第87話「王子様とお茶しばく」
太陽祭の打ち合わせも今の段階では、おれにとっては序盤と言う事で、過去の太陽祭に関する話になる。
とは言え、セレスタ会長も去年の祭しかご存知なかった。
昨年あったぷち事件的な話で笑っていたら、カフェテリアにエリオット殿下とお付き二人が来た。一人は黒髪のデリック。もう一人は茶髪で"火"属性の人。
テーブルは空いていない。
「あら、殿下!」と、声をかけた会長。
「セレスタ嬢」
「よろしければご一緒します?」
同輩二人が席を立つ。
「我々はここで失礼します」
彼らは俺らと殿下に軽く頭を下げると、カフェテリアを出ていった。
「追い出しちゃった?」
「太陽祭の打ち合わせでしたの。話す事も無くなってきてた所なので、大丈夫ですよ」
会長の隣、お下げ眼鏡ちゃんの座っていた椅子をデリックが引くと王子様はそこに座った。
「いつもので」「かしこまりました」
デリックはカウンターでおばちゃんにオーダーをかける。
「太陽祭の出し物? それとも見回りさん?」
「詩の詠唱です。まあ、詩ではなく物語の朗読をカルヴィン様にお願いしてましたの」
「彼、面白い話いっぱい知ってるからね」
エリオット殿下が笑う。
「お待たせしました」
デリックがお盆に乗せたティーカップ二つとポットを持って戻ってきた。手慣れた感じでエリオット殿下の前にお茶を置く。そして、もう一つにお茶を注ぐと王子様の隣の席に座った。
もう一人のお供は、少し離れた所で主の為に侍ってた。
「去年の格闘技って、やっぱりデリックが出てたんですか?」
「ん? 出てないよ」と、王子様。
「一年は詩の朗読だけよ。一人で出来るから」
「お前、去年は何してたっけ?」
「同輩女子と見回りしてました」
「見回り?」と、俺。
「職員の人も回ってるけど、それだけだと足らないのよ。夜の内園に三百人くらい人がいると、人気の無い場所で良くない事してる人がたまにいるから。それで定期的に見回りしてるのよ。交代制なので、ちゃんとお祭りには参加出来るし、何かあっても魔法使用の許可降りるから、賊がいたら……ふふふふふっ」
「ボコってええんすね」
うわー、会長おっかねー。
「星見する為に今年は北西の塔を開けるから、星見会の人達がいたら望遠鏡でお星さま見れるわよ」
「星見の塔に行く以外で、校舎より外側に人や学生がいた場合、校舎内側に戻るように注意してましたね」
「何組ぐらい注意してたん?」
「三回回って、各回一組とか二組。植え込みの影で逢い引きしていたり、一人の学生を複数人が殴っていたり」
そりゃ止めないかんな。
「ただ、内園の庭園に学生がいた場合は、状況に応じて見なかった事にするのが習わしだそうです」
ここで言う庭園は、講堂校舎南側にある室内練習場の裏手にある小さな庭園の様な場所の事だ。外園東側の植え込みも庭園みたいな形状をしている。外園南側にある来賓用の馬車置き場の向かいの薬草畑の西側には薔薇やらなんやら植えてある大きめの庭園みたいな所もある。畑の隣が外園の庭園という認識だ。
学内では、外園の庭園、内園の庭園で通じる。どっちもベンチがあるので、仲良し女子グループがおしゃべりしてたり、リア充が二人でイチャイチャしていたり……。
「内園の庭園にいる学生はスルーなんですか?」
「痴情の縺れで良くない事が起こってないなら、それは愛の告白か、人生相談だからよ」
「人生相談……?」
「よくわからないのだが、あそこで信用出来る人物に人生相談をすると、心のモヤモヤがスッキリするらしい。太陽祭の時は、特に。 僕は人生相談する事はないからあれだけど、お前は何かある、デリック? 太陽祭でなくても何時でも聞くよ?」
唐突に問われて困惑するデリック。
「いっ、今のところは特に……」
「そう。残りの貰うね」
王子様は残り一枚になったクッキーを上品に口に運ぶと、お茶を啜った。
なんか家来の様子を気にかけてる風にも取れた。
んっ? 庭園。人生相談……。
あっ、これゲームのシーンじゃん。
なんか庭園みたいな所で、主人公に攻略対象キャラが悩み事を語る……。
ははははははっ
「庭園で夜のお悩み相談があったキャラは、フラグ立ちまくってる状態やでー。ラストバトル後の攻略ルートほぼ決定!」
姉1が姉2に話してたの思い出した。
今、ピンクちゃんに人生相談する事ないしな……。どうしよう。
「今年は格闘技に出ますか? デリック様」
銀髪会長が髪の毛くるくるして、王子様の家来に尋ねる。
「出てもよろしいのですか?」
「出たければ。僕はお付きが二人いてくれたら動けるし」
「では、デリック様出場決定でよろしくて?」
「はい」
「では、そういう事で」
嬉しそうにセレスタ会長が軽く手を叩く。
俺には、レオ先輩とポチが殴りあってるシーン以外思い浮かばなかった。