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第73話「霜月の試験と焔の女」後編

 昼休み。

 俺が姉御と二人の女子の後ろについて、一番後ろの出入口から食堂に入る。

 中央の島の二年の学生が食べていたのが、オレンジ色のスパゲッティだった。

 壁側の島、二年エリアに近い後ろの席にオタク三銃士がいた。

 カウンターから離れた一番後ろのテーブルに、彼らがいることが多い。

 黒髪で鼻眼鏡、背の低いチビ眼鏡、背が高い白デブ。

 俺らは、今日は眼鏡を頭の上に乗せて飯を食っている鼻眼鏡の後ろを通って、カウンターに向かう。

 仲良く話す三人娘。「午後の試験が終わったらカフェテリアに行こうかな」とか話している。

 俺が鼻眼鏡の横を通った時だ。

「眩しい、眩しい」と、鼻眼鏡が顔を覆う。

 少し通り過ぎた辺りで、俺は振り返った。焦り方が尋常じゃなかったからだ。

 彼の向かいにいたチビ眼鏡が立ち上がる。

「大丈夫か!?」

「女子がヤバい。あの女子らはヤバい」

「眼鏡、眼鏡!」と、白デブも騒ぐ。

 頭の眼鏡をかけた後も、顔を覆っている。

「バティス、席を変わって欲しいでござる。あのご令嬢方は、拙者には眩し過ぎる故」

「いいよ」と、チビ眼鏡がトレーを持って立ち上がる。

「カルヴィン様!」と、ピンクちゃんに呼ばれた。

「ごめん、今行く!」

 駆け足で姉御達に追い付いた。

 何やねん、眩しいって?

 いくらうちの姉御が美人でも、顔を覆わなあかん程の事か? どんだけ女慣れしてないの?

 俺は不可思議に感じたが、話に夢中になっていた女子三人は気がついてなかったようだ。

 今日のパスタは二種類のソースから選べた。

 ジェル姉とブルジェナ嬢が、カルボナーラ。俺とパトリシア嬢がミートソース。

「午後の試験終わったら、ケーキ何頼もうかなー!」

 ウッキウキの姉御。

「まだ試験終わってないぞ。早すぎや!」

「この二週間大変だったんだから。早く羽伸ばしたい!」

「ケーキ食べたらどうします?」と、ピンクちゃん。

「遊戯室でトランプしない?」

「いいですね! ヴォルフ様とかお誘いしても大丈夫ですか?」

「いいわよ。カルヴィン、あんたも参加よね?」

「へい、承知!」

 ジェル姉の音頭で色々決まって、昼休みは終わっていった。

 午後の試験は、魔法防御。

 攻撃魔法試験と同じく魔法場で行われる。

 四元素魔法攻撃と、物理的攻撃からの防御力を見られる。

 攻撃を防御し切れない可能性も配慮して、試験を受ける学生の近くには別の先生が待機していた。

 四元素魔法攻撃及び物理攻撃担当は、三年の先輩達。今日の試験が終わった実技優秀者ばかりだ。

 "火"属性担当はランカ先輩だった。他もランカ先輩と仲が良い人らのようだ。

 三分の一が物理攻撃試験で、三分の二が魔法攻撃試験に別れた。

 一年生二人ずつ離れた場所に立つ。

 数メートル離れた場所から、二人の先輩が順番に魔法攻撃を仕掛けてくる。

 二種類終わったら、別の二種類の攻撃が来る。

 それが終わったら、攻撃魔法担当から少し離れた場所で、木製の剣を持った騎士系の男子学生が物理攻撃系を担当。

 一定レベルの魔法攻撃を防げれば合格。

 "地"属性の俺は、地面の土を使って"土の防壁"か"泥の傀儡"を出せばいいだけ。

 "風"系も"風の防壁"を張ればいい。

 厄介なのは"水"と"火"。何にもないところから水系統の何かや炎の壁やらださんといけないから。

 水は地面や大気に含まれているが、火ってどないしてんのといつも思う。

 でも、"火"って、なんも無い所でもちゃんと燃えてるんだよ。ほんと、魔法って不思議。

 試験受けてる学生の後ろに並ぶと危ないので、脇に並ぶ。

 魔法防御試験が終わって、物理防御試験へ。

 "地"属性組の前に"風"属性組が並んでいた。

 レディファーストじゃないが"地"魔法使用者は、女子組が固まって並んでいる。

 うちの姉御とキャロリン他同属性女子らが和気あいあいと話していた。

 ちゃんと試験受けてる奴見とけよと思うが……。

 一人終わって、待機場所に進むヴォルフ。

「ヴォルフ様、頑張って下さいね」

 ブルジェナ嬢がヴォルフに手を振った。ヴォルフも彼女に振り返す。

 ちくしょー、羨まし……じゃない、微笑ましい連中だ。あの二人が仲良くしてる限り、ヴォルフルートは絶対あり得ないのだから、寧ろ有り難がるべきだろう。

「それじゃ、行きます!」

 剣士学生が、助走を付けて木製の剣を振りかぶる。

 試験を受けてる男子学生が、"風の防壁"を展開した。

 バキっ

 ひゅん

 剣が折れた。そしてくるくる回転してヴォルフの方に飛んで行く。

「危ない!」

 ヴォルフは何かしら魔法を展開しようと手を前に伸ばす。しかし唐突な事で"風の防壁"展開エリアの内側に剣が迫る。

 やばい、刺さる……。

 俺以外にも思った奴はおったやろう。

 場の空気が凍った。

「ヴォルフ様――――っ!」

 おひぃさんの叫び。

 ブォッ

 ヴォルフの目の前に現れた炎の柱。

 腕が伸び、剣の破片を受け止めている。

 柱なのか?

 いや、違う。

 人の形をしている。

 柱が持っている剣が燃えた。そして消し炭になり消える。

「いっ、痛い……」

 ブルジェナ嬢が、左肩に近い胸の辺りを押さえて蹲っている。

「ヴォルフ!?」

「ブルジェナ嬢!?」

 呆然とするヴォルフに駆け寄る俺。

 ブルジェナ嬢に駆け寄る女子達。

 試験官の先生らも呆然としてる。

「先生! それ、多分、サラマンダーです」

 ランカ先輩の声。

「さっ、サラマンダー!?」

 先生は先輩と炎の柱をキョロキョロ。

「おば様から見せてもらった事がありますから!」

 俺がランカ先輩の方を見てる間に、気が付いたら炎の柱は消えていた。

 女子らに支えられて、汗びっしょりのおひぃさんが立ち上がる。

「試験ちょっと中止!」

 女の先生が叫んだ。

 先生らが三人こっちに走ってくる。

 女の先生が、顔色悪い女子学生に質問する。

「もしかして、左肩の下辺りが痛まない?」

 右の掌を横に当ててた先生を見て「はい」と、力なくおひぃさんは応えた。

「君、もしかしたら"紋章持ち"だわ」

 嬉しそうに先生が笑う。

「紋章持ちって?」「凄い!」「えーっ!」「信じられない!?」

 女子達の驚嘆を口々に放つ。

 男衆だって似た様な感じだった。

 俺とヴォルフは違っていたけれど。

 医務室にブルジェナ嬢連れて行かれて、試験は中断したが、三十分後には滞りなく再開された。

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