第85話「王都から手紙」
夕食時の食堂。
ブルジェナ嬢いないなと思ってたら、パトリシア嬢の後ろに座ってた。
最近、彼女の気配を感じない時がある……。
顔色は悪くなさそうだが、以前のような小動物的可愛さに裏打ちされた明るい笑顔が全く無い。"風"属性の女子らに囲まれて、時々はにかんだ笑顔で応えていたので、心配する必要はないかもしれないが……。
顔馴染みの女子らから離れた席で、俺は"地"属性の奴らと飯食いながら、成績についてあーだこーだ話していた。
"泥の傀儡"の上手な操作方法を聞かれて、「やっぱりイマジネーションかな」と、わかったような顔して答えた。
「実はこっそり練習もしてます」とは言えなかった。
飯食い終わって、給品部にペンのインクを発注しに行った帰り。
寮の一階。
ちょっと遊技室を覗こうかと思っていたら、「カルヴィン様!」と、メイドのエマに呼び止められる。
「お届けに参るところでした」
彼女から一通の手紙を受け取った。
「あっ、何、何? どうしたの?」
ジェル姉が後ろからやって来た。
「王都のセバス様からカルヴィン様へお手紙です」
王都の別邸で執事頭をしているセバスに、とある調査を依頼していた。
領地本邸の執事頭のセバスは、別邸セバスの兄である。
セバス家は、代々我が家の執事をしている一族だ。
「手紙? お父様から?」
俺の手から手紙を奪おうとする姉御を避ける。それでもしつこく俺の手紙を奪おうとしてくる。
「セバスからや! 親父殿からなら直接お前宛てに行くやろ」
「何故、セバスがあんたに?」
「お前に関係ない!」
「あー」と、ニヤニヤしながら俺の耳元で「気になる女子の事調べて貰ってたー? パトリシア嬢とかさぁ?」
「ちゃうわ!」
いや、当たらずとも遠からず……。
ジェル姉の勘の鋭さというか、女子特有の嗅覚というか……。
「それじゃあな」
俺は手紙を制服のポケットにねじ込むと、受付で鍵を受け取り急いで二階の自室に戻った。
俺の部屋。
ドアの横とベッドの頭に、金属の板に魔力を入れたら部屋が少し明るくなるシステムになっている。それでも夜は暗い。それで、勉強机の上にある魔具のランプが僅かに光っている。ランプのスイッチを捻ると、灯りが灯る。
オイルと魔力のハイブリッドランプだ。時々、魔力を入れてやらないと付かなくなる。
机に手紙を置いて、椅子に座る。引き出しの一番上から銀色のペーパーナイフを取り出し、手紙を開けた。
内容は、ヴォルフ・チェインバーとブルジェナ・サンチについて。
「嘘だろ……」
手紙の内容に愕然とした。
お姉らが、ブルジェナ嬢を“おひぃさん”と呼んだ訳。
そして、「おぼっちゃんとおひぃさんは一緒になれない」理由。
うちの親でもええ顔せえへんどころか、断固反対するやろう……。
「貴女達はね、一緒になれないの」
嬉しそうに卑た笑顔で話すジェルトリュードの声を思い出した。
ゲーム版の彼女は、俺がしたように二人の事を家の者に調べさせたんだ。
「見殺しにしたら、ラストバトルでぶち切れたポチを見れるよ。レオ君より強いねん」
「別に見殺しにせんかてええやん」
「嫌なら、おぼっちゃんか陰キャと探さないとダメだからね。それなら、二人のフラグは立つはず」
「桃子一人だと無理?」
「無理。その二人じゃないと助からんよ。レオ君やポチでも無理」
「何故、桃子は"光の絹紐"で釣り上げないんだ? そしたら、あの二人でもいけるいける」
「知らんがな!」