第5話「やって来ました、魔法学園!」
転生に気付いてから十年。
俺達姉弟は、ゲームのシナリオ通り王立魔法学園に入学する事になった。
本当は悩んだけど、姉ジェルトリュードの側にいるのが自分の安全を確保する一番の方法だと思ったから。
毎年四月上旬くらいまでは、我が家は王都の別邸にいる。だから、学園への移動は早かった。
王都から遥か西にあるとはいえ、領地の本邸から王都の距離を考えたら、近い近い。
うちの本邸から王都まで馬車に揺られて数日かかる。おまけに、母親と一緒だと、馬車の速度を落として走らせるので、更に数日かかってしまう。途中、休憩したり、日が沈む前に到着した町や村のホテルや知り合いの貴族や豪農の家に泊まる煩わしさ考えたら、途中休憩に寄る街を一つ挟むが、計八時間我慢したら目的地着くって最高!
王都と領地の往復以外の場所に行った記憶がないので、学園の白い壁が見えてきた時には、二人で馬車の窓に張り付いて興奮してしまった。
親元から完全に離れ、しかも領地でない新天地での生活に、姉と俺は心踊らせていた。
馬車は正門の東門から中に入る。しばらく行くと、開け放された門が現れた。校舎が見えてくると、馬車は庭園のように植え込みが整えられた場所に俺達を下ろし、さっさと外に出てしまった。新入生が続々やってくるので邪魔になるからだそうだ。
王都から一緒のお付きの使用人の女と三人で白い校舎内に入る。
校舎一階のロビー。少し薄暗い。ホールの中心は、ランプに魔法の灯が灯っているのだけれど。
教職員とおぼしき人が二人。白いブラウスに黒いロングスカートの若い女性と、白いシャツの上に魔法防御用の黒いローブを着た中年の眼鏡のおっさん。テーブルに書類並べて、先客である他の入学予定者の対応をしている。
「めんどくさいわね」と、ふてくされる姉をなだめて、順番待ち。
我が家はまかりなりにも公爵家の人間。並ぶなんていう面倒事は、上級貴族なので、無いに等しいのが日常なのだが。
待ってる間、ジェル姉はキョロキョロと辺りを見回すも、はたと我に返り澄ました風を装った。貴族令嬢たるもの冷静を装わねばならないという事を思い出したらしい。
オペラ劇場や王宮以外で、割りと大きい建物は初めて訪れたのと、学校なるものが初体験なので無理はない。王都なら家庭教師がやってくるか、領地なら住み込みとかそんなんだったからな。
俺は平気でキョロキョロしてた。
感じ的には、現代日本の学校というより、小学校の頃に文化祭で遊びに行ったとある大学の古い校舎の様にも見えた。
『王侯貴族、平民。そんなの関係ねぇ。この学園の学生である以上、学園の方針にはきっちりかっちり従ってもらうから覚悟せよ』
事前には聞いていたが、上級貴族様のご子息ご息女を待たせるだけでなく、服装から平民だろうなとおぼしき入学予定者に対しても、貴族である我々に対しても、にこやかに且つ懇切丁寧な対応する職員二人にある種のヤバさを感じていた。
「手続きは終わりました。このまま後ろ真っ直ぐに進みましたら、学生食堂がある講堂校舎の向こう側に、学生寮の建物があります。クライン様のお付きの方は既にお待ちですので、後は寮の職員の指示に従って下さい」
女の職員に言われ、三人で学園の西側にある学生寮の建物に向かう。
学園内。敷地は、外園と内園と呼ばれるエリアで構成さてれいる。
校舎や学生寮は内園にある。
講堂校舎を中心に、東に校舎、西に学生寮(寮職員及び付き人居住棟含む)、北に教職員寮他教務課と売店がある実験棟、南に室内訓練棟が配置されている。
各建物は講堂中心として+の形に、屋根付きの渡り廊下で繋がってた。渡り廊下は風の魔法がかかっているので、空気の壁で多少の嵐でも雨風は避けれるのだとか。
講堂校舎一階の食堂を通り抜けても良かったが、小道沿いに北側を通って寮棟に向かう。
制服の女子学生がすれ違いざま「ごきげんよう」と挨拶してくる。「ごきげんよう」「ちーす」と返した。
「ごきげんよう」
まるでなにかのアニメのお嬢様学校のようと、思いつつ。
学生寮到着。
玄関ホールに入ると、うちのメイド服を着た比較的背の高い眼鏡の女が立っていた。
「お待ちしておりました。お嬢様、お坊っちゃま」
鉄面皮のエマ。と俺が勝手に心の中で呼んでいるメイドのエマの案内される。
「男子寮は二階になります」
「あんたとは一旦ここでお別れね」
女子寮は三階で、エレベーターに乗れるのだとか。
夕食前に食堂前で待ち合わせの約束をして、俺達は一時的に別れた。