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第71話「姉のやらかしとゲームイベント」

 階段事件は恐らくゲームにも出てくる話だ。

 キッチンで皿を洗いながらお姉らが話してのは、この件なんやろう。

「あれってね、ピンクちゃんの発言で陰キャの行動が変わってくるんだよ」

「どう考えてもさ、性悪やってるよね? おひぃさんとついでに桃子に嫌がらせしてんねんで。蒲田行進曲もきっと」

「どうも違うんちゃうかって。というのも、『うちの姉上はやったのかな?』って陰キャに聞かれて、選択肢が『たぶん……』と『いえ、違うと思います』の二つ。『たぶん』を選択したら、陰キャに死亡フラグ立つねん!」

「私、『たぶん』しか出なかったよ」

「これね、陰キャとジェルのフラグを立ててないとあかんねん」

「えっ!?  性悪にもフラグあるんや!」

「攻略対象でなくても、各キャラに親密度フラグがあんのよ。それはチートでもせん限り見えないんだけど。姉弟の仲を取り持とうとする選択も必要みたい」

「うわー、やり直しやんっ!」

 その後の会話は覚えてない。

 ゲーム上の話も知らない。

 姉2よ、素直に「階段落ち」と言っといてくれ。「蒲田行進曲」言われても解らんわ!

 兎に角、俺の知ってるジェル姉は、階段から突き飛ばしたは、ない!

 それでいい。

 でも、やっぱり微妙な空気になる。

 夕食は、一緒に食わなかった。

 我が姉ジェルトリュードは、パトリシア嬢とブルジェナ嬢に迎えられていた。

 俺はヴォルフと飯食ってた。

 食堂の廊下で、先輩二人に睨まれたけど、知るか!


 夕食後、姉の部屋。

「何で謝るのよ! まるで私がやったみたいじゃない!」

 部屋に入るなり怒鳴る姉御。

「外や隣に聞こえるとあかん! 小さい声で話せ」

 俺は人差し指を自分の口元に当て、声を低くして姉に告げた。

「本当に私やってないのに! 私が」

「だから、お前に謝罪させてないやろ! 謝ったのは俺! 何でかわかる? お前がやってないからやぞ!」

「……」

「わざとでなくても、怪我をさせた方が重い事があるの! わざとなのか、そうでないか関係なく。あの女が怪しい事なんて解りきってたよ。でも、ケジメをつけといた方が、職員達の心象良くなってええ。入学して直ぐの時、俺ら先生に睨まれたやろ。過去、爵位上位の学生が下位学生に狼藉してたからやぞ」

 エマっちが使ってるベッドの上にどさりと座り、口曲げて不貞腐れる姉御。

 メイドは部屋の隅に立ったまま、無表情でいつもの位置で控えている。

「先生が俺の謝罪で手打ちにしてくれたのは、お前の普段の行いが悪くなかったからや。ヴォルフや、パトリシア嬢もブルジェナ嬢、それにエリオット殿下もお前を信じてくれてたぞ」

「えっ……」

「今回の事は、言いたくないが、先輩が仕掛けてきたんちゃうか?」

「仕掛けるって、何を?」

「お妃候補の繰り上げ当選の為のでっち上げ!」

「はっ!?」

「双子会長に言われたやろ。『気を付けろ』って。あの先輩二人のどっちかの関係者にお妃候補がおったんやろ」

「そんな……」

 真っ青な顔で怯えるジェル姉。

 俺は姉の傍に寄り耳元で重低音で囁いた。

「あんな、権力とは何よりも美味しいものなんだよ」

 びくりと身を捻り、薄く嗤う俺を見上げる。

「あんた……」

 怯えるとも怒るとも取れる表情で、眉間に皺寄せて彼女は俺を見上げた。

「半分冗談だよ。姉御の姻戚関係利用して悪さしようなんて考えてないって!」

「あんたねぇ!」

 からかわれたと判って、ジェル姉は拳を振り上げる。俺は軽く仰け反った。

「そんな大層な事出来る程、俺は度胸はありませんよ! ただ、領地の人らが、普通にご飯食べて、普通に働いて、普通に楽しく日々過ごせるようにあるにはどうしたらええか考えてるだけ」

「そうよね。あんたの事だから悪い風にはしないわよね」

 俺は姉の左肩に右手を置いた。

「俺はお前の味方だから。王子様達もきっとそう」

 左髪を掻き上げて彼女の目を見据える。

「だから、お前も俺を皆を絶対裏切るなよ!」

「うん。わかってる」

 姉も俺を見据え返す。

「なら良し!  そろそろ帰るわ。お見送りよろ」

「このシステム面倒くさくない? 帰るなら一人でもいいじゃない」

 ジェル姉はベッドから立ち上がると、スカートを整える。

「面倒くさいけど、他所の部屋に行かないようにやろ。過去になんかあったんちゃう?」

 二人で部屋を出て階段に向かう。

 途中、三階から一階直通のエレベーターに向かう二年先輩のグループを見た。楽しげな女学生達は、入浴用の白いバッグを持っている。その中に、件の白狐先輩の姿があった。

 すれ違った時、一瞬先輩がこちらを睨んだ気もしたが……。ジェル姉は気が付いていなかったみたいだ。

 階段にて。

「兎に角、気を付けろよ」

「わかりました」

 わかってんのか、そうじゃないのか、面倒くさそうに姉は応えた。

 階段駆け降り、自室に戻る。

 恐らくも何も、セレイナ・フォクシーヌはお妃候補の一人やろ。

 最終候補者は五人。ジェルトリュード、会長姉妹、女狐。もう一人は知らないが、既に別の人と結婚が決まってるらしい。風の噂で聞いた。

 女狐も会長姉妹も、婚約ゼロからやり直しは知らなかった。

 まぁ、これお願いしたの俺なんだけどな。婚約決まって直後に親父経由で王室に『何かあったら公平を期すため、最初から選定を行って欲しい』と進言したら、あっさり認められた。

 これで簡単には、姉御に手を出せんやろ。

 ざまぁみろ、あの白狐!

 公爵家のボンボン誑かして、姉御の後釜に座ろうとしてたんやろうけど、そうは問屋が卸すか!

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