第92話「太陽祭」舞台演目Ⅱ1
太陽祭の四舞台。いっぺんに舞台で何かしら行われているわけではない。
武道と舞踏。音楽と詠唱。およそ三十分毎に、対角線にある舞台で同時に演目が行われる。演目が終わると五分から十分程度の休憩を挟んで、もう一組の舞台で演目が開始される。
休憩中流れていた手回しオルガンの音が止み、講堂校舎の反対側から楽器で演奏する音楽が聞こえ始めた。演奏組の演目が始まった。
朗読組初演二番目が俺の番。舞台に進む。 素知らぬ顔してオーディエンスをチラチラ。
格闘と舞踏が人気なので、皆屋台飯飯に集っているのか、思ったほど人は集まってはいない。
屋台飯食いながら見てる奴。少し後ろだが真ん中辺で手を振る女子。ピンクちゃんだった。隣にジェル姉とおひぃさん。うち姉御は、じゃがバターを持っていなさる。
手を振り返したかったが我慢我慢。
舞台真ん中の椅子に俺は座る。
朗読用の用紙取り出す。
俺の演目は「大工と魔人」
本当は芥川龍之介の「煙草と悪魔」みたいな話にしようかと思ったが、子供の頃、ジェル姉とお付きのエリーヌが息を飲んで聞いてくれてたから、この話にした。
「『何故、儂の名が判った!』絶叫しながら河に消えていく魔人。大工は安堵し橋の上でへなへなと腰を抜かしてしゃがみ込んでしまいました。その後、彼は命の恩人をほうぼう探しました。結局、彼に魔人の名前を教えた者の正体はわかりませんした。魔人の大橋は長い間河に架かり、どんな大雨にも負けず数十年残り続けたそうです。以上です。ご静聴ありがとうございました」
いつの間にか椅子から立ち上がり、一人芝居状態で舞台の真ん中に立っていた俺は、皆に一礼して舞台を降りた。
パラパラとした拍手の中、次の学生にタッチ交代。
俺の番が終わったので、女子三人は室内訓練場にある屋台の方に行ってしまった。
クレープか……。おかずクレープか普通のデザートクレープか、どっち買うのだろう。姉御は立ち食いの習慣がないから、また食堂で食べてるんだろうな。