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第77話「淑女を祝う晩餐」前編

 ブルジェナ嬢が、紋章持ちである事が明らかになった日。夕食が、ちょっと豪華だった。

 とは言え、三百人近い学生がいるので、フレンチフルコース的な物ではない。

 サラダにパン。それとビーフシチュー。デザートに小鉢に入ったプリンの様な物。

 ビーフシチューはごろっと牛肉の塊が入っていて、動物性たんぱく質に餓えている学生は大喜びしている。普段の煮込みには、肉より豆類が多く入っているから味は悪くないが、育ち盛りというか育ちが良い奴からも不満があった。だから肉がごろっと多めに入っていいる今日シチューは嬉しい限りだ。特に 脳筋学生達は騒いでいた。

 通路側に姉御。で、ピンクちゃんに挟まれて座るおひぃさん。ジェル姉の対面に俺で、隣にヴォルフ。

 沈痛な面持ちのブルジェナ嬢を気遣ってか、彼女を囲む俺らは微妙な空気。

 そんな空気を打破するではないが、腹減ってるから俺はビーフシチューにスプーンを突っ込む。

 ニンジンとじゃがいもが多めに入っていたが、肉はごろっと大きくてじっくり煮込まれ柔らかく、口の中でホロホロとける。

「うっ、うまー。ここ来て食べた飯の中で一番美味い!」

 ちょっとはしゃいでみた。美味いのは事実だし。

 でも、なんも悪い事してないのに申し訳無さそうにするおひぃさんと女子二人に、俺は何と言って良いものか……。

 なんだろう。この気まずさは……。

 あぁそうだ。あれだ、お赤飯だ。

 姉1が小六になったある日。

 晩御飯が白飯でなく、お赤飯だった。

 おかずは刺身で、俺の好きな卵豆腐のおすまし。

「なんで、お赤飯なの?」

 姉2がおかんに尋ねる。が、おかんは不機嫌そうに黙って飯を食いだした。

 姉1は物凄く小さくなっていた。

 俺はおかんの作るお赤飯が好きだった。

 もち米で作るおこわと違って、おかんのは 普通の米と小豆で作る。毎年十二月一日の朝は、お赤飯と卵豆腐のおすまし。これを見ると今年一年残り一ヶ月だなとしみじみする。

 仕出し弁当に入った赤飯やご近所で貰った以外で、普段のおかんは赤飯なんぞ作らないから食卓には出ない。

 だからこその「なんで赤飯なの?」なのだ。

 その日は、春だったと思う。

 俺は何も考えず、ごま塩を赤飯にかけてお茶碗を空にしておかわりした。

 それから姉2が六年生になったある日。

 姉の部屋から声がする。

「やだー! 血がどばどば! 死ぬー!」

「そんなんで死ぬんやったら、世界中の女が死んどるわ!」

 その日の夜は、お赤飯と姉2の好きなハンバーグだった。

 やっぱり、おかんは不機嫌そうにご飯を食べる。

 姉2は小さくなっていた。

「なんで、今日お赤飯なの?」

 俺の問いに、誰も何も答えなかった。

「ねぇねぇ、なんで」

「ごま塩いる?」姉1がごま塩のビンを俺に寄越した。

 ごま塩をかけて、俺は赤飯をパクパク食べた。

 あー、あれの気まずさだ……。

 因みに、ジェル姉の場合は、焼き菓子と金のネックレス貰ってた。

「貴女は女性の仲間入りをしたんです」

 母親が厳しめに言い、父親が娘に金のネックレスを着けていた。

 もう十二歳だからね、と能天気に見てたけど、後でそういう事やと知った。

 何にも考えないで祝ってる方は呑気だ。祝われてる方は……。

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