第75話「重大発表と講堂での呟き」
月曜日の一時限目にあたる時間。
食堂の上にある講堂。
全学生が集められ、緊急の全校集会が行われた。
全体的に薄暗い場内。前方の舞台の上は明るく煌々と照らされている。
壇上の中央には黒光りした木製の演台が仰々しく鎮座していた。
下手にも演台が置かれているが、真ん中のそれと比べると小さめで密やかだ。
講堂の座席。
集会前で、ざわついている。今日の発表内容を判っている者。そうでない者。意に介さない者。様々だ。
真ん中の島は一年。上手側が二年、下手側が三年の島。
席は自由で早い者勝ち。
俺と姉御、そしてパトリシア嬢は、下手寄り通路側、比較的後ろの方の席にいた。
下手の黒い袖幕からティーダ先生が現れる。
魔具の拡声器を座席側に向ける。
「皆さーん。おはようございます。そろそろ席に着いてい下さーい」
通路ではしゃいでいた学生も慌てて席に着く。
「静粛にお願いいたします」
少しずつ波が引くように静まりかえる講堂。
「それでは学長お願いします」
上手の裾幕から黒いローブに長く銀色に近い白い髪と白ヒゲを貯えた丸眼鏡の老人が、中央の演台にゆっくり悠々と歩いていく。堂々と威厳ある雰囲気。
演台に到着すると、学長は台の上に手を置いて座席の学生達を見渡した。
「諸君、おはよう」
拡声器もないのに学長の声が講堂奥まで届いている。魔具なしで声を渡らせられるのは、年の功な魔法使い故か。演台が魔具なのか。
「今日は重要な知らせがある。我が学園に天より非常に稀な栄誉を授かった学生が現れた。来たまえ」
上手の袖幕から緑の髪の女学生が現れた。
小柄な彼女はおずおずと学長の演台脇に立つ。前で指を組み、俯き加減で佇んでいる。
「一年のブルジェナ・サンチ嬢だ。彼女は火の紋章を宿し、精霊サラマンダーを使役する"元素精霊の淑女"となられた」
講堂内がどよめいた。
「ウソーっ!」「やっぱり噂は本当だったんだ」「初めて見たよ」
様々な声が聞こえてくる。
「静粛にお願いしまーす」と、メガネ先生。
学生達の声が静まる。
「彼女は学園の誇りであり、我が国の宝でもある。女神アレスより選ばれた新たなる者として、この学園、いやこの世界に大きな影響を与えていく事であろう。おめでとうブルジェナ嬢」
学長が手を叩く。それに会わせるかのように講堂内に拍手の波が響きだす。
ブルジェナ嬢は、一歩前に進みスカートの両裾を軽く持ち上げると、女子特有の会釈をした。そして、姿勢を正し一歩下がって、指を組んで俯き加減に佇んだ。
羨望の眼差しが注がれる中。おひぃさんは見せ物にされてるようだった。
いや、見せしめかもしれない。
本来なら、女子の魔法使いなら多少なりとも憧れる存在。それが紋章持ちのはずなのに。
「いいなー。私も“地”の紋章出ないかなー」
姉御の呟きに、俺は何も答えなかった。
学長が拍手を止めると、波が引くように静まりかえった。
「君は女神アレスの代理人でもある特別な存在だ。その力を悪用する事なく常に正義の心を持ち、これからも魔法使いとして精進してくれたまえ。以上だ」
「えー、補足します。紋章の場所が場所なので、ここではお見せ出来ません。が、学長含め一部教員は確認済みです。又、学生個別での紋章や精霊の確認等は絶対行わないで下さい。よろしくお願いします」
学長とおひぃさんが上手に消えていった。
ブルジェナ嬢が紋章持ちである発表後、学園の関連事項の連絡が終わると解散となった。
前の席の者から講堂出口へと向かう学生達。
後ろ方に座ってる俺らは自ずと後になる。
俺に続いてジェル姉とピンクちゃんが通路に向かう。
後ろ二つ位の席から男子学生の声。
「ほーら見ろ。やっぱり彼女紋章持ちでござったろ?」
「本当だったね」
「前言ってた人らもか?」
「恐らく、パトリシア・アンジールとジェルトリュード・クラインも」
俺は二つ前の席に入り立ち止まって、声の主を見上げた。
そいつは俺と目があった途端、一瞬硬直する。オタク三銃士の鼻眼鏡。
奴は、俺と目が合うと途端に口ごもり、続きを二人の仲間に告げる事なく俺の横を通り過ぎていく。鼻眼鏡を追いかける様にチビ眼鏡と白デブが後に続く。
さほど大きな声でなかった為か、名前の上がった二人には奴の声は届いていなかった。無邪気に話しながら舞台前通路を歩いている。
パトリシア・アンジールはゲームの主人公。ジェルトリュード・クラインは主人公を苛める悪役令嬢であり、ラスボスだ。
鼻眼鏡は、ゲームの設定を知ってる?
もしかして、俺と同じ転生者か?
でも、これ乙女ゲームやぞ。男が好き好んでプレイするものなのか?
いや、ゲーム配信系で流行りのゲームだから、配信しながらプレイしてみようとかな奴だったらあり得る!
さて、どうやって聞き出す? その前に転生者か確認する方法は?
「お前、転生者か?」単刀直入に聞くのは……。
はてさてどないしよう?