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第94話「太陽祭」演目Ⅱ2

 八時過ぎ。二回目の詠唱の演目が始まる。

 今回も俺は二番目。朗読内容は「墓荒らしと黒い蝶」

 今回のは怪談。おどろおどろしく淡々と話す。

「『だからね、暖かくなった昼日向でも黒い蝶を見るとあっしは怖くて怖くて』と、痩せぎすの男は目をギラギラさせながら笑っていた。以上です。ご静聴ありがとうございました」

 パチパチパチパチ

 まばら名拍手。

 講堂校舎の反対側からは、舞踏の音楽が聴こえてくる中、俺は舞台袖に引っ込んだ。

 俺の次、三番目の女先輩の詩の朗読。冬の寒さも天からの恵み、春に向かって頑張って活きようみたいな内容なのだが、こんなポジティブ思考の詩の前が、自称墓荒らしのおっさんが話す怪談で良かったのかは謎だ。

 先輩の朗読に聞き惚れていると、クイクイ左袖を引っ張られる。

 誰かは何となくわかってた。

「何や?」

 小声で姉御が尋ねる。

「ブルジェナ嬢見なかった?」

「知らん。舞台上からは、パトリシア嬢と姉御、後ろの方に王子様らを見かけた以外覚えてない」

「どうしましょう……」

 ピンクちゃんが不安そうにしている。

「はぐれた?」

「おやつ食べた後、彼女お手洗い行くって別れたの。あんたの出番までには来る約束してたのに……」 

「先生方から、女子はなるべく一人で行動しないように言われてるんです。騒動が落ち着いたとは言え、彼女特別ですから……」

「部屋戻ったとか?」

「エマに確認してもらったけど……、いないの」

「わかった。ジェル姉らは、校舎内側回って。1周したら講堂側の実験棟繋ぐ渡り廊下あたりで待ち合わせ。わたあめ屋台の近くで待ち合わせしよう」

「あんたは?」

「室内訓練場裏のミニ庭園から見てくる。お前らは反対側から回ってくれ!」

「わかったわ!」

 俺は先輩らに断りを入れて、二人と別れた。

 室内訓練場の裏の庭園は、イベントが行われる場所だと王子様が言っていた。

 もしかしたら、おひぃさんはヴォルフに会いに行ったのかもしれない。そういう約束をしていたらの話だが。

 詠唱舞台から庭園は近い。

 人混みを抜けて、校舎裏手に走る。

 内園にしろ外園にしろ太陽光を利用した魔具の街灯がある。

 日本における都会の煌々とした明るさでもないが、人物の顔を判別するには十分な灯りだ。

 庭園。

 ベンチで上級生のカップルがいた。

 デート中かよ……。

 でも、俺が思ってるそれではなさそうだった。

「まだ来ないね」「来ないですね。もうそろそろなのに」と、他人行儀に話している。

「お待たせー!」と、東側から元気な女の声。続いて「お待たせしました」と、知ってる男子学生の声がした。

 二組のカップルは、ベンチで落ち合うと、緑の腕章と持ち歩き用のランタンを渡していた。

「では、行ってきます」「行ってらっしゃい」

 ベンチのカップルは、西側の方に消えていった。

 見回りか……。

 知った声の主はヴォルフだ。

「じゃ、これで失礼します」「お疲れ様です、ヴォルフ様」

 背の高い上級生女子と別れたヴォルフを呼び止める。

「ヴォルフ、ブルジェナ嬢知らん?」

「いえ……。屋台の辺りでジェルトリュード様達といたのを見かけた以外では……」

 俺から視線を避ける。

「そっかー。花摘みに行ったっきりどこいるのかわからんらしい。部屋にもおらんみたいやし」

「……」

「意味わかって言ってるよ、俺」

「そっ、そうですよね」

「今、姉御はパトリシア嬢と二人で探してる。俺は校舎外側探そうかと」

「女子が独りでいるなら、見回り担当が話しかけそうですけどね」

「時計回りで来た?」

「十五分毎にここから見回り係が一周してます」

「うーん」

 俺はちょっと悩んだ。ゲームでもここっぽい庭園で、俺というかカルヴィンやヴォルフが、主人公と二人で話してるシーンがあったし。

「取り敢えず、俺は反時計回りに回るわ」

「なら、ご一緒します」

 俺とヴォルフで勝手に見回り。

 暗闇に浮かぶ薄橙色の石造りの塔。なんか引っかかる。

「南西の塔は?」

「さっき見ましたけど、鍵かかってますよ」

「一応寄っていい?」

「はい」

 駆け寄って塔の回りを一周。

「誰かいる?」

 ドアのノブガチャガチャするも、ヴォルフの言うように鍵がかかっていて開かない。

「校舎東側から攻めて、北側から戻ろう」

「わかりました」

 塀の辺りに隠れてないかも見て回ったが、特に誰もいない。

 今から秘密のデートをしようとするカップル上級生と出くわして気まずい感じになったが。

「最近、あの子気配消してるのか、いてるのか、いてんのかわからんのよ」

 俺は苦笑する。

「そ、そうなんですか。僕には普通にジェルトリュード様やパトリシア嬢と一緒にいるのを見かけてましたが……」

「何であの子と話さんの?」

「えっ!? ……。ちょっと前に話かけたんですけど、気が付いてもらえなかったんです。それっきり……」

「そっか……。そのまんま進展ないなら一年終わっても、なーんも関われんまんまやぞ」

「……」

 気まずいな……。

 駆け足気味だったから、既に校舎北側。

 俺は内ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する。

「実験棟の裏手見たら一旦戻るわ。姉御達に報告するから。お前はどうする?」

「僕はこのまま探します」

「わかった」

 妙な胸騒ぎ。ゲームのイベントで太陽祭絡んでたのか……。

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