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第96話「太陽祭」落下した少女

「何でよっ! 何でこんな事したのよ! 命を粗末にしないでよ!」

 絶叫しながらジェル姉がブルジェナ嬢に縋りつき、彼女の肩を揺さぶった。

「姉御止めろ。脳にダメージいってるかもしれないから」

 血相変えて叫ぶジェル姉を俺は引き剥がす。

 虚ろな目で「あたし、あたし……」と呟くと、おひぃさんはそのまま気を失ってしまった。

 ジェル姉と反対側にパトリシア嬢。ブルジェナ嬢の傍らにしゃがみ込み両手をかざす。

「"癒しの光"」

 気を失った少女の身体を優しい光が包み込む。そしてゆっくりと消えていった。

「軽い打ち身はありましたけど、大丈夫ですよ」

 パトリシア嬢が微笑んだ。

 彼女の笑顔に安心したのか、ジェル姉は力が抜けてへなへなと地面にへたり込んでしまった。

「とりあえず、担架やな。この娘、医務室に運ばないかんな。ジェル姉立てるか?」

「うん、なんとか……」

 ジェル姉はふらふらしながらも立ち上がり、スカートの埃をパタパタと叩く。

「格闘舞台の脇に担架あったから、人呼んできてもらえるか? 俺、彼女見とくから」

「わかりました」

 パトリシア嬢が、ジェル姉の服の袖を引っ張って格闘舞台に連れていった。

「冷えるから早めにな!」

 俺はジャケットを脱いで、彼女の上に掛けた。

 やっぱり寒い……。内園は十度を下回らないが、冬場だから。

 制服の温度調整機能って凄いんやな。こんなことなら上に外套着とけば良かった……。

 ん?

 これ、ゲームのイベント……?

「おぼっちゃんか陰キャと探さないとダメだからね」

 姉1の言葉。

 さっきのがイベントなら主人公のパトリシアは、俺と探していてブルジェナ・サンチを助けた。だから、俺のフラグは立った!

 よっし!

 いや、違う! そうじゃない!

「一緒になれないからって、飛び降りなくてもええのに」

「それだけ、追い詰められてたって事じゃないの? ほら、性悪と子分共の会話であったやん。『属性相性が合わなくて、自害するヒロインの話があったでしょ。命を絶てばその存在を愛する人の心に一生刻み込めるのよ。素敵ねっ!』って」

「私、そんなんで絶対死にたないわ」

 姉2がダイニングテーブルのとこでゲームしてたのを、姉1がアイスキャンディーを噛りながら覗いてたあれだ!

 俺も食いたくて、冷凍庫からアイス取る時、後ろから見てたんだ。

 いや、でも、ジェル姉が、二人の秘密を知ってるわけがない。執事長のセバスには、ジェルトリュードがあの二人の事を調べようとしたら俺に教えてくれと予め言っておいたから。

 それに、ヴォルフ・チェインバーもブルジェナ・サンチも俺らクライン姉弟にとって、仲の良い学友だぞ。似非姫達だって、ピンクちゃんやおひぃさんに嫌がらせしてないのに。

 ガザガサ

「カルヴィン様っ!?」

「遅かったな……」

 何故だか、俺はやけくそ気味に呟いた。

「何があったんですか? なんで……」

 ヴォルフが俺の近くにやってきた。

「わからん。おひぃさんが塔の上から飛び降りた。咄嗟に、俺とジェル姉で助けたよ。 今、パトリシア嬢らに担架借りてきてもらいに行ってもらった。俺はお姫様のお守りです。はっはっハクション」

 身震いする。やっぱり寒い。

「カルヴィン様、風邪を引きます。上着を着て下さい。僕が替わりますから」

「なかなか来ないから、彼女連れていこうか。ブルジェナ嬢軽そうだから、俺がお姫様抱っこしてもいけるやろ」

 俺はおひぃさんを抱き上げた。

 背が低いのもあって軽い。

「待って下さい。僕が連れて行きます!」

「なら、頑張って連れて行ってや、王子さま!」

「……」

 俺は彼女を友人に託した。

 上着は返してもらった。ヴォルフとくっついてたら温いやろ。

 俺は自分の上着に袖を通し、ハンカチで鼻水拭った。

 崩れかかった土の山を“泥の傀儡”で平らに均す。自壊した土山は地面に広がり凹みを埋めた。

「重たない?」

「大丈夫です。走って逃げるわけではありませんので、彼女くらいなら運べます」

 俺は友人に寄り添ってゆっくり歩いた。

 実験塔と学生寮の間。

 ジェル姉とパトリシア嬢が戻ってきた。後ろに担架を持った男子学生二人を連れて。

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