーっ、そんな時間か……。
「誰対誰?」
知らん学生の声。
どうせ、ポチとレオ先輩やろ……。
「アレックスとブルーノ!」
えっ?
ポチは?
「デリックは?」
「棄権したらしいぞ!」
「うわっ。そりゃ番狂わせだ! 行こうぜ、行こうぜ!」
男子学生の殆どがどかどかと大慌てで食堂を出ていった。
大人しそうな数名の女子グループと俺が食堂に取り残される。
頭を抱え俯いていた顔を上げる。
「あのー、行かないの?」
俺と目が合った青いスカーフ留めの先輩が不思議そうにしている。
男は皆殴り合いの喧嘩が大好きとでも思ってるのだろうか……。
「ちょ、ちょっと気分が悪くて……」
「そう。お大事に……」
俺は空になったカップをカウンターに返すと、そのまま寮の自室に戻った。
イケメンゴリラ対漢前ゴリラの対決が、漢前ゴリラ対ゴリラゴリラに代わっても、俺には何も関係ない。
あいつ等は余程の事が無い限り死にはしない。
でも、俺は選択を間違えれば死ぬ。
実の姉、ジェルトリュード・クラインに俺は殺される……。
遠くで聞こえる太陽祭の最後の喧騒。
格闘、詠唱、舞踏、音楽。最後の演目は時間が押す関係で各舞台が同時に行われる。だから音がぐちゃぐちゃになっているのだろう。
自室のベッドに突っ伏して、俺は頭から枕を被った。
「ちくしょー……」
これからどうすりゃ良いんだよ……。




