第65話「似非姫達の内緒の集会」
「ちょっと、キャロリンさん! 最近、調子に乗ってらっしゃいませんこと?」
聞き覚えもなにも、似非三姫の似非白雪姫の声がする。
枝の下。少し離れているが、似非三姫がいた。
おどおどするキャロリン嬢に詰める似非白雪姫。
日和見なのかキョドる似非シンデレラ。
ようは、この前の瘴気の墓地事件についてだ。
キャロリンは調査メンバーに入っていたが、似非姫二人は控えにすら呼ばれなかった。
「わたくしがジェル様のお側にいられたら、それなりに役に立てますのに」
「行かんで良かったぞ、お前ら!」
「「キャーっ!?」」「うわっ……」
俺が葉っぱの中からニョキっと顔出したら、三人娘は悲鳴をあげた。
「カルヴィン様、何故こんな所に……」
白雪姫とシンデレラが抱きあって震えている。
鉄棒の前転みたいにして木から降りる俺。
「小鳥さんと戯れてたの。で、ジェル姉の役に立てるって、お前さんの魔法値いくらだ?アナベル嬢!」
厳しめな俺の口調に似非白雪姫は口ごもる。
「にっ、二百二十越えたくらいです……」
「魔法は? "水錬成"の水分量は?」
「バケツ一杯くらいなら……」
「"氷結"魔法は?」
「小さな氷なら作れます……」
水気のあるものを凍らせる"氷結の矢"は、"水"属性魔法だと"水錬成"より上位の魔法になる。
「はぁっ~。話にならんわ」
俺は呆れてため息ついた。
「キャロリンから聞いてないのか? 俺らのチーム、骸骨に襲われてめっちゃ怖い目にあってたんだぞ。先輩は転んで気失うし、ヴォルフは腰抜かして動けなくなるし、ブルジェナ嬢も倒れちゃうしで。キャロリンが土人形で先輩抱えて逃げてくれなかったら、俺らどうなってたか」
アナベル嬢は、小さくなって俺から視線を反らした。
「それに、いつも教室の後ろの方に座ってる平民三人組男子の奴で、選抜された白デブ君に至っては、『何で選ばれたー!』って喚いてたし、おまけに現場で捻挫して自分の土人形に背負われて帰還する始末だぞ!」
「はぁ……」
「お前、キャロリン馬鹿にしてるみたいだけど、同学年の"地"魔法使いならうちの姉上の次に強ぇよ。短期間で姉御のでかい土人形の譲渡操作極めてたからな」
「……」
「妬み、嫉み、僻みも上昇志向の一種だぜ。でも、努力しないで、頑張ってる人に難癖つけるって、ちゃうやろ」
「訓練の時は、属性別に離れていますから、わたし達事情を知らなかったもので……」
似非シンデレラが援護してきたか……。
「次回、選抜メンバーに加わりたいなら、今後めっちゃ頑張らないとあかんけどな。でも、あんたら、参加しない方が絶体ええぞ……」
「はい……」
「これで、失礼します。キャロリン、アナベル様、行きましょ」
ベリンダ嬢に促され、二人は内園方面に。
「あっ! ごめん、アナベル嬢! ちょいいい?」
「はい?」と、不安げに振り向く似非白雪姫。
彼女のもとに駆け寄って「水くれる?」
「はっ?」
「" 水錬成"で、スープスプーン一杯分の水くれる?」
俺は彼女に左手を差し出し、掌を指指した。
「その程度でしたら……」
俺の手の上十センチくらいに、彼女の右手指二本。
「"水錬成"」
指と掌の間に、プカプカ揺らめく水の粒が次第に大きくなっていく。
そして、五百円玉より小さな球体になったあたりで、俺の掌にばちゃりと落ちた。
「おお! 理想の量! お水もきれい! ありがとな!」
俺は木の上に登って、枝の上から似非三姫に手を振った。
少しの"錬成"くらいなら、お目こぼしはあるらしい。職員らに、何か言われたら俺の責任にしとけばいいし。