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第66話「おひぃさんと茶をしばく」

 墓地の事件から一週間くらいしたある日。

 授業が終わって、大教室の前の方にパトリシア嬢と二人で座っていたブルジェナ嬢の所に行った。

 トントン

 机叩いて、片付けをしている彼女を呼ぶ。

「はい?」

「今日、お暇?」

「ええ。まぁ」

「なら、デートしましょう!」

 一瞬沈黙し、おひぃさん顔真っ赤。ピンクちゃんは、両手で口許を押さえている。

「違う! 言葉の綾や! ブルジェナ嬢に聞きたい事あるから、二人でカフェテリアでお茶しようって話や」

 二人は我に返る。

「そうですよね。カルヴィン様があたしをデートに誘うなんて意味がないですから」

「デートって、学園内のどっかやろ。ベンチに座ってイチャイチャと。公衆の面前で何すんねんって話やんけ。そもそもデート目的の外出届けなんて受理されんし」

「私は?」

「パトリシア嬢、ゴメン! 今回は、おひぃさんに相談したい事があんねん。いつか穴埋めするから堪忍して」

「そうですか……。わかりました」

 おひぃさんに耳打ちするピンクちゃん。何故かニヤニヤしている。

「違うって! この前のはそんなんじゃないから」

 妙に慌てるブルジェナ嬢。

 んっ、この前の?

 気にはなるけど、俺には関係ないか。


 放課後。カフェテリア。

 今日は、あまり学生がいない。

 俺はカフェオレ。ブルジェナ嬢は、お茶とセットのシュークリームを頼む。勿論、俺の奢りです。

「持って行きますから」と、バイトのエイミー嬢。

「よろっ!」

 俺らは、外のテーブルに着いた。

「単刀直入に聞くね? うちの姉上、どうよ?」

「どうよと言われましても……」

 俺、彼女の方に前のめりになり小声で語る。

「ブルジェナ嬢に何かしてない? 嫌がらせとか?」

「はっ!?」

 おひぃさん、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して「何もされてません!」

「ほんまに?」

「本当です。寧ろ仲良くしていただいてます。パティに聞いてもらってもかまいませんよ」

「パティ?」

「パトリシア嬢の事です」

 ピンクちゃん、仲良くなるとパティって呼ばれるや……。

「そうか……。なら今度、パトリシア嬢にも聞いてみよ」

「ジェル様の事、信じてないんですか?」

 不安げなおひぃさん。

「うんにゃ。信じてるよ。ただ百パー信じない。九十九は信じても、一パーは、疑いの余地を残してるだけ」

「ちゃんと信じて下さい……」

「へい……」

 ちょっと気まずい。

 彼女に姉御について聞かなければならなかったのは訳がある。

 ゲーム本編において、当初ジェルトリュードは、主人公ではなくブルジェナに嫌がらせをしていたようだ。主人公は、彼女を庇ったことで目を付けられる事になる。

 学年末にあるプロム前の断罪式は、ブルジェナへの執拗な嫌がらせが理由のようなので、今、確認せねばならなかった。

 男女別の授業や、放課後以降、俺はジェル姉とは別行動。四六時中見張ってるわけにもいかないから。

「ジェル様は、アナベル様達と一緒の時もありますけど、その時も何もありませんよ」

「三人組のあの女さぁ、めっちゃ差別するよな」

 前のめりにで小声の俺に、「えぇ、まぁ」と、苦笑いのおひぃさん。

 やっぱり。なんかやらかしよったな、あの似非白雪姫……。

「とにかく、ジェル様はお優しいですよ。ご姉弟なんです、信じて下さい」

「そやな。ちょっと安心した」

 ブルジェナ嬢、安堵のため息をついて微笑んだ。なんか可愛い。

「で、話変わるけど、この前の墓場の件」

「本当にすみませんでした。あたし、気を失っていたから……」

「気にしてないよ。ヴォルフなんか腰抜かして動けなくなってたの考えたら、女子が気絶するくらいね」

 なんかお互い苦笑い。

「で、おひぃさん、実は二種属性持ちやったりする?」

「いえ。"風"属性だけです。母は風使いでしたが、父は魔法を使えない人でしたから」

「うーん、そうか……」

 墓場の骸骨共を焼き払ったあの炎の柱は、なんやったんやろう……。

「あのー、カルヴィン様が時々あたしの事を『オヒィサン』と呼ばれますけど、どういう意味があるんですか?」

「あぁ、あれね……」

 前世で俺の姉二人が、ゲームキャラのブルジェナ嬢を「おひぃさん」と呼んでいたなどと説明するわけにもいかず……。

「俺の知ってる地方の方言で、お嬢さまって意味。他にはお姫様って意味もある」

「あたし、『お嬢さま』って柄じゃないですよ。ましてや『お姫様』だなんて。ただのパン屋さんの娘ですから」

「でも、今は海運業の親戚に引き取られてるから、お嬢さまではあるやろ」

「学費も全部払ってもらってるので、そうかもしれませんね。でもお嬢さまっていうのは本当のお金持ちか、貴族のご令嬢ですよ」

「でも、俺にとってはおひぃさんって感じがするので、おひぃさんって呼ばせてもらう」

「もう、勝手にして下さい」

 二人で笑いあってるところに、「ご注文の品お届けしました」と、エイミー嬢がお盆持って来た。

「遅いっすよ! エイミー嬢」

「すみません、お湯切らしてて」と、素早くカップと皿を並べる。

「ところで、二人で何のお話で?」妙にニヤニヤしてくる。

「この前の墓場の事件は大変やったねって話と、うちの姉御はいかがですか?って話」

「ジェル様ですか?」と、ブルジェナ嬢と顔を見合わせ、「特に何もないですよ」「ほら、ないですって」

 情報通のエイミー嬢ですら気にしてないなら、大丈夫やろ。

「墓場の件と言えば、大変でしたね」

「カラスで見てた?」

「途中から。骸骨が燃えて、土人形で負傷者抱えて逃げてたところを」

 おひぃさんが、両手で顔を覆って俯く。

「恥ずかしくない、恥ずかしくない。デブのドゥエインよりましまし。あいつ、何にもなかったルートなのに、勝手にひっくり返って捻挫して帰ってきましたから。誰だよ、あいつメンバーに入れたの!」

 白デブの怪我の理由、それ?

「ちょい、それ聞きたい。お茶奢るから、聞かせて! 今、客少ないからええやろ」

「奢りですか? あざーす」

「一番安いやつな!」

「えーっ!」

「お前、どさくさに一番高いやつ頼みそうやから、最初から牽制しとかないと」

「わかりました」

 ちょい不満そうだが、仕事の邪魔したらあかんしな。情報料としたら安いか。

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