第6話「攻略対象キャラを探せ!」
エマから受け取った鍵で、自分の部屋に向かう。お付きの使用人には、少し一緒にいてもらったが、すぐに還した。
別邸に帰還するはずだが、今日は王都と学園の途中にある東の町に滞在するのだろう。
今日は私服でも構わないそうなので、制服は明日から袖を通すことにして、俺にはすぐにやりたいことがあった。
部屋を飛び出し一階の受付に鍵を預けると、大急ぎで実験棟に向かう。
今日は金曜日。
あそこには、教務課の隣に売店の給品部があり、金曜の午後から日曜の午前中まで行商が来ているからだ。
「行商さん」
お姉らが言うには最難関攻略対象キャラ。但し、攻略したところで本編には何の影響もないという。
しかし、そいつが攻略対象キャラである以上どんな奴かを、俺は確認せねばならないのだが……。
「ワタシが出入りの行商してるマリオン商会のジョニー・マリオンです」
ずんぐりむっくりした髭の中年。
これが、攻略対象キャラ?
はぁっ!?
えっ? これ、乙女ゲームだよね。
なんでこんなおっちゃんが、攻略対象なん?
おっさん好き対応? 枯れ専にしてはちょっと若いぞ。
亀を踏む世界一有名な二十代の配管工と、不思議なダンジョンを探査してる妻子持ちの商人を混ぜたような行商のおっちゃんに、俺は目が点になっていた。
「すんません。今日は、あのー、見に来ただけなので、すんません……」
脱力しながら教務課の前を通った時、教務課のドアが開いた。
「おや? カルヴィン様ではないですか」
聞き覚えのある真面目そうな声。出てきたのは、蒼い髪の男子学生。身長は俺とあまり変わらない、というか百六十七センチの俺のが少し高いかな。
「おぉ! ヴォルフ! 先に来てたんだ」
「ええ、昨日。私服ということは、今日来られたんですね。ジェルトリュード様は?」
「姉御は、まだお部屋じゃないか。夕食に待ち合わせしてる」
「一緒にどうですか?」
「いいねー。六時に待ち合わせだから」
「では、その時に」
と、俺らは別れる。
ヴォルフ・チェインバー。
風属性魔法の名門、チェインバー伯爵家の長男だ。
いつ頃からだろう。俺ら姉弟の誕生会に参加するようになった。そして、この春も彼の二歳違いの妹と一緒に来てくれた。
その時に、気が付いたんだよ。
このヴォルフも、俺と同じ乙女ゲームの攻略対象キャラの一人だってことに。
「おぼっちゃん」
これは、ヴォルフで決定やろ。
ちょっと気になるのは、あいつ、ヴォルフは、ゲームだと庭園で嘆いてたというか、泣いてたというか。
なんで泣いてたんだろう。
何かを取られたから……。
そんな事言っていたような……。
うーん、わからん。ゲームしてないから。
そもそも、俺、カルヴィンも、庭園で「お姉ちゃんと仲違いしてるからー」みたいな嘆きをプレイヤーキャラにほざいてたし。
庭園って、男が女主人公に情けなく嘆く所なんやろか?
それはそれで、学園に来た以上、俺の生き残りサバイバルゲームは、とうに始まってんだよなー。